憲法改正って何?

池田 信夫

麻生財務相が「ドイツのワイマール憲法は、誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」と語ったという報道があり、世界的に反響が広がっています。麻生氏の周辺は「誤解だ」とコメントしているので、真意ははっきりしませんが、「占領憲法の改正」を政治的信念とする安倍首相のもとで、憲法をめぐる論議が盛んになりそうです。


日本国憲法は、終戦直後のドタバタの中で、占領軍の起草した英文の憲法を1週間ぐらいで訳してつくったもので、もともと「間に合わせ」でした。1952年のサンフランシスコ条約で日本が独立したとき、改正する予定だったのですが、当時の吉田首相が改正を先送りしているうちに改正のチャンスを逃し、そのままになってしまいました。


世界的にみても、70年近く憲法を改正していないのは珍しく、日本と同じように占領下で「基本法」を制定したドイツは、58回も改正しています。これはもともとの基本法が暫定的なもので、そのうち東西ドイツが統一されると考えられていたという特殊事情もありますが、他の国でも国際情勢の変化などによって改正しています。

特に日本国憲法は、第二次大戦が「最終戦争」で、二度と大規模な戦争は起こらないという想定で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」(前文)という発想で書かれたので、戦争を放棄した第9条の規定が問題になりました。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

自民党政権は、憲法を改正しないまま「警察予備隊」をつくり、それを「自衛隊」と改称しましたが、これはあくまでも憲法に定める「陸海空軍」ではないという解釈を続けています。しかし規模では世界第5位の軍事組織が「軍隊ではない」というのはいかにも無理があり、その実態に合わせて第9条の第2項を改正して「国防軍」の保持を明記しようというのが、自民党の改正案です。

ただ日本国憲法を改正する手続きは大変で、衆参両院の全議員の2/3の賛成で発議し、国民投票で過半数の賛成が必要です。ただ、やろうと思えば、ヒトラーがやったように「全権委任法」という有事立法で、他の法律をすべて無視して政府が何でもできるようにすることは可能です。まさか麻生さんがそれをやれと言っているわけではないでしょうが、できないことではありません。

自民党は「憲法改正」を党是としているのですが、日本でこれほど改正がむずかしいのは、野党が「平和憲法」を守ることを旗印にしていたからです。しかし昨年の衆議院では自民・維新・みんなの改憲派で2/3を超えたので、参議院選挙でこの3党が2/3を超えたら改正の可能性もありましたが、参議院では2/3に届かなかったので、当分は無理でしょう。

第9条以外にも、日本の国会は同じことを衆参両院で2回審議し、衆参で多数派が違う「ねじれ」が起こると何も決まらなくなる欠陥があります。せめてこの部分だけでも、是正してはどうでしょうか。自民党がこれだけ議席を取ることは今後あまり考えられないので、今チャンスを逃すと永遠に改正できないかもしれません。

憲法も含めて、法律というのは世の中の変化に合わせて変えるのが当たり前で、法律を変えないで無理な解釈をしていると、法律の信頼性がなくなります。「誰も気がつかない間に変えよう」などという姑息なやり方ではなく、憲法改正を国民が大いに議論していいと思います。