「核兵器フリーの世界」依然、遠し --- 長谷川 良

アゴラ

8月6日は広島、9日は長崎の「原爆の日」だ。両市で被爆犠牲者への追悼集会が開かれ、核廃絶の願いを世界に向かって発信する。

d200c08f-s

▲フランスの1971年の核実験(CTBTO提供)


原爆を保有する国は現在、国連安保常任理事国の5カ国(米英仏ロ中)のほか、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の計9カ国に拡大した。「原爆は絶対使用できない兵器だ。保有する意味が失われてきた」(コリン・パウエル元米国務長官)といわれるが、核兵器保有を国家の威信高揚の手段と見なして密かに製造する国は絶えない。

広島、長崎両市に原爆が投下されたてから今日まで2056回の原爆実験が行われた。最近では、北朝鮮が2006年10月9日、2009年5月25日、2013年2月12日、計3回、核実験を実施したばかりだ。国別統計にみると、米国が1032回、旧ソ連715回、フランス210回、英国45回、中国45回、インド4回、パキスタン2回、そして北朝鮮の3回だ(南アフリカとイスラエル両国の核実験が報告されているが、未確認)。過去の核実験によってどれだけの放射性物質が放出されたかは、正確なデーターはない。

そこでウィーンに本部を置く包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)の近況を報告する。1996年9月の署名開始から今年9月で17年目だが、今なお条約は発効していない。署名国数は7月末現在、183カ国で普遍的な国際条約の水準に達している。核実験を監視する国際監視システム(IMS)も337カ所中、約85%(275カ所)がデーター送信可能だ。しかし、条約発効に不可欠な、核開発能力を保有する44カ国の批准が遅れているため、条約は発効できない。44カ国中、未批准国は米国、中国、イラン、北朝鮮、イスラエル、エジプト、インド、パキスタンの8カ国だ。

ジュネーブの軍縮会議でCTBT条約発足を主導してきた米国の上院本会議は1999年10月、批准を否決。中国は「批准問題は国会で審議中」というが、実際は米国の出方待ち、といったところだ。インド、パキスタン、そして北朝鮮の3国は署名もしていない。CTBTの発効までにはまだ遠い道のりが控えている。

その一方、核保有国の核兵器近代化が密かに進められている。仏は核搭載可の弾道ミサイル実験を行い、米国は20年以上、核実験を実施していないが、核兵器の近代化を進める一方、ネバダ州の核実験場で、臨界前核核実験を繰り返してきた。オバマ政権下では通算27回だ。米国は臨界前核実験の度に「保有核兵器の安全確保が狙い」と説明。中国は核戦略を拡大し、核兵器を運搬する長距離弾道ミサイルの増強に力を入れてきた。同国は昨年7月、最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風41」の発射実験を行った、といった具合だ。

なお、CTBTOは8月1日から3代目の事務局長を迎えた。ドイツ人のホフマン初代事務局長、ハンガリー人のトート前事務局長、そして今月、西アフリカのブルキナファソ出身のラッシーナ・ゼルボ氏(LassinaZerbo)が就任したばかりだ。元、前事務局長は外交官出身だが、新事務局長は地球物理学者(前国際データーセンター局長)だ。

ゼルボ新事務局長は4日から中国を訪問中だ。CTBTO関係者によると、北京当局に批准の早期実施を求める予定という。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年8月7日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。