人類発祥の地・エチオピアの野望 --- 長谷川 良

アゴラ

スーダン出身の友人、アブドラ・シェリフ氏が国連記者室に久しぶりに顔を出した。エチオピアで開催された会議の取材で2週間余り、ウィーンを留守にしていた。

彼からエチオピアの土産話を聞いた。


アディスアベバはウィーンより涼しかったという。ウィーンは9日、約28度で少々暑い。エチオピアは高地だから空気が涼しくて肌に快かったという。話はエチオピア政府が国家の命運をかけて建設中の「グランド・ルネッサンス・ダム建設」になった。

総額42億ドルをかけ青ナイル川に迂回ダムを建設する計画に対して、下流のエジプトやスーダンから激しい批判の声が出ている。両国は国内の50%以上をナイル川に依存しているため、エチオピアで巨大なダムが建設されれば、自国の水源確保に支障が出るのではないか、と懸念しているという。

それに対し、エチオピア政府はダム建設が両国にとってもプラスであることを説得するなど、いまのところ冷静を保っている。

白ナイルはヴィクトリア湖からウガンダ国内を北上し、スーダンの首都ハルツームでエチオピアから流れてきた青ナイル川と合流し、ナイル川となり、エジプトのアレキサンドリアで地中海に注ぐ。アフリカ最大の河川だ。

エチオピアはタナ湖を水源とする青ナイル川に巨大なダムを建設中で、「全体の約25%が完成した段階だ」という。「グランド・ルネッサンス・ダム」が完成すると総発電量は6000メガワットになり、国内の電力需要を大きく上回る。そこで電力を輸出に回すという計画だ。ダム完成予定は2018年の予定。

当方は友人に「ダム建設の写真を撮ったのか」と聞くと、「写真撮影は禁止されていた。支流の青ナイル川しか撮れなかった」という。エチオピア側もダム建設を慎重に進めているのだろう。

同氏によると、ダム建設には中国企業が関与しているという。ちなみに、中国はアディスアべバのアフリカ連合(AU)の本部建物を建設して無償で贈呈するなど、エチオピア政府関係者とも良好関係を維持しているという。

友人は「エチオピアはスーダンや他のアフリカ諸国とは異なり、賄賂や汚職の風習が入り込まないように、中国関係者とはケジメをつけた付き合いをしている」という。

いずれにしても、アフリカや中東地域では「水源」は生命線だ。それだけに過去、水を巡る紛争が絶えなかった。エチオピアで建設中の巨大なダムが地域の和平と共存に寄与することを願うだけだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月11日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。