盛り上がっている住宅購入を冷静になって考える --- 岡本 裕明

アゴラ

マンションなど住宅を駆け込み買いする人が増えているようです。理由は金利が上昇する懸念と消費税引き上げ前の駆け込みが主因のようです。さて、今、住宅は買うべきか、考えてみましょう。

大手銀行では昨今の長期金利上昇を受けて長期固定ローンは1.8%から2.0%あまりに上昇しています。3000万円のローンで金利が0.2%上昇すると単純計算で年間6万円の負担増となります。またアベノミクス効果でインフレとなれば更に長期金利が上がると想定され、住宅ローンの長期ローンにも当然影響を受けます。そこでこれ以上住宅ローン金利が上がるならば今のうちに借りておこう、というのが駆け込みの主因です。

この動きは洋の東西を問わず、またいつの時代も同じような軌跡を踏みます。


では、長期金利は本当に上がるのか、といえば私はまだ疑心暗鬼であります。まず、アベノミクスが本当に効果を表すのはまだ先です。消費が回復し、企業業績が本格回復し、それを受けて設備投資に踏み切る流れを受けて金融緩和の出口を模索するというプロセスは目先のことではありません。

特に注意しなくてはいけないのは今、高額商品が売れているとされていますが、これは株が上昇したことによる初動効果に過ぎないということです。つまり、持続性と安定感のある消費の増大のシグナルとは言えないと思います。なぜなら、本当に消費に動ける人は株式投資などを通じてキャピタルゲインを享受した人や塩漬けになっていた株式が売れてキャッシュフローを生み出した人に限られてしまうからです。いくらデパートで高級腕時計が前年比何倍も売れているといわれても母数は小さいはずです。が、メディアの報道はその点を伏せています。つまり、お祭り気分が煽られているだけのように思えます。

次に消費税引き上げをにらむという点では確かに来年3月までの住宅引渡しか今年9月までの請負契約締結が前提となりますのでこちらについては心理的に訴えるものは大きいと思います。

しかし、こちらも歴史は物語ります。補助金打ち切り後や消費税引き上げ後は必ず需要が大きく落ち込み、結果として売り手は大幅値引きを余儀なくさせられるのです。つまり、今、競い合って定価で買う住宅がよいのか、消費税引き上げ後に買い手市場のもと、営業マンに数百万円の値引き交渉をするのがよいのか、という話です。

更に2015年の相続税率引き上げに伴う日本の土地所有の変化の兆しは考慮すべき点かと思います。

東京23区などに不動産を持つ高齢者とその相続予定者は今、戦々恐々としています。それは関係ないと思われていた相続税が自分たちの身に降りかかってくるからです。現金がなければ物納になる、というリスク、更にそれならば不動産で相続するより生前に売却して被相続人を楽にするのもオプションになってくる発想です。仮にその動きが出れば不動産は供給量が増えますから不動産価格上昇を抑えます。

最後に不動産開発業者が今、必死に仕込んでいる土地の開発は消費税上げ後の発売になります。90年代初頭のバブル崩壊のときもそうだったのですが、高値で仕込んだ土地のマンション開発が大幅に売れ残り、値引きして処分セールを強いられました。消費税上げ後に起こりうる販売低迷が結果として開発業者を苦しめる可能性は大いにあります。

不動産は今が買いというメディアなどのトーンも見受けられますが、私はかなりクールに受け止めております。基本に立ち返れば少子化の日本、建物の高層化による土地価値の希薄化を考えれば不動産価格が一律に上がることはないというのが長年不動産の仕事をしている者からみた絵図です。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年6月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。