気候変動と生態系

2013年07月27日 08:57

前記事:「平均気温が2℃上昇すると何が起きるのか?」について、一部の方から、「平均気温が2℃上がるからといって、森林が大量に消滅するというのは本当なのか?」、というご意見を頂戴した。

ここでは、その点について遠い過去に何が起きたのか、現在何が起きつつあるのかを分析しながら捕捉したい。


気候変動と生態系

良く知られていることであるが、地球の気候は過去に大きく変動しており、例えば、縄文海進と呼ばれる約6000年前には日本は、現在より温暖・湿潤で年平均で1℃程度気温が高かった。

縄文海進む

「列島のなりたち」から転載)

このとき何が起きたか見れば、今後何が起きるのか凡その見当がつくだろう。 

この前後の植生の変化は、地層に残された花粉を分析することで、知ることが出来る。調査が進んだ島根県の場合を見ると、9000年前頃から7500年前頃にかけての時期には、冷温帯の気候に多いブナやツガが多く、現在の中国地方では標高1000m前後の高地に分布する樹木が優先していた。その森は7500年前頃を境にカシ・シイを主体とする暖温帯型の照葉樹林に代わっていったことが分かっている。 つまり冷温帯林が衰退すると同時に、その後を埋めるように暖温帯林が侵入した。 このように気候変動に伴い、植生は変化する。

また、日本は氷期には大陸と地続きだった時期があり、そのとき大陸から様々な生物が日本列島に侵入し、その後の温暖化により、それらは高山などに追いやられ、遺存種として残っている。例えば、高山植物やライチョウ、あるいは、高山蝶などは、このようにし日本にもたらされた。  

このように、花粉分析や遺存種の存在から、現在の生物地理がどのように形成されたのかは、大まかに知ることが出来るが、これから、気候変動に対して、生物は、その分布を変えることにより対応してきたことが分かる。 現在起きている温暖化でも、冷温帯林が暖温帯林に変化するような変化が起きると考えられる。
  
現在の温暖化と生態系の変化

さて、現在、産業革命前と比較して約0.7℃の平均気温の上昇が起きているが、これは現実に生物の分布に影響しているのだろうか。 遠い過去を遡らずとも、既に起きている変化を見ても、将来を予測することもできるだろう。 

実際に、生物の分布は変わりつつある。 例えば、ナガサキアゲハの分布域の北上現象は、広く知られる。ナガサキアゲハ(Papilio memnon)は大型のアゲハチョウで、1940年代までは九州に分布が限定されていたのが、現在は群馬県や栃木県まで普通になっている。 

このような南方系昆虫の北進の事例は、現在では非常に数多く(ツマグロヒョウモン、ムラサキツバメ、サツマシジミ、ヤクシマルリシジミ、クロコノマチョウなど)報告されており、ツマグロヒョウモンなどは都心の公園でも極めて普通に見られる。最近ではフィリピンなど国外でしか記録がなかったクロマダラソテツシジミが兵庫や東京で大発生するなど、南方系の昆虫の分布拡大へ向けた動きが顕著になっている。 これは、ほんの少し前までは、考えられないような異変である。

一方、植物は、昆虫のように簡単に移動できないのと、余り気を付けないため、目立たないがシュロの分布拡大が顕著になってきている。 
また、温帯林の代表樹種、ブナについては、「東京郊外奥多摩,三頭山に分布するブナ・イヌブナ林の更新」ではブナの実生木不足から、三頭山のブナ林がやがては消滅するものと考えられている。それどころか、世界遺産である白神山地のブナ林も今世紀中に消滅する可能性があるという。 

このように現在起きている温暖化でも、生物は分布を変えつつあると結論することができる。 気候変動により、生息条件が厳しくなった種は衰退し、そこに新たな気候条件に適した種が侵入してゆくと考えられる。 

なぜ生物分布の変化が問題なのか?

このように生態系は長期的には気候変動に対応して変化してゆくが、これの何が問題なのだろうか?

過去の気温をプロットすると、1℃の変化をするのに少なくとも1000年以上掛かるような緩やかなものである。
Holocene_Temperature_Variations

Wikipediaから転載

しかし、現在起きている変化は、100年に1℃や2℃といった極めて急激なものなので、植物の分布移動速度を大幅に上回っている。100年で分布を100キロ以上も北に移す、あるいは分布標高を300メートルも上昇させるといったスピードであるから、多くの種は、そのスピードについてゆけず、森林が大規模に枯死するといったことになるわけである。 移動できない木には気候変動によるストレスが掛かっているのである(気候変動による干ばつや、温暖化によるキクイムシなどの害虫の大発生など)。 これが表面化したのが、前記事で紹介した、北米の大量枯死の事例である。

canadapine
 

カナダ西部の針葉樹の大量枯死(キクイムシの大発生で気温が上がる?から転載)

ただ、こういった急激な変化が起きていない場所では、我々の目には、例えば依然としてブナの巨木は以前と同じように、あるわけなので、変化に気付かないだけである。変化は実生木の減少といった、目に見えない形であったり、前記事で紹介したアメリカの事例のように、木の枯死率が2倍になるといったものなので、気付きにくいだけである。知らない中に、木がまばらになってゆく、あるいは、キクイムシにやられて枯れた木が目立ってくるといった緩やかな森の死が進行しているわけであり、変化の激しい一部の地域で、我々が気付き始めたと言う段階である。

1℃から3℃の温暖化で生物の20から30%が絶滅するといった大絶滅が予想されているのは、こうした生物の分布移動速度を超えた気候変動に理由があるわけである。

「解ける北極、経済損失もたらす時限爆弾に」にあるように、北極圏の氷の消失が気候を変え、数十兆ドルの経済損失を与えるという予測もあるように、温暖化の問題は、人類の生存そのものを脅かす巨大な問題であるという認識を持ちたい。 心配すべきなのは、ホッキョクグマではなく、我々、人類の存続なのだ。 

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