山本太郎氏当選に思う--噛みしめるべき格言「教育のない民主主義は無意味」

2013年07月22日 06:00

科学と理性に背を向けた人を信任

yamamototaro-thumbnail27月21日の参議院選挙は自民党圧勝という結果になった。私は特定政党を支持しないが自民党の影響力が強まり、政治が混迷して何も決められない状況が終わることは一国民としてうれしい。

ところが残念なことがあった。東京選挙区で反原発を過激に主張する俳優の山本太郎氏が当選したことだ。おかしな議員が一人増えたという簡単な問題ではない。かなり根の深い問題をはらむ。私は原則として選挙での民意を尊重する。しかし山本氏は当選するべきではないと考えていた。


これまで問題政治家は多かったが、山本氏は特異な異様さを持っている。彼は福島原発事故をめぐってデマの発信を繰り返し、テロリストや極左暴力集団との関係を公言。さらに科学、理性、そして選挙関連の法律の無視を公然と行った。もっと恐ろしいことは、この人に東京都民で60万人以上の多数の投票があったことだ。

偉そうに聞こえたら恐縮だが、私はこの結果に「日本社会の敗北」という感想さえ抱いた。そして「悪霊」(意味は後述)が社会を覆った恐怖を感じた。科学的な判断力を養わない教育、有名人に面白がって投票する幼稚な政治文化、理性的な判断をしない情報弱者の多さ、民主主義を壊しかねないセンセーショナリズムに陥るメディアなど、日本で観察される問題の悪しき集大成が、山本氏の当選につながっているように思えてしまう。総じて日本人の大半の人の見識の高さを私は信頼しているが、一部に危うい行動をする人がいることを確認できた。

もちろん私は山本氏を全否定することも、会ったこともない彼を激しく憎むこともない。山本氏は福島原発事故への怒りを前面に出したが、それは私も共感する。彼の強調した放射能への不安も当然だろう。そしてすべてを放り出して、愚直に政治運動をした彼の姿を嫌いでない日本的な心情を私は持つ。

しかし科学と理性に背を向けた山本氏の異様な行動については決して認められない。

山本氏による騒擾は混乱だけを生んだ

私はエネルギー・環境問題の取材を続ける記者だが、そこで福島原発事故に遭遇した。放射能をめぐるデマを機会があれば打ち消し、機会あるごとに以下の主張をした。

「放射能について不正確な情報を垂れ流す事は、誤った行動を誘発し、人の生活、命、健康に情報で害を与えかねない」

「原発の是非の主張と、今起きている放射能のリスク評価の問題はまったく別である。前者は自由に語ればいい。人々の不安につけ込んで後者を強調して前者を語ってはいけない。誤った情報は風評被害を生み、福島という地域を壊し、ムダな損失を人の人生と社会と日本全体に加える」

「各種調査で示されているように、今回の原発事故で健康被害が起こる可能性は極小である。それなのに膨大な対策を行うことで、福島と被災地の復興が遅れ、数兆円単位の無駄なカネが使われている。冷静になって現状を考えるべきだ」

ところが状況は、これらの主張と真逆に動いている。エネルギー政策、放射能防護政策で今起こっていることを一言でまとめれば、「混乱」だ。多くの人々が冷静に原発事故に対処したのに、一部のノイジーマイノリティーが、科学的知見を無視。そして理性ではなく「怖い」「原発嫌だ」という感情を爆発させ、社会の合意形成と政策の遂行を妨げている。

山本太郎氏はこの2年半、騒擾の中心の一人だった。いちいち取り上げるのは面倒であり、掲載させていただくアゴラの品位を落としかねないので、以下のNAVERまとめを参照してほしい。

デマッターとしても著名な山本太郎さんが、ついに選挙演説でもデマをまきちらし始めた

【参院選2013】反原発山本太郎への投票を検討していたが、調べてみたらカオスすぎてやばい件

さらに山本氏の周囲には異様な取り巻きがいる。選挙では、テロリスト集団の中核派が支援を表明。(池田信夫氏記事「山本太郎は中核派支援候補」)また菅直人元首相周辺に食い込んで、北朝鮮と関係のある新左翼セクト「MPD ・平和と民主運動」の関係者が山本氏の選対に入り込んでいるとされる。

21世紀になって、1970年代に暗躍したテロ集団らが亡霊のように復活した。こうした団体の関与の全貌を部外者が掴むことはできないだろうが、とても不気味だ。山本氏はこれらの集団は勝手に応援したとしているようだが、どこまで恐ろしさを認識しているのだろうか。

冗談ではなく、参議院と議員会館の治安・防諜対策を、各議員と議会事務局がしなくてはならない。山本氏を利用して、中核派や北朝鮮関係団体が活動する可能性がある。民主主義を否定する集団が、民主的手段の選挙によって国政に入り込む。この状況は異常だ。

山本氏は、当選インタビューで「当然原発利権に絡んだ人たちが僕を妨害してきます。僕の味方は一票を投じてくれた有権者だけです」と述べた。勝手に脳内に敵と味方をつくり対決姿勢を強めている。6年地位にある参議院議員という立場で、これまでの2年半の騒擾を繰り返すのだろうか。うんざりだ。

非科学的な「悪霊」から社会を守る

503px-Thomas_Jefferson_by_Rembrandt_Peale,_1800こうした混乱を見て、私は米国の歴史を思い出していた。人類史上初めて米国は「国民の、国民のための、国民による政府」(16代大統領リンカーン「ゲティスバーグ演説」より)を、人為的につくった。建国の父たちは、この民主主義政体がかなり特殊で壊れやすいものであり、構成員の質が政体の成果を決めると考えていた。

「独立宣言の起草者、ヴァージニア信教自由令の起草者、そしてヴァージニア大学の設立者トーマス・ジェファーソンここに眠る」

第三代大統領のジェファーソン(1743-1826)は、墓石にこのように刻ませたという。彼にとって人生では、大統領という世俗権力者ではなく、思想家・教育者であったことの方が重みを持つものであった。

彼は次の言葉を残している。「最善の政治形態のもとでさえ権力を委ねられた人は時日が経つにつれて、その政治形態を暴挙へと変えてしまう。これを予防する最も効果的な手段は、民衆一般の知性をできるだけ実際的に啓蒙することである。教育のみが民主主義を守る」「教育のない民主主義は無意味である」

自分たちが利害を持つ政府を、構成員が熟議を重ねることで適切に運営することを民主主義政体では期待する。しかし、それは賢明な人が関わらなければ、即座に衆愚の器に堕落する。こうした危機意識が彼らにはあった。

_SS500_ジェファーソンの理想は今でも教育に取り入れられようと努力が重ねられてきた。アメリカの物理学者で教育エッセイでも知られたカール・セーガン氏(1934-1996)の『科学と悪霊を語る』(新潮社)という本でジェファーソンは繰り返し引用される。ここでいう「悪霊」とは人間を束縛する、そして身近にある非科学的な概念の総称だ。

「市民が教育を受け、自分の意見を形成するようになれば、そのとき権力を持つ者も我々のためになることをする。すべての国で、科学の手法と、権利の章典の意義とを子供たちに教えてゆかなくてはならない。品位も謙遜も、共同体意識も、そこから芽生えてくるだろう。悪霊に憑かれたこの世界で、迫り来る暗闇から我々を守ってくれるのは、ただそれだけかも知れない」。セーガン氏は著書の最後にこのような言葉を記している。

民主主義は華やかな選挙だけで動くのではない。前提に教育、それによって学び賢明に活動する市民の存在が必要なのである。

山本氏が行うべきこと–教育による科学的知見の獲得

私の言葉が届くかどうか分からないが、山本太郎氏、そして投票した60万人以上の支援者は、ジェファーソンやセーガン氏の言葉を噛みしめてほしい。当選によって、自己満足に浸るべきではない。これまでのようにその行動と発言によって多数派の他の日本国民、特に被災地、福島の人々に迷惑をかけ、悲しませないでほしいと私は願う。

これからは理性と科学に背を向けた行為を続けることは、国政に議席を持つ責任を引き受けた以上、決して許されない。そのために今後、エネルギー問題と放射能について自発的に学び、また専門家から教育を受けて科学的な知見を身につけ、理性的な判断力を養ってほしい。

そして山本氏を当選させたのが民意なら、彼を警戒し、監視するのも民意である。誤った行動は徹底的に批判されなければならない。

私はまだ「話せば分かる」という希望を持っている。この人たちも、そしてそれを批判的に眺める多くの人も「教育のない民主主義は無意味である」という言葉を噛みしめてこの選挙結果に向いあうべきだ。学び、科学と理性を尊重する取り組みをすれば、「悪霊が迫り来る暗闇」にはまることは避けられる可能性が高い。その先に恐怖からの解放、そして放射能問題の解決と、福島の復興があるはずだ。

石井孝明
環境・経済ジャーナリスト ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター:@ishiitakaaki

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