ネット選挙はデマ拡散のためではない~民主党鈴木寛候補への批判の訂正

2013年07月17日 06:00

ネット選挙の解禁の弊害?

ネット選挙が今回の参議院選挙から解禁された。

ところが、ネットの自由をいいことに候補の誹謗中傷が増えているらしい。私は朝から晩までインターネットに張り付いているわけではないが、それでも候補に対するデマが散見される。

ローカルネタで恐縮だが、東京選挙区の鈴木寛候補(民主党)をめぐるデマについて取り上げ、それを材料にネット情報の危険性について考えたい。そのデマが、私がある程度知る原発、放射能、エネルギー関係のものであるからだ。


私は2つのデマを見た。一つは鈴木候補が、文部科学副大臣であったときに、同省が子どもの被ばく許容量を年20ミリシーベルトに決めたというもの。もう一つは鈴木氏の責任で、文部科学省がSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を出さなかったというものだ。

大半のデマは匿名のものだったが堂々と名前を名乗る人もいる。自称ジャーナリストの田中龍作という人がいる。放射能と健康をめぐる偏向した情報を拡散し、長崎大学教授の山下俊一氏を個人攻撃するなど、困った行動を続ける人だ。この人のサイトでも鈴木氏をめぐるこれらの批判が強調されていた。(ビューを増やしたくないのだが、一応記事はこれ

20mSvのてん末

これらの批判は間違っている。私は事故調査委員会の報告書を、政府、国会、民間と目を通した。原発事故のSPEEDIは隠したというより、混乱の中で情報が使われなかったというのが真相のようだ。各報告書を参照してほしいが、鈴木寛氏個人への批判はそれらの中になかった。

政府事故調査委員会報告(中間報告257ページ以降)ではデータの不足があり、予測システムでは汚染状況を完全に再現できず、避難すべき地域を事故直後には確定できなかったとしている。

それどころか鈴木氏は混乱の中で、科学的知見に基づき対応を行おうとした、良心的な政治家であったという評価もある。(東京大学准教授伊東乾氏のツイッターまとめ

また20mSvは、鈴木氏が決定したわけではない。放射線防護についての知見を取りまとめる民間団体のICRP(国際放射線防護委員会)は111号勧告で、緊急時の被ばくで1~20mSvにすることが妥当としている。文部科学省の決定はそれを参考にしたものだ。

そして年20mSvを被ばくしたからといって健康被害が起こるとは、ICRPも医療、放射線の専門家も、誰一人として言ってはいない。一部の人が、自分の空想の中で、20mSvは危険と騒いでいるだけの話だ。(ICRP111号勧告の私の解説記事)さらに、その水準まで被ばくした子どももいない。多くて数ミリ程度の被ばくの増加があったにすぎないとされている。

この20mSv目標は、国の基準になる予定だった。2011年秋に政府の学術の諮問組織である日本学術会議、また内閣府で専門家を集めた有識者会議が、年20mSvまでを基準に、被ばく目標を定めるべきと勧告した。ところが、そのころ科学的な情報ではなくデマが社会に拡散。批判を怖れた民主党政権が1mSvまでの除染を認めてしまった。それを主導したのは、除染の担当であった細野豪志環境相(当時)であった。(経緯を記した私の記事『福島の除染「1ミリシーベルト目標」の見直しを』)

つまり、鈴木氏への批判はずれている。ツイッターで私がそれを指摘するとネット記事やインターネット放送を根拠に文句を言う人がいた。こういう人は、公文書や新聞情報を確認する知的習慣がないから誤った情報に踊るのだろう。

自由の背景にある責任を考えよ

私の鈴木寛氏との関係は一回、取材しただけのものだ。彼に聡明な政治家という好意はあるが、別に利害関係はない。民主党にも批判的だ。

それなのに、このコラムを書いたのは義憤だ。鈴木氏は暴漢に襲われたという。また鈴木氏はネット選挙の実現に熱心に取り組んだ。それなのに一連のトラブルに巻き込まれ、こうしてネットで批判されるのは気の毒だ。そして選挙という国民の代表たる議員を選ぶ営みが、デマや興奮で穢(けが)されるのが悲しい。

東京選挙区では定数5のうち、自民党2議席、公明党1議席がほぼ確定。4-5位が熾烈な争いらしい。そして泡沫候補と見られていたのに、反原発を標榜する山本太郎候補が、もしかしたらその5位争いに絡む情勢だ。5位前後の位置に鈴木寛氏がいる。

どうも観察するとネットで鈴木氏へのデマ、誹謗を流す人の中心は山本候補を応援する「勝手連」の人のようだ。ネットを使った中傷や誹謗で鈴木氏を落とそうとしているらしい。上記の田中という人が典型だ。山本候補が関与しているかは知らない。しかしデマを流す人は汗水足らして選挙に参加している気配はなく、ネット上での勝手応援団が騒いでいるようだ。

政治家の権限の根源は「正当性」、つまり選挙で正しい形で選ばれることに依存する。不正なデマを拡散して、それによって山本氏を当選させても、彼に迷惑がかかるだけであろう。

日本の政治の質についての批判が多い。しかし、その批判は選出した有権者も、その責を応分に負うべきだろう。選挙にデマ、中傷、下劣さは付きものだ。しかし、そういうことを消していくことが、良き政治、良き社会をつくることの第一歩と思う。

ネット選挙解禁は、選挙につきものの下劣さを、ネットを使って拡散するために行われるものではない。自由な情報の流通によって、選挙の投票での適切な選択を実現するためのものだ。ネット選挙で与えられた自由の背景にある責任を重んじながら、この権利を使いたい。

石井孝明 ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター:@ishiitakaaki

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