コンテンツ売り手の不在とメディア作り手の役割の変化 --- 藤村 厚夫

2013年07月17日 05:00

デジタルメディアをいかにマネタイズするのか。新しい時代が求める営業スキルとテクノロジー知識を整理する。


Digiday レポーター Josh Sternberg 氏が、同メディアに「Publishers’ Talent Woes(メディア企業の人材難)」というオピニオン記事を寄せています。

記事は、伝統的メディア企業が純粋にデジタルなメディア運営へとシフトしようとする際に直面する人材難について述べます。こんな具合です。

新たな時代の営業職能が求められている

新たな時代の営業職能が求められている

多くのメディア企業トップと話せば、デジタル時代の鍵は、マーケターの無数の問題を解決することにあり、それは単にバナー広告を売ることではないということになる。

その問題には、

  • 各種プラットフォームを横断して、求める読者や視聴者(オーディエンス)を的確にターゲットすること
  • オーディエンスが読み、かつシェアしてくれるような広告クリエイティブ要素を開発すること
  • あるいは、プロモーションすべきブランドの話題を伝えるのに有用である技術やデータを調達すること

などが含まれる。

このような、メディア企業が解決すべき課題を遂行できるタレント像と、現実的にはそのような人間の不足という、需要と供給のギャップが大きくなろうとしているのだ。

ポイントは、デジタルメディアの“創り手”の欠如ではなく“売り手”の欠如です。

しかも、単に広告商品のスペックリストを揃えて注文に備えるような“営業パーソン”が求められているわけではない、ということがまたポイントなのです。

現代的なメディア企業の営業能力は、この数年間で未知のものとなっている。メディア企業は、その要件を追い求めている。その仕事がほとんど異なるものに変化してしまったからである。異なる、そして高いスキルが求められるが、それを見出すのは難しいものだ。

Vox Media の CEO は、「(営業スタッフは)実際、デジタルメディアに関するあらゆる要素を理解していなければならない。日用品を売っているのではなく、ソリューションを売っているのだから」と述べる。

商業サイトを運営するようなメディア企業にとり、デジタルメディア(もしくはデジタルコンテンツ)から収益を得る手法には、いまやすさまじい種類の品目が存在します。

ざっとだけ整理をしてみます。

  • 各種ディスプレイ広告(数種類のバナー、レクタングル、テキスト型商品とその配置位置による無数の商品セット)
  • 各種リスティング広告(検索連動型広告)
  • 上述のディスプレイ広告枠を用いたRTB型商品
  • 各種アフィリエート商品販売
  • 記事体広告コンテンツ(ペイド、タイアップのコンテンツ)の制作や掲載
  • 記事や記事筆者と連動するセミナーやイベント
  • コンバージョン(成果)型広告商材や見込み客(リード)リストの販売
  • コンテンツの(ライセンス)販売
  • オーディエンスに関する調査結果販売
  • コンテンツ課金・コンテンツ印刷販売
  • 運営するメディアをテコに、顧客サイトの構築やコンサルティング受託
  • その他

このように、すぐさま数かぞえきれないほどの商材や手法が思い浮かびます。

むろん、運用している媒体の特性によってはさらに特殊な商材も追加できるはずです。

mediabizmodelもちろん、過去、印刷物中心の伝統的な出版社にあっても、その時代に分け入れば多様で煩雑な商材が販売担当者を悩ませていたはずです。

では、何がメディアビジネスの風景を決定的に変えてしまったのでしょうか?

シンプルにいえば、それは“テクノロジー”の介入です。

テクノロジーが、インターネットが介入することで、Web メディアが誕生し、次にモバイル(アプリ)メディアが誕生しました。

また、これらの誕生により広告と課金の仕組み、その効果についての考え方すべてが決定的に変わってしまいました。

広告ひとつを考えても、メディア企業内の営業担当は、広告をめぐるテクノロジーに通暁せずには、広告主やその代理店との間で広告効果測定などについて円滑なコミュニケーションを行うのは困難です。

第三者配信の広告掲載ともなれば、サードパーティが用意した広告配信と計測のための(プログラム)コードを自社メディアの各ページに埋めこむ手配も必要になり、さらにテクニカルです。

コモディティ商材に近いインプレッション型広告であっても、このような課題があるのです。ましてや、広告主から高いキャンペーン効果や成果目標のコミットを求められれば(それは第三者配信などよりよほどありがたい案件ですが……)、いまは存在しない商材を開発したり、企画を立案する必要も出てきます。

広告主に高い広告効果を求められる場合、または、直接オーディエンスへと課金するような場合には、いずれも自社メディアのオーディエンスをどう的確に捕捉してめざすコンバージョンへと誘導できるかが問われます。

けれど、自社サイトだからといって、営業担当が自社メディアのオーディエンスの行動特性を熟知しているとはいいにくくなりました。

いいかえれば、ベテラン営業担当のインサイトに頼るより、計測結果を基にしてコンバージョンへのプロセスを動的に再設計するような統計的アプローチが求められるケースが増えているのです。

このように、データに基づくマーケティング手法の発展、また、投資対効果(ROI)を指標化し、継続的にパフォーマンスをチューニングしていくような“運用型広告”投資が拡大する中で、メディア(コンテンツ)の営業行為は、経験豊かでインサイトあふれるベテラン営業担当が、持ち前のコミュニケーション能力を駆使して、顧客の要望に応えて商材を売りさばくという従来からのメディアビジネスの光景を大きく変えてしまいました。

一方で、メディアにテクノロジーが関与することで、現在は、メディアの収益獲得の可能性が極端に拡張した時代ともいえます。

かつて人手をかけて行わなければならなかった付加価値提案は、テクノロジーをうまく利用すればほぼ追加投資ゼロで積み上げることも可能です。

たとえば、コンテンツを顧客に対し有料でフィードするようなビジネスは、テクノロジー的には追加コストゼロで運営可能なため、顧客から得る対価はそのまま純益に近づきます。需要がある限り顧客対象を広げることも可能です。

その代わり、営業行為そのものが変化します。このようなケースでは、営業担当者と顧客との会話は、データをめぐるインターフェイス、すなわち技術的コミュニケーションが中心になっていくはずです。

繰り返しになりますが、メディアの現場において、営業行為とそれを遂行する能力に対する要件が変化しています。

その変化の方向を、あくまでもメディア企業の内部でメディア(コンテンツ)を売るベクトルから、筆者が考えるものを以下に整理してみましょう。

  1. HTML、JavaScriptおよびCSSを用いたコンテンツと広告表示の仕組みと最新動向への関心
  2. (オンプレミス型・クラウドサービス型など)自社が運用するアドサーバーへの理解
  3. メディアとコンテンツをめぐる各種の統計指標とその計測手法への知識
  4. RTBをはじめとする広告テクノロジーへの全般的認識、特に第三者配信の仕組みへの理解
  5. 同じく、クッキー等を用いたユーザーターゲティングとセキュリティポリシーに関わる動向への理解
  6. アドネットワーク一般、およびGoogleおよびYahoo!の各種商材への理解
  7. Google Analytics(GA)および SiteCatalyst(SC)の概念と利用法
  8. モバイルサイトおよびモバイルアプリに関する広告テクノロジーの最新動向への理解
  9. 検索エンジンおよびSEOに関する基礎的知識への理解
  10. 自社が運用する(オンプレミス型・クラウドサービス型など)CMS、その外部インターフェイス仕様への理解

もちろん、このような知識や経験が“営業の神髄”であるなどと主張するつもりはありません。

“良き広告営業担当”としては、円滑なコミュニケーションのために、広告主、その担当者が依拠するマーケティングモデルへの理解や、そのレポート(報告)先の上司が何を重視しているかなどを知ることは欠かせないでしょう。

また、ライバルメディアと自社メディアのベンチマーク情報、自社メディアのユニークな点など、過去においても、そしてこれからも重要なポイントが数々あるはずです。

けれど、筆者は、今後、メディア企業は自社内に純然たる営業担当者を置かなくなるという可能性も意識するものです。

メディアの編集長やキーパーソンの定義は、広告主が期待する効果に応える営業マインドをかね備えた存在へと変わっていくかもしれません。

加えて、純然たる営業担当に代わり、顧客や広告系サードパーティとの技術的コミュニケーション(インターフェイス)を担当する役割が置かれれば、今後のメディアビジネスの遂行態勢は整う、そのような潜在的なリアリティは高まっていると見ます。

営業担当としての将来キャリアを思い描くには、このようなメディアビジネスの変曲点にどう対応するかが鍵になるはずです。

(藤村)

編集部より:この記事は「BLOG ON DIGITAL MEDIA」2013年7月16日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった藤村厚夫氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はBLOG ON DIGITAL MEDIAをご覧ください。

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