尖閣問題は「棚上げ」で無く「現状維持」で --- 帆保 洋一

アゴラ

野中広務元官房長官は先般、北京で開いた記者会見で、日中国交正常化(1972年9月)の直後、正常化交渉にあたった当時の田中角栄首相から「尖閣諸島問題の棚上げを日中双方が確認した」と聞いた、と発言した。

しかし、もし日本が「棚上げ」の意思表示をすれば「領土問題は存在しない」との従来の主張は崩れることになる。


近年尖閣諸島への中国の領空・領海侵犯が繰り返され、時には日本側との一触即発の状態が生じる状況にある。野中元官房長官の尖閣に対する今回の発言は、この危険な状況を避けたいとの一心の思いから、あえて「棚上げ」に言及したものであると思われる。

中国は近年、驚異的な経済成長を遂げた。いかに貧富の差があろうとも、戦乱によりこの現在の経済状況を無に期するようなことは避けたいのが心情であろう。我が国とて戦争を避けたい心情は同じである。

「尖閣くらいのことで戦争まで発展することはないだろう」と、一抹の不安を抱えながらも日中両国とも、やや高をくくっているように思われる。しかし、歴史をひもとくに、時として人間は感情をコントロールすることができなくなり、(結果は火を見るより明らかであっても)理性を超えて戦争に突入する。人間はそれほど愚かな心情をも、持ち合わせている。

将来中国の一党独裁が崩れたとしても、ここまで上昇した経済が簡単に崩れ去ることはないであろう。また中国に大いなる政変が生じたとしても、長年国民にうえつけられた「反日」の火がそうそう簡単に消え去るものではないだろう。(今はまだ想像すらできないが)よほどの時間が経過し世界の国民国家のありようが変化しない限り、我が国に対する中国の言動は現況のままであろう。

中国の言動がいかに理不尽であろうとも、これをただ突っぱねるだけで戦争の危険性を除去できるものではない。世界の歴史は理不尽であるが故に戦乱にまみえた歴史ではなかったか。このまま一触即発の危険性を除去することなく双方の言い分だけを主張しあいながら放置しておくと、いつか取り返しのつかないことにもなりかねない。ごく最近、中国側から尖閣についての「棚上げ論」が発せられたやに聞く。我が国としては尖閣の領有権を「棚上げ」にするわけには行かないだろうが、紛争を避けるために「現状維持」の状態を続けることは可能ではないだろうか。

我が国としては現状のままを保持し、今尖閣に自衛隊を配置するなどの特段の措置は講じない。中国としては、「接続水域」からは空も海も日本側には進入しない。このような話し合いを進めることは出来ないものだろうか。今はこうして時間を稼ぐしか方法がないのではないだろうか。

時代が進み物心両面から両国間の親交が深まり、長い長い年月を経て日中両国の現在のぎくしゃくした状況が、いつしか忘れ去られる日が来ることを真に待ち望みたい。

帆保 洋一(ほぼ よういち)
IT講師 & キャリアコンサルタント
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