スポーツ記者よ、ドラマを描け --- 長谷川 良

アゴラ

テニスの最高峰、ウィンブルドン選手権は6日、女子シングルス決勝が行われ、第15シードのマリオン・バルトリ(仏)が6-1、6-4のストレートで第23シードのザビーネ・リシキ(独)を破り、4大大会初優勝を成し遂げた。

ブック・メーカーは優勝候補筆頭のセリーナ・ウィリアムズ(米)を鋭いサーブで破った23歳のリシキが有利と予想していた。ドイツのメディアはリシキを「第2のシュテフィ・グラフ」と報じ、試合前から大騒ぎだった。


結果はバルトリが第1セットから圧倒し、第2セットで最初のマッチポイントを迎えた時、少し焦り、ブレーキされたが、それ以外は危ない場面はなかった。リシキは相手の力強さに最後まで押され続け、武器のサーブも生かしきれなかった。試合の途中、力を出し切れない自身のふがいなさに涙を流す場面も見られたほどだ。

そのリシキがポイントを取る度に会場から大きな拍手がわいた。それと好対照的に、バルトリがポイントを取っても拍手はわずかだった。会場のファンは完全にリシキを応援していた。

「試合を見ていなくても、会場の拍手を聞けば、今、誰が得点したか分かるよ」と息子が言った。大きな拍手はリシキが得点した時、小さな時はバルトリの得点、というわけだ。会場で試合を見ていたファンは、若いブロンドの美人選手リシキを応援していた。一方、バルトリはテニス選手としてはすでに28歳で、少し小太り。フォアもバックも両手で振り回し、力で押し切るタイプだ。試合中に体操したり、その仕草は少々、奇人と受け取られてきた。相手が自分をどのように見ているかなどまったく気にする様子もなく、ボールに食らい付く。

バルトリはインタビューの中で、「鏡で自分の姿を見、自分は幸せだと思う」と答えている。ダイエットなど考えたことがないという彼女は大好きな甘いものを食べる。彼女は決して美人とはいえないが、その大らかさや真剣さは感動を与える。彼女から強い個性を感じる。

彼女は選手生活で初のビックタイトルを勝ち取ると、スタンドで応援してくれた数少ない家族や関係者のところに走って行って喜びを爆発していた。フランスの女性テニス選手バルトリがウィンブルドンを制覇した瞬間だ。

テニス・ファンの読者はご存知かもしれないが、バルトリはIQが175という。医者の父親のもとでテニスを学んできた。父親は、当時ナンバー・ワンだったセレシュが両手でラケットを振る姿を見、自分の娘にも両手でラケットを振ることを教えた、というエピソードを聞く。

最近はトレーナーの父親とは分かれ、別のトレーナー、モレスモ(元世界ナンバーワン)のもとで練習している。相手より圧倒的に少ない拍手しかもらえなかったバルトリだが、優勝インタビューでは笑顔を振りまき、会場に手を振っていた。

女子スポーツ界を美人コンテストのように報道するスポーツ記事が増えてきたが、スポーツ記者は選手の隠されたプロフィールを掘り起こして読者や視聴者にそのドラマを伝えてほしい。バルトリの優勝を喜ぶ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月7日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。