社会の遺伝的衰退について(ジャック・モノーの視点から)

2013年07月30日 10:55

「感情を捨て冷静な議論をしよう」の中で、「人類には天敵がいないので自然淘汰に晒されておらず、遺伝的に弱くなる心配がある。このままでは危ないのではないか」という私の持論を紹介したが、これに対して、先日、ある生物学者の方から、同じことをノーベル生理医学賞受賞者の分子生物学者、ジャック・モノー(Jacques Lucien Monod(1910-1976))がその著書:「偶然と必然―現代生物学の思想的な問いかけ」(1970)の中で述べていることを教えて頂いた。ここでは、モノーの見解を紹介し、議論を深めたい。


モノーの論点

モノーは「偶然と必然」の中で

(1)知能・野心・勇気・創造力は、現代においても成功の要因であるが、これは個人的成功の要因であって、遺伝的成功(より多くの子孫を残すこと)の要因ではない。

(2)知能指数(あるいは文化水準)と夫婦の間の子供の平均人数との相関関係はマイナスである。

(3)夫婦の知能指数の間にプラスの高い相関関係が存在する。

という事実から社会の知的衰退は不可避であると結論している。

即ち、これまで種を衰退(自然淘汰がなくなれば衰退は不可避である)から守ってきた機構が、知識と社会倫理の発達のおかげで非常に重大な欠陥を持っている場合を除けば、もはやほとんど作用しなくなっているというのである。そして、

遺伝子操作といったサイエンスフィクション的な幻想をしばらくおくことにすれば、人類を≪改良する≫ただ一つの手段としては、ただ熟慮した上で厳格な淘汰を実行することがあるだけだろう。誰がそのような手段を用いることを望むであろうか。敢えてそれを用いようとするものが。

と述べている。 さらに、こういった先進国における非淘汰あるいは逆淘汰は危険だが、それが顕在化するのは10ないし15世代後のことだろうと述べている。

モノーの論点の検証

さて、モノーの論点が実際に当てはまっているのかどうか確認してみよう。

「高学歴女性と少子化」を見ると母親の学歴と出生率の関係は次のようになっている:

学歴と出生

一般に学歴の高い女性は、生涯に出産する子供の数が、少なく大卒女性は、高卒女性と比較して凡そ2割ほど少ない。また、既婚女性のみを比較しても高学歴になるほど夫婦間の子供の数は減少する傾向にある。

これは様々な要因が考えられるが、大きな要因は、初婚年齢が高いこと、また結婚や出産により放棄しなくてはならない所得が大き過ぎることにあると考えれる。

モノーの論点は、少なくとも現代の日本社会においては、かなり当てはまっているといってよいだろう。

一方、両親の知能がその子供にどの程度遺伝するかについては、環境要因と遺伝的要因を一卵性双生児を使って分離することにより、研究が進んでいる。ナショナルジオグラフィックの記事:「「知能指数は80%遺伝」の衝撃」を見ると知能に関しては遺伝的要素が大きいようだ:

遺伝と環境

確かに現在のままの状態を放置するならば、社会の知的衰退はひどくなり耐え難いものになるのかも知れない。

モノーの「偶然と必然」はかなり難解な哲学書だが、1970年代にはフランスを始め世界各国で広く読まれたようだ。正直いって、このような本を、現在の日本の大学生の大部分は、読めないと思われる。知的衰退は(遺伝的なものが原因とは限らないが)既に始まっている可能性が高い。

考えてみると、日本の高度成長期には、農村から都会に出て、新たな高等教育機会を得た優秀な遺伝子が経済を支えたのに対し、現在は、誰でも高等教育が受けられるようになった反面、遺伝的な面からも知的衰退が始まっているのかもしれない。

巷では、大学生の学力低下については、ゆとり教育やセンター試験、少子化、あるいはネットで簡単に情報を入手できるような環境に原因を求める議論が多いが、社会の遺伝的衰退は、ひょっとすると非常に大きな要因かも知れない。 少なくとも長期的には非常に大きな問題になるだろう。

考えられる対策

このような社会の遺伝的衰退は、避けなくてはならないが、どのような対策が考えられるだろうか。  

抜本的な対策としては、モノーのいう「厳格な淘汰」を実行する必要があるが、これは人道や基本的人権の尊重に抵触する上に、それ以前に、人類の≪改良≫なるものがどういう基準で測られるものなのかが、問題になり(モノー自身が述べているように)、実施には多大の危険や困難を伴うと思われる。

そこで、次善策として、社会的成功と遺伝的成功の齟齬をできるだけ埋めるべきだろう。 例えば、高学歴女性の出産を促すような、労働市場改革、即ち、結婚、出産が所得放棄に繋がらないような対策や、結婚、出産をしながら勉学や仕事を続けられるような社会にしてゆくことが考えられる。 

いずれにしても、この問題を国民全体で真剣に考える必要があるだろう。 

(注) 私は差別主義者ではなく、社会の衰退を心配しているだけです。 念のため。

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