若者よ、民主主義発展途上国「日本」を動かせ

高橋 亮平

参院選をめぐり、昨日、全国14高裁・支部に選挙無効訴訟が行われた。昨年10月、「1票の格差」が最大5.00倍だった2010年の参議院選挙の選挙区の定数配分は違憲として選挙無効を求めた裁判で、最高裁が「違憲状態」との判決を示し話題となった事は、記憶に新しい。

今回の参院選では、有権者数にあたる選挙人名簿登録者数が、国内・在外を含め1億478万660人と、2010年の前回参院選より26万6,557人増えた。昨年11月に選挙区定数を「4増4減」する改正公職選挙法が成立した事もあり、参院議員1人当たりの有権者数の比較である選挙区間の「1票の格差」は、2010年の前回の参院選の5.00倍よりわずかに縮小したものの、最大で4.77倍となった。

これまで衆院選に比べて格差が許容されてきた参院選だが、2009年の衆院選が2.30倍で最高裁判所に「違憲状態」とされ、とくに各区都道府県に1議席ずつ割り振る「1人別枠方式」について「格差の主因」として廃止を求めたことを考えれば、「1票の格差」の大きさは明らかだ。

「1票の格差」の問題は、民主主義の本質である事ももちろんだが、一方で「都市部と地方」といった政治構造による産物であり、同様に都市部と地方における世代の割合を考えれば、「若者と高齢者」という世代間の政治力による産物だと言い換えることもできる。

これまでも書いてきた事だが、こうした中、選挙を巡っては、もう1つの「違法状態」がある。

日本国憲法の改正手続きに関する法律(通称:国民投票法)の附則3条で、施行日である2010年5月18日までに選挙権年齢を18歳に引き下げるために必要な法制上の措置をとることになっているにも関わらず、放置されている問題だ。

簡単に言えば、「今回の参院選に18歳、19歳の若者を参加させなかったのは、違法だ」ということだ。


国民投票法の附則3条では、「国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」とされており、施行日であった2010年5月18日までに18歳選挙権を実現するよう公選法を改定しないことは「違法状態」だと言える。

今回の参院選は、インターネット選挙が解禁になった初めての選挙であり、インターネットを活用した選挙活動が、どう政治を変えるのかと注目された。しかし実際に選挙になると、「なぜ、未成年は、ネットを使った選挙活動ができないのか」といった事が広がるなど、若者の政治参加のためには、インターネット選挙解禁だけでは解決しない事が共有されたのではないか。

参院選投票日、安倍総理は、憲法改正を問われ、あらためて国民投票法の「3つの宿題」について触れた。「3つの宿題」とは、「18歳選挙権」、「国民投票の際の公務員の政治的行為」、「国民投票の対象を憲法改正以外に拡大するか」の3つの事だが、参院選が終わり、あらためてこの選挙権年齢の問題について、考えてもらいたい。

選挙権については、日本では20歳からというのが当たり前の様に思うが、世界的に見ると極めて稀である。世界189ヵ国・地域のうち18歳で選挙権を保障しているのは、166と全体の87.8%。G8では日本以外、OECD34ヵ国では日本と韓国以外の全ての国が18歳から選挙権を保障している。1960年代末から70年代にかけて、欧米では選挙権年齢の18歳への引き下げが相次いだ。日本と同じ20歳選挙権だった韓国ですら2005年に公職選挙法を改正し19歳に引き下げた。この事だけ見ても、日本は先進国の中で大きく遅れている事が分かる。

被選挙権年齢については、世界191ヵ国・地域のうち、18歳で被選挙権を保障しているのは、24.6%、21歳までには57.6%、むしろ日本と同様に25歳からの国・地域が29.3%と一定の割合ではあるが、OECD加盟34ヵ国の中で見ると、52.9%が18歳までに、79.4%が21歳までに、被選挙権を保障しており、被選挙権年齢においても先進国の中で遅れている。

選挙権、被選挙権年齢の引き下げについて、先進的なEU諸国の例を見ると、3つのモデルがある。

その1つが、選挙権・被選挙権年齢のみを引き下げたドイツ型だ。ドイツは、1970年に、成人年齢21歳を引き下げずに維持したまま、選挙権年齢のみを21歳から18歳に、被選挙権年齢を25歳から成人年齢へと引き下げ、その後1974年に、成人年齢が18歳に引き下げられた事で、被選挙権年齢も必然的に18歳に引き下がった。

2つ目が、成人年齢と選挙権年齢を一体で引き下げたイギリス型だ。イギリスは、1969年に成人年齢と選挙権年齢を同時に21歳から18歳に引き下げた。

3つ目が、選挙権・被選挙権年齢を一致させたスウェーデン型である。スウェーデンは、1976年に、選挙権年齢を20歳から18歳にすると同時に、被選挙権年齢を18歳に引き下げた。

日本でも、国民投票法に基づき、当初検討が進められたのは、イギリス型の成人年齢と選挙権年齢を同時に引き下げるという方向だった。しかし、選挙権のあるべき姿に立ち戻って考えれば、より多くの意思を政治に反映させる必要があり、また、今日の政治課題から考えれば、より未来への責任の大きい世代の声を反映させる事の意義は時代と共に大きくなっている。憲法15条3項では「成年者による普通選挙」を保障しているだけであり、未成年者の選挙権を禁じたものではない。こうして、できる限り選挙権を広げるべきだとの視点から考えれば、教育基本法14条では「良識ある公民として必要な政治的教養」を子どもが身につけるよう求めており、民主主義社会の一員として十分な政治的判断能力がつく事を考えれば、義務教育終了後の16歳には選挙権を保障していいのではないかと考える。少なくとも、選挙権年齢の引き下げに、必ずしも成人年齢を合わせる必要はなく、選挙権の年齢制限に最も適当な年齢とはいくつかと考えていく中では、むしろ成人年齢よりも教育と年齢を合わせるべきである。

国民投票法附則3条の中でも求められているのは、「年齢満18年以上満20年未満のものが国政選挙に参加すること等となるよう」公選法と民法などの検討と「必要な法制上の措置」であり、選挙権を引き下げなければ違法状態であるが、民法等については「選挙権を引き下げるための検討」がなされればいい事になっている。違法状態を解消する事は、喫緊の課題であるとともに、この国の民主主義の質を高め、また一歩、時計の針を進めていくためには、選挙権と成人年齢を分けて考えるドイツ方式による早急な引き下げを求めたい。

先月行われた関係省庁による「第6回年齢条項の見直しに関する検討委員会議事要旨」が公開となった。国民投票法成立を受け、2007年に各府省が国民投票法関連法令として対象とした308の法令も、大方の所は整理がついた。成年後見の対象者に選挙権を与えた事で、法務省の民法と公選法を合わせる必要についての議論は一気に整理ができてしまい、法務省は民法と公選法を分けて、選挙権年齢を引き下げる事は可能だとしている。残す所は、選挙違反の際の少年法との関係性だけと言える。法務省が大丈夫だと言っているにも関わらず、総務省が少年法を心配している当たりに、色々と感じる所はある。この部分でも総務省は、G8では原則、選挙権年齢と民法年齢が一致している事をできない理由に掲げているが、G8を見習うのであれば、むしろ選挙権年齢を民法から切り離して選考引き下げした当時のドイツの事例を調べてもらいたいものだと思う。やらない理由、やれない理由を探すのが、公務員の常とも言えるが、一方で、こうした霞ヶ関のレールに乗った事で、ここまで事がロジカルに整理されてきた。

秋の臨時国会では、いよいよ国民投票法の違法状態の解消に向けての議論となる。

「選挙に行こう」だけでは、若者の声は反映されない。

今夜もWeb上で無料講義『なぜ私たちの国は、政治に若い人が参加できないのか? 18歳選挙権から、若者の政治参加を考える』(http://schoo.jp/class/188)を行う。この国の民主主義を一歩でも前へ進めるために、一人でも多くの若者にこうした事実を共有してもらいたい。周りの若者にご紹介いただければ、ありがたい。

未来により大きな責任のある世代として、さらに若い世代や子どもたちの声が反映される環境を創って行きたい。

TwitterFacebook等でも、ご意見もいただければと思う。