真の国際化の呼び水となる二つの巨額買収 --- 岡本 裕明

アゴラ

巨額買収のニュースが二つ、飛び込んできました。

一つはソフトバンクによるクリアワイヤを含むスプリントの買収がほぼ成功しそうなことです。これはソフトバンクの買収案に対抗してアメリカのディッシュ社がスプリント及び、クリアワイアそれぞれに買収提案をしていたもので、一時期はソフトバンクも防戦と万が一、失敗したときの対策を打ち出すなどの動きがありました。ディッシュの会長、チャーリー・アーゲンは大富豪として有名な反面、業界の嫌われ者としてはもっと有名でメディアもそっぽを向くほどといわれています。そのやり口も独裁的で今回もどんな策を打って出るのか読みづらいところもありました。


事実、当初のスプリントへの買収をあきらめるとスプリントが大株主のクリアワイアの買収を図るなど、なるほど、いやみなアプローチでさすがの孫正義氏もむっとしていたのではないかと思います。

しかし、孫氏がスプリントをほぼ手中に収めたその経営手腕には改めて拍手を送りたいと思います。ソフトバンクがスプリント買収を発表したとき、ソフトバンクの株価はストップ安まで売られました(私はその翌日に同社株を買いました)。ところが市場の評価はいい加減なもので、最近ではソフトバンクの買収に一喜一憂するのは株価のほうになっているのです。同社が携帯事業に参入するときも借金まみれと酷評されたのですが、今は携帯会社のリーダー的存在となっていることにはどうコメントするのでしょうか?

もちろん、スプリント買収がソフトバンクにとって茨の道のりであることは間違いありません。しかし、それを乗り越えればそれこそ圧倒的な地位を築くことが出来るのです。

さて、もう一つの大きな買収は三菱UFJによるタイのアユタヤ銀行を約4000億円で買収することでしょう。邦銀がアジア大手銀行の直接経営に乗り出すのは初めてだそうですが、これは日本の金融機関がアジア地区での存在感を高めるためには絶好の戦略だと思います。

日本のメガバンクではもっともコンサバな体質の三菱UFJがこのところ最も多くの買収を進めています。この5年間でモルガンスタンレーに9000億円投資したのを始め、ユニオンバンクが3511億円、パシフィックキャピタルに1514億円と大型買収が続いています。三井住友とみずほも本来ではもう少し積極攻勢に出たいのでしょうけど三菱UFJに押されている感があります。多分、両行とも今後東南アジアでの戦略的地位確保の為に同様の買収を図る戦略に転換すると思われます。

そうであれば、私は今回の二つの大型買収は日本企業を覚醒させるには素晴らしい機会だと思います。以前にも書きましたが、日本の貿易収支は今後、慢性赤字になる可能性があります。しかし、それは日本が成熟した証であり、所得収支の黒字幅は円安も手伝い、今後、飛躍的に伸びるとみており、貿易大国日本のスタンスからは完全に脱却することになるでしょう。ならば、日本の企業が海外でどうやって運営し、稼ぐかを改めて見直す必要があると思います。

私は日本の数多くの国際的大企業の中でもっとも進化している会社の一つにJT(日本たばこ)を挙げたいと思います。世界本社を作り、役員も実にさまざまな国の出身者を擁しています。日本人も外国人と混じって経営をするというスタイルが今後、確実に必要になるでしょうし、そういう教育を受けている人の需要は爆発的に増えるでしょう。

日本人留学生が少ないといわれていますが、多分、これから数年の間にまるで今までのトレンドが嘘だったような変化を見せると思っています。また、「洋行帰り」と揶揄された海外駐在員の帰国者もこれからは陽が当たるようになるのではないでしょうか?

私はアベノミクス以上にこのような企業の動きに日本の将来への大きな期待を寄せています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。