原発再稼動遅れによる9兆円の損害--精神論抜きの現実的エネルギー論(上)

2013年07月02日 06:00

日本最大級の言論プラットホーム・アゴラが運営するインターネット放送の「言論アリーナ」。6月25日(火曜日)の放送は午後8時から1時間にわたって、「原発はいつ再稼動するのか–精神論抜きの現実的エネルギー論」を放送した。

その放送を問題点を検討した「原発再稼動遅れによる9兆円の損害(上)」、解決策を考える「原子力の未来、政治の意思表明を(下)」の2つの記事にまとめた。

福島原発事故後、日本の原子力政策は混乱を続けている。現在、日本には54基の原発があるものの現在は2基しか動いていない。これが再稼動できるのだろうか。そしてエネルギーをめぐる問題は何か。現実派の3人が集まった。

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左から池田氏、澤氏、澤田氏


原子力関係者と政府の断絶

澤田氏は放送日直前まで、原発や関連施設の多い福井県若狭地域に出向いて、現地の原子力関係者、地元住民と意見交換をしていた。「現地では『なぜ今まで動かせなかったのか』と、いきどおりが広がっていた」という。この地域は、原発関連に産業が依存している面があり、地域経済が疲弊していた。

澤氏は「手続き的に定期検査が終わった今の原発を、ここまで止める法的な根拠はない」と指摘した。原子力の関連法、特に原子炉の安全を規定した原子炉等制法は、文言が抽象的で細かくは規制当局が決める。原子力の技術進歩に、規制を柔軟に対応させるためという目的であった。しかし「その曖昧さが、今のように手続きを明確にしなければならない状況では、問題になっている」と述べた。現在では、政治の介入や、規制委員会の裁量が強く、稼動手続きが明確ではない。

原発が止まった問題を整理すると、福島原発事故の後で、2011年5月に菅直人首相(当時)が中部電力浜岡原発(静岡県)を「東海地震の懸念」として、法律に基づくものではなく「お願い」の形で停止要請をしたことから始まる。それに中部電力が応じた。その後に九州電力が玄海原発の再稼動をしようとしたところ、菅氏はストレステストの実施を要請。それで延期され、各地の原発が停止した。法律に基づかない行政が行われている。「事故の後で安全確認は当然だ。しかし日本は法治国家であり、法的な手続きを踏み越えてやるべきものであったか」と、池田氏は疑問を述べた。

規制委員会の対応への疑問

状況は変わった。規制委員会が昨年9月に発足。同委員会は新基準の策定を進めた。そして原発の周囲に活断層がある場合に、原発の稼動を認めないとしている。「規制委員会の役割は原発を安全に動かすこと。ところが止めることを目的にしている姿勢、判断が多い」と澤氏は述べた。

澤田氏も、規制委の対応におかしさを感じるという。例えば活断層問題についても、それが存在したとして、どれくらいの強度があれば原子炉が安全なのかという建設的な議論をしていない。「あるかもしれないからダメという議論をしている。そうではないという事業者の反論を聞いてはいるが、対話をしていない。そして証明責任は事業者にあるとしている。これはおかしい。原発を止めることが国民から期待されていると思っているようだ」と指摘した。

原子力規制委員会は6月に発表した新基準に基づいて7月8日から止まっている原発の再稼動の審査を行う。原発の再稼動申請は12基が行われるもようだが、新基準に基づきゼロからやり直すことで、一つ当たり6カ月かかる。しかも順番に行わなければならず、稼動は来年以降にずれこみそうだ。それなのに昨年7月に稼動した関西電力大飯原発3、4号機は新基準に基づかなくても稼動が延長される見込みだ。なぜこのような場当たり的な判断が繰り返されるのか、明確な説明が規制委員会からはない。

澤氏は「原発審査で人の裁量を少なくする、いわば『無機的なプロセス』をつくらないと、同じことを繰り返すことになる。『政治的なババ抜き』で、責任を押し付け合い、その責任の所在がはっきりしていない」と考えを示した。

また再稼動までのプロセスがはっきりせず、原子力事業者が混乱している。「こうして長期に渡って止まり、先が見えない状況が続けば、経済的損失だけではなく、働く人の士気、技量の低下の問題が起こる」と澤田氏は述べた。

経済的負担は9・6兆円に

原発の停止によって、代替の火力発電の燃料費の増加分だけで、2011年に2・4兆円、12年に3・4兆円、今年は3・8兆円になる見込みだ。合計でこの3年で9・6兆円にもなり、この国富は海外に流失している。「安全は最優先だが、ただではない。この巨額の費用が、安全の代償として妥当なものとは思えない」と池田氏は述べた。

これは利用者に転嫁されていく。東京電力が昨年行った、そして他電力が今年行った値上げは、原発の再稼動を前提に経産省が認めたものだ。各社は、再値上げを行うことになるだろう。規制委の田中俊一委員長は、コストを考えず、対策を考えると述べているが、「それはおかしい」と、澤田氏は指摘した。

中東情勢、供給パニックの懸念

さらに他のリスクもある。池田氏は中東情勢の危険に言及した。現在イランは核開発を進め、イスラエルはその中止を求めている。イランに面するペルシャ湾のホルムズ海峡は日本の8割の石油、3割の液化天然ガスが通過する。特に、中部電力は原発の停止によってカタールからLNGを購入。その4割がこの海峡を通る。仮にそこが戦争で封鎖されれば、トヨタ、スズキなど、中部工業地帯の企業が停電で大きな影響を受ける。「1000年に一度とされる東日本大震災クラスの災害が今後起こるより、中東の混乱の可能性の方が大きい」と池田氏は述べた。

澤氏は81年に通産省に入省して資源エネルギー庁の総務課に入った。81年はイスラエルがイラクの原子炉を空爆して中東が緊張状態になった。さらに北炭夕張新炭鉱で大事故が起こり、日本の石炭産業の消滅が早まった。そして79年には第二次オイルショック、また米国でスリーマイル島の原発事故が起こった。「供給サイドがすべてつぶれる経験した。エネルギー供給が止まるとパニックが起こる。これは私の原体験で、経験しないとその怖さはなかなか理解できないだろう」という。

世界の起こっていること、エネルギー安全保障、国富の流失という事実に目を向けず、この中で原子力はいらないと感情的な反発があることについて、澤氏は「もっと多様な視点で考えてほしい」と訴える。

原子力の未来、政治の意思表明を(下)」に続く。

(GEPR編集部)

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