奇妙な論理の櫻井センセ --- ヨハネス 山城

アゴラ

憲法(ケンポー?)談義で資料を集めていると。結構「ト(トンデモの略:リンク参照)」が出てくる。たいていはゴミやけど、面白そうなのがあったんで、紹介しつつ突っ込んでみよう。

櫻井よしこ、という評論家がいる。「右打席の福島瑞穂」を狙っているような芸風のセンセやけど、今回は大空振りをしている。例の憲法改正にからんで、「まず96条(最高法規)から、行ってしまえ」という話や。

前回書いたように、本格的な改憲はコストがかかりすぎて無理やから、関連法令が少ないこの部分をいじって、改憲公約を一応は果たそう、という自民党の姑息な意図が丸見えになっている議論やな。


櫻井センセは、日本の憲法は改憲が難しすぎると嘆いて、ついにはとんでもないことを言い出さはった。

アゴラでも時々、お名前をお見かけする某先生(不名誉な話題ではないから、名前を出してもいいのかの知れんが、ゴミの相手に無断でお付き合わせるわけにはいかないので、あえて匿名)が、「アメリカでは日本よりも改憲の条件が厳しい」と言ってはることに、かみついている。

曰く

M(原文実名:不名誉な<以下同文>)日本大学教授の論をかりれば、米国では議会の定足数(過半数)の3分の2、つまり総数の6分の2で憲法改正発議が可能である。
他方、同じ3分の2でも、議会の「総議員の3分の2以上」が日本である。日本の憲法改正基準は米国に比してだけでなく世界一厳しく、基準の緩和は自然なことなのだ。

MSN産経ニュースより

これを原文通りに解釈したら、アメリカでは3分の1(6分の2と同じやとセンセも分かっておるやろな)の賛成で、改憲案はアメリカ議会を通る。と誰でも思う。

ワシントンの下院議場、颯爽と現れた改憲派の145名の勇士は、多数を占める頑迷なる旧守派290名の激しいヤジをもろともせず、採決動議を提出。強行採決に持ち込み、ここに改憲案は上院に送付されたのであります……、てなことがあるわけないやろ。

理論的には、3分の1でOKということはあり得る。何らかの理由で、半数の議員が欠席していた場合だけの話や。憲法修正てな大事な案件の場で、そんなことは考えられへんがな。確かに、この部分は日本の方が緩いと言えなくもないが、欠席議員の扱いだけの問題や。

しかもこれは、発議をするときの話や。この後に改憲には重大なハードルがある。アメリカという国は州の寄り合いやから、実質的な審議は州議会でも行われる。それも「合衆国議会の発議から何日以内に承認しないと自動承認」てな規則はないから、わずか13の州が議案を店ざらしにしたら、大統領でもどうにもならん。

実際、気候風土もイデオロギーもまるで違うアメリカ各州のうち4分の3の議会で承認を得るというのは、良くも悪くもノリで動きやすい日本の国民投票で3分の2を取るより、はるかに難しいことやろ。

逆に言えば、この条件の中で真摯に論理を構築し、関係方面の利害を調整し、何回も改憲を行ったアメリカの民主主義の底力は、あなどれる物ではない。現在の我が国の改憲派に、それだけの知性と根性があるとは思えへんのやがな。

ついでに言うと、日本の憲法改正について、「議員の3分の2」という規定を「出席議員の3分の2」とすることも、ワシは賛成できん。なぜなら、ぎりぎりの評決が予想されるとき、反対しそうな議員に対するテロが、極めて有効に作用するからや。

ノリノリのファシズムで近所の国に大迷惑をかけた前科のある身なんやから、日本国の憲法の安全装置は普通の国よりガッチリ作っておかんと、具合悪いやろ。そやから「国会も国民も2分の1でOK」というのでは、危なすぎる。数年前、民主党がどんな評価を受けていたかを考えたら、このことは十分わかると思うがのう。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト