明日の参院選で反原発候補には投票すべきではないみっつの理由

藤沢 数希

いよいよ明日は参院選である。いつものように、社会保障制度改革や、産業の競争力を高めるための規制改革、税制改革などのより本質的な争点はほとんど注目されていない。筆者は、もはや原発問題など争点にならないと思っていたが、奇妙な反原発を掲げるタレント候補の山本太郎氏が東京選挙区で当選する可能性が出てきたため、意外にもまた原発問題が注目されている。東京選挙区では5人が当選するのだが、自民の2名、公明1名、共産1名の4名が優位に立ち、残りの1議席を巡り、無所属の山本太郎氏と民主の鈴木寛氏が競っている。直近の調査では、当選圏にいるのは、自民の丸川氏、武見氏だけであり、無所属の山本氏、公明の山口氏、共産の吉良氏、民主の鈴木氏、みんなの桐島氏の5人が横並びとなっているとの見方も出ている。


さて、筆者は、原発問題に関しては、一貫して反原発運動の矛盾、非合理性を訴え、脱原発が日本の国力を低下させる何者でもないことを主張し続けてきた。とりわけ、原発の再稼働問題は喫緊の課題であり、可及的速やかな再稼働以外の選択肢はない。以下のポイントは、すでに拙著『反原発の不都合な真実』や月刊誌Voiceの論文で述べてきたことであるが、参院選の投票日を前に、今一度おさらいしておこう。ポイントはみっつある。1.原発は命にやさしい、2.原発再稼働は日本経済のために絶対に必要、さらに、3.原発事故の最大の加害者は反原発を煽ったメディア、である。

1.原発を減らすと命が救えない

発電方法別の人体への危険性を評価するためには、単位エネルギー当たりの死亡率で比べるべきである。現在までに、様々な研究者により、各発電方法の人命へのリスクが計算されているが、そのどれもが原子力が最も安全なエネルギーであり、火力が最も危険なエネルギーになる。これらは当然だがどのように見積もるかによって、数倍程度の誤差はあると思われるが、単位エネルギー当たりの死亡率で、原子力と火力には三桁から四桁の違いがあるのだから、それらの誤差によって安全性に関する議論に違いが生まれることはありえない。

以下のグラフは、拙著『反原発の不都合な真実』からの抜粋であるが、火力発電では、1TWhごとに約25人が死亡し、原子力では、わずか0.4人しか死なない。これは火力発電は大気汚染を増やし、その結果、呼吸器系の病気が増えるからである。世界保健機構によれば、自動車や火力発電所などからの大気汚染が原因で、世界で毎年100万人~300万人程度の命が失われている。一方で、原子力発電は、ウラン核分裂反応のエネルギー密度が桁外れに大きいため、単位エネルギー当たりで考えれば、圧倒的に死亡率が低い。これらの試算は当然だが、チェルノブイリ原発事故による死亡者数の推定値を含んだものである。そして、火力発電は、疫学的に因果関係が明らかになっている大気汚染の分しか計算に入っておらず、炭酸ガスによる地球温暖化のリスクは無視されている。つまり、実際には、化石燃料を使う火力発電のほうが、これらの数字よりもはるかに危険な可能性があるのだ。

1TWh当たりの死亡者数
参照した資料は『反原発の不都合な真実』の図表1-1に記載。

特に大気汚染は経済成長著しい中国では極めて深刻な問題になっている。こうした問題を解決するために、中国ではこれから新規に200基以上の原発の建設計画を進めていて、近い将来に、世界最大の原子力大国になることが予想される。日本に現存する原発は福島第1原発1~4号機を除くと50基であるが、中国では現在29基が建設中で、雨後の筍のようにこれから建設ラッシュを迎える。そうした原発の建設には、東芝や日立、三菱重工などの日本の原発メーカーも積極的に関わっており、世界の環境問題の解決に貢献している。

2.原発を止めることは毎日100億円以上の日本人の富をドブに捨てるのと一緒

発電所建設から最終的な廃棄物の処理までを考えた場合に、発電方法としての原発の経済性に関する議論があるが、それらはいま日本が直面している再稼働問題とは全く関係がない。理論的な発電単価に関しては、筆者自身は、現在でも原発が圧倒的に安価な発電方法であると考えている。なぜならば、原発のコストの多くが、科学的というよりは、建設するための地元住民の説得が大変だったり、今回のように再稼働できなくなったりするなどの、政治的な問題から発生しているからだ。しかし、これらの議論は、先に述べたように、いまの日本では意味がない。なぜなら原発の新規建設など誰も議論していないからである。

現在のように原発が再稼働できないと、それを補うのは火力発電しかない。そこで原発と火力発電のコスト構造に注目しよう。ザックリと言って、原子力は最初の発電所建設のイニシャル・コストが非常に高いが、核燃料のエネルギー密度が極めて大きいため、ランニング・コストは非常に安い。一方で、火力は発電所の建設コストは安く、発電コストの内訳は燃料費が約8割になる。原発は、これの反対で、発電コストの内訳は、建設費が約9割で、燃料費は約1割である。つまり、日本のようにすでに原発がそこにある場合は、原発は極めて安く発電できるのであり、現在のように、稼働できる原発を止め、それらを老朽化した火力発電のフル稼働で凌いでいるのは、35年住宅ローンで買った自宅を空き家にして、賃貸に住んでいるのと同じで、発電コストが二倍になっているのだ。それによって、余分に調達しなければいけない化石燃料費によって、毎日、日本人は100億円以上をドブに捨てていることになる。年間4兆円~5兆円ほどで、GDPの1%もの富を、まさに無駄に燃やし続けているのだ。日本の経常黒字の半分が、目先の視聴率だけを追うメディアが生み出した反原発ブームと、それに乗った無責任な政治家により毎年消し飛んでいる。

3.原発事故の最大の加害者は反原発を煽ったメディア

あれほど騒がれた福島第1原発事故であるが、現在までに放射線による健康被害は一例も報告されていない。そして、あれほど巨額だと言われた、東電と政府が負担すべき損害賠償額の数兆円であるが、現在までにその数倍以上の日本国民の金が、原発が再稼働ができないことによる化石燃料費で消し飛んでしまった。損害賠償は、東電の株主・債権者、そして政府から被災者への所得移転だが、化石燃料費はただただ無駄になってしまった。そして、その無駄はいまでも続いている。さらに、その損害賠償の多くが風評被害によるものだ。つまり、メディアが作り出したものなのだ。

日本は、世界で唯一原爆が投下された国である。広島・長崎では大量の放射性物質が撒き散らされた。しかも、当時は放射線に対する知識がまったくなかったので、原爆投下後に多数の人が広島に戻ってきてしまったのである。その結果どうなったかというと、じつは、広島市民は日本でいちばん長寿になったのだ。広島市の女性は日本の全政令指定都市のなかでいちばん長生きする。なぜか。それは広島の市民には被爆者手帳が配られ、医療が無料化されたからである。そのため、広島で被爆した人たちは、世界一女性の平均寿命が長い日本のなかでも、さらにいちばんの長寿となったのだ。

一方でチェルノブイリの原発事故では、広島・長崎の原爆により、放射線の健康被害がよく知られていた。旧ソビエト政府は、当初は原発事故を隠そうとしたのだが、西側諸国に発覚し、国際的な非難に晒されると、急にきわめて厳しい基準で住民を強制退去させた。そして、強制退去させられた住民は、平均寿命が短くなってしまったのだ。広島とは反対である。原因は、鬱病による自殺とアルコール中毒の大幅な増加だ。強制移住によってコミュニティーが崩壊し、新たな生活に適応できない人びとのあいだで、精神的なストレスによる疾患が急増したのだ。そして、主にヨーロッパのメディアから流される科学的根拠の乏しい、放射能による恐怖を煽る報道により、住民の多くが不安に苛まれ、鬱病などを発症していった。皮肉なことに、放射線の知識がまったくなく、放射能汚染された地域に住み続けた広島市民は世界一の長寿になり、そのような広島の知識に基づき、メディアが過剰な反応をした旧ソビエトの人びとは精神疾患で大きく平均寿命を縮めたのだ。

無知につけ込み危険を煽ることで生計を立てているジャーナリストや、人々の恐怖心を利用して視聴率を取ろうとするメディアからの無責任な言葉の数々が、チェルノブイリの住民を殺したのである。そして、われわれは福島で同じ過ちを繰り返しそうとしている。国民生活にとってきわめて重大なエネルギー政策を、目先の人気取りで歪めてきた政治家は万死に値しよう。