平均気温が2℃上昇すると、何が起きるのか?

2013年07月24日 09:30

IPCCは第四次評価報告書で、今世紀中に少なくとも2℃の気温上昇が起きると予測している。 また二酸化炭素濃度が現在の倍になった場合、平均気温の上昇幅は2.0~4.5℃と見積もり、1.5℃以下の可能性は低いとしている。 

温暖化は実際に起き、これからも続くと考えられるが、アゴラでは、二酸化炭素排出を抑制するのではなく、植林や珊瑚礁の育成といった方法で乗り切ろうという意見があるようだ。 こういった荒唐無稽な意見が出てくる背景には、2℃という気温の上昇が、我々の生活に与える影響についての無理解があるように思われる。

ここでは2℃という気温変化は、我々の生活に、通常考えられるより、遥かに大きな影響を与える可能性を指摘したい。 


温暖化の影響の一般的な理解

気温が2℃上昇した場合の影響は:

(1) 生態系の両極へ、または高標高地への移動。 
(2) 少雨地域はより少雨へ、多雨地域はより多雨へと変化する。

といったことが起きると考えられ、これらについては、ほぼ科学者のコンセンサスが得られている。
実際、これらの変化は既に、多くの現象によって裏付けられている。

例えば、気温の上昇と共に、中国の華北地方では旱魃がより頻発するようになり、華南地域では、洪水が頻発するようになったし、アメリカの中西部では、近年旱魃が頻発している。特に今年は2年続きの大旱魃に見舞われている。やがては、残雪の減少や、旱魃の頻発により、アメリカ西部のロサンゼルス、サンフランシスコなどの大都会も、ひどい水不足に悩まされるようになるだろうし、カリフォルニアの農業も成り立たなくなるだろう

しかし、こういった影響は、気候変動そのものの影響であり、生態系への影響を考慮したものではない。

生態系の維持の重要性

人間の生活は、直接あるいは間接的に生態系に大きく依存している。良好な生態系を維持しない限り、水資源を維持するのは難しい。 なぜなら良好な状態の森林がなくなれば、水資源は確保できないからである。  

例えば、中国では国土の約18%が砂漠で、華北地方では海に近いところまで砂漠化が進行し、近年、砂漠が急速に拡大しているが、この主な原因は、過伐採・過放牧・過剰耕作などの人為的なもの、あるいは長年にわたる気候変動による旱魃とされる。  

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水資源の確保には森林が欠かせないが、森林を伐採し、耕地や放牧に使ってしまえば、保水力は失われるのである。

水資源の大部分は農業生産に使われるが、小麦1トンを生産するのに2000トン、米1トンを生産するのに3000トン以上の水が必要とされる。牛丼1杯を作るのに2トンの水が必要な計算だ。このように生活用水や飲料水としてだけでなく、間接的に我々は膨大な量の水を使って生活しているが、それを意識することはない。

どんなにエネルギーやその他の資源があっても水資源が不足すれば我々の生活は成り立たない。我々の生活は間接的に森林に依存しているのである。

生態系の維持というと、希少生物の絶滅を防ぐといったイメージが先行しがちだが、我々の生活そのものが、生態系に大きく依存しており、森林が失われた場合、我々の生活は成り立たなくなる。 

ストレスに晒される生態系

多くの人は1℃や2℃の気温の上昇は大したことではないと考えがちだ。 しかし、これは全くの誤りである。

実際、気候変動は、森林に大きなストレスを与えており、その影響は顕在化している。。

アメリカでは干ばつとキクイムシの大発生により何十億本もの針葉樹が枯れている。 

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(上記記事から転載:キクイムシに食い荒らされた、アメリカ、ユタ州のブライスキャニオン国立公園のマツ林。アラスカからメキシコに至る地域の何十億本もの針葉樹が、わずか数年で壊滅した)

またカナダ西部でもキクイムシの被害が深刻化し、気温が上昇しているという

日本でも1980年代からカシノナガキクイムシによるナラ枯れの被害が急速に広がっている。 

これらの現象は単に偶発的にキクイムシが大発生したのではない。気候変動による樹木へのストレスから、樹勢が弱り、キクイムシが大発生したと考えられる。元々、キクイムシは生態系の中で、弱った樹を駆除する役割を担っていると考えられ、健康な樹がキクイムシに冒されるわけではない。  

長期的には、森林が消滅する危険すらある。 実際、「温暖化で枯れてゆくアメリカの原生林」によると:

「木の枯れる割合(枯死率)がこの20年で2倍になっている」と、アメリカ地質調査所所属の科学者フィリップ・ファン・マントゲム氏は言う。同氏は今回の研究チームでリーダーを務めた1人だ。同氏によると、「いまアメリカ西部の原生林では、新しい木の成長より速いペースで木が枯れてしまっている」という。

 森林にはあらゆる樹齢の木が生えているが、研究チームが調査したのは200~500年前に定着した森林である。

 今回の調査はカリフォルニア、コロラド、ブリティッシュ・コロンビア、アリゾナといった西部森林地帯で行われた。その結果、さまざまな樹齢、種類の木が枯死する割合の増加傾向が確認された。

 この地域の気温は、この20年で約0.55℃の上昇を見せている。影響は甚大で、積雪の減少や夏の干ばつの長期化といった現象の一因になっている。さらに気温上昇が、木の健康状態にダメージを与える虫や病気の被害拡大を助長していることも考えられるのだ 

とある。 これを見れば0.55℃という1℃未満の温暖化でも、生態系に非常に大きなストレスが掛かり長期的には巨大な影響が出ることが分かる。  このままでは、今我々が見ている自然の姿は、一種の残像に過ぎず、森林は枯れ果て、我々の生活は成り立たなくなることは明らかだ。 東京と宮崎の年平均気温の差が約1℃、東京と鹿児島の南に位置する屋久島の年平均気温の差が約2℃であることを考えれば、1℃、2℃という年平均気温の上昇が、思った以上に大きいことが分かるだろう。

生態系のコントロールは困難

温暖化が進んで、従来の生態系が存続できない場合、植林などの動植物の移入で、生態系を作り変えることはできると考える人もいるだろう。 

しかし、これは、多くの人が考えるほど簡単なことではない。

これは、巨大な閉鎖空間に人工生態系を作ろうとしたバイオスフィア2が、実験に失敗していることからも分かるだろう。生態系は、多くの人が考えるような単純なものではなく、土壌細菌といったものまで含めた数千種もの生物が、複雑な関係を構築しているものだから、これを人工的に作ることは不可能に近い。数理生態学も進歩しているとはいえ、巨大な生態系を解析するのは難しい。

多くの人は自分の庭や公園の樹木を見て、植林すれば、森林を復活させることは簡単なように思うかも知れないが、植林したまま放っておけば、通常、荒れ放題になってしまう。

新潟県の雨飾山の山麓には見事な原生林があるが、こういった原生林が美しく保たれているのは、豊かな生態系が保たれているからであって、平地の雑木林をそのまま放置すれば、スズタケなどが生い茂り、入り込めない状態になる。自分の家の庭の木は剪定を定期的にしているから、美しく保たれているのであり、原生林が美しいのは、要らない枝や葉あるいは下草を除いている生物がいるからである。

よく観察すれば、木々の日陰に伸びた枝、徒長枝はそれらを好んで食べるチョウやガあるいはカミキリムシの幼虫のために淘汰されており、下草を食べるシカやウサギがいるから林床に適度な空間が作られる。リスが越冬のために蓄えたドングリの一部から、実生木が生えてくる。

このように、森に生きる生き物には全て、それなりの役割があり、キクイムシが増えすぎて森が枯れるから、キクイムシを駆除するといった対症療法では、問題は解決しない。キクイムシは衰弱した木を処理するという本来の役割を果たしているだけで、問題の本質は、気候変動による樹勢の衰えにあるからである。 

対症療法では上手くゆかないことは、大台ケ原のトウヒ林の再生の試みを見ても分かる。 大台ケ原の分布南限にあるトウヒ林は衰退、枯死しつつあるが、最近行われた大台ケ原のトウヒ植林は失敗に終わっている。植林をしたからといって、苗が活着するとは限らない。 大台ケ原のトウヒの枯死は、シカの食害や台風など複合的なものとされるが、これも気候変動を含めたトウヒの衰弱が根本原因で植林といった簡単な手法で復活するものではないだろう。  

自然環境を人為的にコントロールするなど、思い上がりも甚だしい話で、南アルプスのお花畑のシカ食害を柵で囲って防ぐくらいが関の山であり、温暖化を受け入れながら、自然環境をそれに合ったものに変えてゆけばよいなどというのは、全くの絵空事としか言いようがない。

一旦、被害が深刻化してしまえば、事態の改善は不可能に近い。我々は現在の生活を多少犠牲にしても、将来の幸福を担保すべきだろう。 

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