あとからジワジワ来ますで --- ヨハネス 山城

2013年06月08日 06:00

つくづく、言い逃れというのは難しい。場の雰囲気で、調子のええことを言うと収拾がつかなくなる。そうかといって見え見えの責任逃れをしていると、黙っておったほうがまだマシ、ということになりかねん。

「差し迫った健康リスクはない」懐かしい言いぐさやな。これを聞いて、安心するヤツはおらんやろ。「今は大丈夫ですけど、先々のことは知りませんよ。きっとあとからジワジワ来ますから、せいぜい苦しんでください。私は知りませんけどね」という本音が、聞こえるような気がするからな。

「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」やて。他人のことやと思って、よくぞ無責任なことを言ったもんやな。まあ、伝えるメディアの責任なのかも知れへんけどな。


確かに、言ってること自体にはウソはない。差し迫ったリスクがあるのに住民を放置するなら、政府も自治体もいらん。さすがにそんなことはないやろ。

けれども、長期的なリスクに関してはどないなているのか。よっしゃ、国連や政府の科学者が誤魔化しているなら、ワシがホンマのことを教えたるわ。「全くわからん。今の科学に、それほどの能力はない」とな。

まず、なぜ福島の空間放射線が高いか考えてみる。事故で原子炉から放出されたチリが飛散しているからや。空気中のチリが均一に分布していることは、絶対に有り得ない。だから、地域の放射線量の平均が1mSv(ミリシーベルト;以下同様)だとしても、場所によって数倍の開きがある。いわゆるホットスポットという現象やな。事故後一貫して、100mSv超えの地点が、警戒区域外のどこにもなかったとは、とても言えないやろう。それがどこかも、正確には分からんわけや。

人体への影響に関しても同じ。「人体が微量の放射線を何年間も継続して浴びたらどうなるか」ということに関して、まともなデータが有るはずがない。研究のしようがないからな。人体実験は無理やから、戦災や事故で被曝した人のデータから割り出すしかない。ただしこの場合、被曝量は、かなりいい加減な推定しかできない。

けれども、考えてみれば、「微弱ながら放射線を浴びている環境に長年住んでいて、ある時点で発見された」というような「都合のいい」例が、そうそうあるとも思えない。だから、世界中の放射線学者が福島に注目しているというのが、残念ながら現状やろう。

動物実験もあまり役に立たん。平均寿命が短い生物は使い物にならん。体のサイズ、体毛の有無、食性、統制すべき条件が多すぎるがな。類人猿を大量に集めてきたとしても、どうやって被災地の空間線量を再現するんやろう。

警戒区域内で、ゴリラやオランウータンを大量に飼育するぐらいしか、やりようがないと思うが、ここまでやっても、もし被害が確認されてから対策を取って、間に合うかどうか心許ない話や。

被曝のしかたということでも、あいまいさは出てくる。同じ放射線を浴びるにしても、上からなのか下からなのか、着衣の種類、皮下脂肪の厚さ、大きく影響しそうな条件はいっぱいあるけど、そこまで、研究の手が回らないと言うしかない。

自然放射線との対比で安全という議論もあまり信用できない。自然放射線自体が、どれだけ危険なものか、全く分かっていないからや。通常見られるガン患者のうち、アスベストの中皮腫、化学薬品の胆管がんなど、かなり因果関係がハッキリしつつあるものもあるが、ほとんどのガンは原因不明のままや。

ガンに自然放射線がどの程度関与しているのかは、当然不明や。もし、自然放射線被曝と因果関係のあるようなガンがあったとしたら、そこの事故の影響を上積みすれば、発症確率は数割増えることにもなる。

地球上には自然放射線量が10mSvを超える場所もあるのだから大丈夫、と言われても、生まれた時から(あるいは先祖代々)そういう場所に住んでいる人と、ある日突然、線量が増えた場合とを同等に扱うことが出来るのかどうか、これもわからん。

だいたい、そういう地域が、本当に日本と同程度に安全かどうか、心許ない話や。

ワシにしては、歯切れの悪い文章が続いておるやろ。一番、言い逃れをしてるのはワシ自身かもしれんなぁ。そやけど、分からんもんは分からんのじゃ。

低線量被曝の影響について、少なくともいまのところ(また、言い訳してるな)、「分からん」以外の事をいうヤツがいたら、そいつはウソつきや。

「分からん」の前に「おそらく大丈夫だけど」を付けるかどうかは、その科学者の趣味や。趣味と言って悪いならイデオロギーと言い換えてもええで。「おそらく」にも「大丈夫」にも、科学的な定義などないのやからな。

無理にでも安全評価をしなければならない場合には、被災確率を計算することになる。「この地域に住み続けた場合、○○ガンになる確率は○万分の1」というようなやつやな。上に書いたように、あいまいな問題が多すぎるので、ワシとしては、こういう無理矢理出したような数字を相手にする気はない。

では、もし科学的に妥当な方法で、「この地域で○○ガンになる確率は100万分の1」と出たとしよう(おそらく有り得ない話やろが)。サイエンティストを名乗るワシとしては、納得せなあかんやろう。

実際、飲酒・喫煙(含む間接)・日光浴、食事などで、はるかに高いリスクを日常的に取っていることも認める。そやけど、自分なりのメリットの代わりに受けるリスクと、いきなり降って湧いたリスクとでは気分が違う。そうした地域に気持ちよく、家族と住めるかと言えば、無理な話やろう。

食品や不動産など、選択の余地のある物を考える場合、こういう小さいけれども確実な危険を含むということは致命傷になる。ガンになる確率はわずか○○分の1と言われて、わざわざ、そこに家を建てるヤツはおらんやろ。

福島県東部(いわゆる常磐地域)は2050年までに、半分ぐらいの地点が無住化する、と言われている(国交省「国土の長期展望」中間とりまとめ)。ちなみに、これは震災前のデータや。地域の消滅がジワジワとやってきている。ことの深刻さをわかってもらえたかのう。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト

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