安倍総理に期待と懸念が交錯するワシントンの本音

田村 耕太郎

「アベノミクスに専念してほしい」

ワシントンから長年付き合いのある畏友たちが来日。大学の同窓もおり、付き合いも長く議員時代からお互いをさらけ出して付き合ってきたので、旧交を温めながら彼らの本音を探った。結論から言えば、安倍政権には不安と期待が交錯している。経済政策には一定の評価を見せるが、彼らの不安の種は外交安全保障。中国と直接対話ができない状況を非常に危惧していた。彼らによると「中国は尖閣問題を棚上げしたいようだ。問題は日本だ」という。

一言でいえば、アメリカ政府は安倍総理の人の好さを心配している。


「菅官房長や内閣参与は世界経済と世界平和のために日中関係を建て直す重要性をわかっており、それを安倍総理に伝えている。安倍総理も彼らとの対話で日中関係の重要性に配慮すべきことを理解している。しかし、安倍総理は優しすぎる。付き合いの長い保守色の強い友人議員たちに囲まれると彼らの顔を立てるために、隣国に対して刺激的なコメントをしてしまう。それを保守色の強い議員がメディアに漏らしそれが中国に聞こえてしまう。アメリカへの配慮もあって、せっかくこれ以上の対日関係悪化を避けようとしている中国政府のメンツをつぶしてしまう。」という。

「いつまでたってもアジアの二大経済大国が直接対話できないことは成長センターアジアにとって悲劇だ。それ以上に尖閣付近で何か両国が想定しえない民間や軍の現場レベルでアクシデントがあった場合、日米中という世界の三大経済大国が矛先を交えることになるかもしれない。そうなったらアベノミクスも吹っ飛ぶ。とにかく日中が正常な対話を取り戻し、アクシデントが起こらないような状況を作ってほしい」と繰り返していた。中国の台頭でアメリカにとっての日本の存在意義は高まっているが、結果として日本が中国を刺激してしまいかねない状況ははっきりいってアメリは厳しく評価している。

憲法改正が問題なのではないようだ。「憲法改正は日本の問題だし、どの国でも憲法は変えているのだから日本が憲法改正するのは当然のことだ。憲法改正が問題なのではなく、安倍総理が保守色の強い議員たちに乗せられて、隣国を刺激するような発言しないでほしい。結果的に結局彼らは、安倍総理の米国と中国での評価を引き下げてしまっており、総理の贔屓の引き倒しになっている。」

ワシントンの対日チームの第三の矢である成長戦略への失望は隠せないが、「安倍総理には経済に専念してほしい。せっかく経済政策を頑張っても、最大の貿易パートナーである中国との関係を悪化させてしまったらアベノミクスも台無しになる。現時点で経済を強くしないと日本には人口減少と高齢化という深刻な課題がある。アメリカの出口戦略や中国の金融政策が、日本経済に大きな厳しい影響を与えてしまうかもしれない。消費税増税も待ち構えている。そのためにも経済を強くして若者の雇用と所得を増やしてもっと安心して子供が生める社会にしてほしい。日本への投資を本当に増やしたいなら日本が人口減少と高齢化を乗り切れるかもしれないと思わせるくらいの経済成長を実現すべきだ」と締めくくった。

余談になるが、ワシントンの住人はあらためてタフだと思わされた。徹夜明けの作業の後の懇親だったのにしっかり睡眠をとっていた私より元気に半日もしゃべり続ける彼らに呆れた。議員時代にシンガポールでのIISSアジア安全保障会議に出席後、日本に帰国する時に遭遇した光景を思い出した。私はアーミテージ氏が隣の席だったが、7時間のフライト中、彼は隣の国防総省の高官とずっとしゃべっていた。私はウトウトしていたが、彼らは一睡もせずにしゃべり続け、車に乗るまでもしゃべり続けていた。7時間もしゃべり続け、全く疲れも見せずに爽やかに握手をして別れを告げた彼らを見送りながら、「こんな連中を相手に戦うのは無理だ」と思わされたのだ。

彼らのように、アメリカ政府やホワイトハウスの中あるいは近辺には、日本で勤務・留学して日本を好きで精通している、中には子供が日本で生まれたという人間が少なからずいる。こういう人たちは本気で日米関係をよくしたいと思って行動している。彼らの意見と彼らの存在そのものを、日本として、もっと大事にすべきだと強く思った。

話はそれたが、アメリカ政府の本音は「安倍総理には期待している。その内容は参院選後も経済回復第一で、アベノミクス貫徹に専念してほしい。そのためにも隣国には配慮を」ということだ。