「日本人の外交力向上」への提言 --- 長谷川 良

アゴラ

米国内で慰安婦像が設置された。韓国側の外交力の勝利と日本側の説明不足、外交力不足が指摘されている。

日本人は確かに外交力が乏しい。国連機関の各種会議をフォローしてきた当方も日本人外交官のプレゼンスの乏しさを肌で感じてきた。日本人外交官は他国の外交官に劣らない優秀な学識を有しているが、「外交の世界」ではかなり見劣りするのが現実だ。言語問題もあるが、問題は、言語力というより、日本人を取り巻く社会環境に起因している。


日本は四方を海に囲まれている。基本的には単一民族だ。同じ言語だから、ハート・ツゥ・ハートのコミュニケーションが可能だ。自国言語・文化の発展には好都合だが、外国語を学ぶ機会は少なく、外交センスを磨くチャンスも少ない。

以下、当方の「日本人の外交センス向上」への提言だ。

簡単にいえば、移住者政策を抜本的に見直し、移住者を積極的に受け入れることだ。隣人が英国人ならば、英語を学ぶチャンスだ。中国人ならば、中国文化を肌で感じる機会となる、といった具合だ。文化や言語の学習も学校の教室からではなく、目の前にいる移住者との交流からスタートできれば理想だ。

外交センスは多民族との交流の中で自然に磨かれていくものだ。自分とは異なる世界観を有する人間が生きていること、知らない神を信じている人間がいることなどを理解しなければならない。「相手は異なる」という認識は外交センスを発展させる上で不可欠な出発点だ。「隣人も自分と同じ」という環境では外交センスは磨かれない。国連常任理事会の5カ国を見れば分かる。彼らの狡猾さ、外交センスは異民族との葛藤と対立の歴史が磨き上げた結果だ。

移住者を受け入れれば、治安問題が生じ、社会の安全は危ぶまれる、という懸念を良く耳にするが、そのマイナス面を最小限に食い止めるのが政府の仕事だ。言葉、文化、生活様式が異なれば、葛藤が増えるのは当然だ。想定内の問題だ。

移住者の受け入れは日本の人口減少、国力低下という悪夢も追い払うことができる。ロボットに不足する労働力を期待しなくても、移住者を受け入れれば時間は少しかかるが、労働人口は着実に増加していく。同時に、政府は家庭奨励政策を推進すればいい。

合計特殊出生率は1・4程度で日本と余り変わらないアルプスの小国オーストリアで人口1000万台突入ももはや夢でなくなってきた。当方がオーストリアに初めて入国した33年前、同国人口はまだ700万台だったが、現在は約842万人だ。オーストリアでは移住者が急増し、総人口は増加している。音楽の都ウィーンは目下173万人だが、「人口200万人都市」入りは時間の問題と予想されている。

結論を急げば、外交センスの向上には移住者の受け入れが重要だ。その上、日本の人口減少も阻止できる。異なる肌の色、人種が増えれば、社会は確かに今まで以上に賑やかになるが、生存の為の外交力は着実につくだろう。日本はオーストリアの移住・統合政策から学ぶべきだ。

ちなみに、オーストリアの女性は昔、子供を沢山生んだ。ハプスブルク王朝時代、国母と呼ばれたマリア・テレジア女王(1717~1780年)だ。女王は7年戦争をプロイセンのフリードリヒ2世と戦いながらも16人の子供を産んだ。女王は結婚を奨励し、出産を鼓舞した。女王の助言を受け、日本も国際結婚を奨励すべきだ。あれもこれも日本人の外交力向上のためだ。

聖書の世界からいえば、アダムとエバは「エデンの園」を追放されて以来、ディアスポラ(放浪の民)となってきた。移住を繰り返しながら、神の約束の地を探してきた。すなわち、われわれは全て移住者の後孫だ。そのように考えていけば、移住者の受入れに対する抵抗感も少しは緩和するのではないか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月2日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。