情報通信政策を比較する

山田 肇

電子行政研究会の有志と一緒に、各党の選挙公約から情報通信に関連する政策を集め比較した。

自由民主党の公約は、政府のIT総合戦略本部が先ごろ発表した「世界最先端IT国家創造宣言」と党独自の新ICT戦略「デジタル・ニッポン2013」に基づいている。ポイントはICTを活用した経済成長と国土強靭化。不正侵入・データ破壊・情報漏洩などへの対策(サイバーセキュリティ)を強化するとしている点も印象深い。

ICTによる経済成長は他党も公約としている。自民党はスマート・コミュニティ等のインフラ輸出やテレワークを掲げる。公明党は、スマートグリッドの構築とともに、遠隔医療や高齢者の見守りといった医療・福祉分野や、電子黒板などの普及を挙げる。民主党も、スマートグリッドと、すべての小・中・特別支援学校へのネットワーク基盤環境の整備等と類似。日本維新の会は、共通番号を所得・資産の把握に活用し、公正な課税・徴収体制を構築するとしている。みんなの党も医療・介護やスマートグリッドを挙げるが、世界的に通用する企業の育成を掲げているのは特徴的である。


問題は、上のような公約が国民に理解できるかという点。スマートグリッドを最もていねいに説明しているのは公明党だが、それでも「電力システム改革の着実な実行により、電力産業・市場を活性化させます。エネルギーの需要を無理なくスマートにコントロールするエネルギーマネジメントを、家庭や中小企業などの消費者が利用できるようにします。そのために、多様な料金メニュー、サービス、電源の種類等を選べるよう、スマートメーターの導入促進、スマートグリッド(次世代送電網)の構築等を積極的に推進し、イノベーションを創出します。」とほんの数行で、その上、技術用語が多い。

これに対して共産党は、共通番号法を廃止すると、各分野政策(2013年)で1ページ以上にわたって公約している。その説明は具体的で説得力がある。ICT活用推進派の他党も、技術用語をなるべく少なくし、国民に分かりやすい形で情報通信政策を説明する必要があるだろう。

ただし、共通番号に反対する共産党の論旨には致命的な間違いがある。米国で利用している社会保障番号でなりすまし等が多発していることが論拠なのだが、複数の行政事務で共通の番号を用いる米国方式に対して、わが国は、それぞれの行政事務では別の番号を用い、番号間の紐付けにだけ共通番号を用いるセクトラル方式だから、情報漏えいのリスクは圧倒的に小さいのだ。共通番号の廃止とスマートグリッドの普及を同時に訴える社会民主党も矛盾に気づいていないらしい。スマートグリッドでは通信機能を備えた電力計(スマートメータ)で家庭の電力消費を時々刻々モニターするのだが、それによって、その家庭にどんな電気製品があり、いつ動いているかが、すべて把握できるのだ。共通番号を監視社会への道と反対するのであれば、家庭生活の様子が「監視」できるスマートグリッドにも反対しないとおかしい。生活の党とみどりの風が、情報通信政策について何ら言及していないのは、党の姿勢を示すものだろう。

おりしもオバマ政権は、”A Smarter, More Innovative Government for the American People”と題して、スマート政府化を進める方針を明らかにした。これに対して、各党の公約に、共通番号を除いて、電子行政への言及がないのは問題である。一方で、各政党を比較すると、多数派の政策には大きな差がないことがわかる。対立点がないのだから、参議院選挙後は各党が協調して政策を進めてほしいものだ。それこそ、21世紀の世界でわが国が存在感を維持する道なのだから。

山田肇 -東洋大学経済学部 電子行政研究会副委員長-