人材の流動化とそのコスト

2013年08月15日 00:24

日本は先進国の中では失業率が際立って低い。日本の失業率は3.9%(2013年6月)である。 それに対してヨーロッパでは、失業率の低いドイツやオランダでも5~6%、イギリスとスウェーデンは8%台で、フランスを含む南欧諸国は軒並み10%を超えている。アメリカも7.6%(2013年5月)と高い。


日本の失業率が低いのは、解雇規制が厳しいために、余剰人員や不採算部門を多く抱えているからであり、これが経営を圧迫している。特に大企業は、中高年社員の雇用を守る代わりに新規採用を絞って非正規社員を増やす。これが賃下げ圧力としてデフレの原因になっている。 そこで、解雇規制を緩和し、たとえば金銭的な補償で解雇できるようにすることで企業を身軽にするべきだという意見が、出ている。人材を流動化させることにより、人材の企業間の移動を容易にし、生産性を上げようという意見である。 たとえば池田信夫氏の「タテ社会をヨコに動ける改革」や、伊藤元重氏の 「「低成長運命論」を受け入れる前に、日本が取り組むべきこと」といった意見はその代表的なものである。

人材の流動化にはコストが掛かる

人材の流動化が進んだ国は実際に存在する。たとえばデンマークはそういった国の一つで、「解雇が容易なデンマーク それでも失業率が低い理由」を見ると、毎年、デンマーク人の11%が失職し、これとは別の20%がよりよい職を求めて自発的に会社を辞めるという。全体としては、毎年デンマーク人の約3分の1が離職することになる。それでも失業率は3%を切る水準なのだという。このようなことが可能なのは、OECD諸国の中で最も手厚い失業保険を支給するなどセイフティネットが充実しているからである。

日本は失業者の発生を防ぐことに大きな予算を充てているが、北欧では、「失業者の雇用可能性を高め、就労促進することで失業者を減らす政策(いわゆる積極的労働市場政策)」に大きな予算を充てているというのが大きな違いである。さらに北欧では就業している労働者のスキルアップなどにも政府の支援が行われている。  

北欧のように積極労働市場政策を充実させれば、日本でも人材の流動化は可能だろう。

しかし、このようなセイフティネットの充実や就業支援にはコストも掛かる。実際、労働コストの内訳を国別に比較すると次のようになっている。

労働コスト

北欧の抱える若年層の失業問題

このように、一見、理想的に見える、北欧の流動性に富む労働市場だが、現実には問題を抱えている。

実際、スウェーデンの若年失業率は高く、25歳以下の若者の失業率は大体25%前後で推移しているのである。4人に1人が失業している事になる。

Young Swedes struggle with woeful job marketを見ると、初任給が高く、解雇のコストが高いために、スウェーデンの企業は、経験のない若者や移民よりも、経験のある中高年を雇用する傾向にあるという。記事を読む限り、高学歴の若者でも職を得るのは容易ではないようだ。

同じく北欧の若者の苦境を扱った、8月14日の朝日新聞のコラム、「北欧の若者、職なき怒り」によると、スウェーデンでは、勤続年数の低い人から順番に解雇されるルールが定着し、経験の少ない若者が不利な立場に立たされているという。 また。デンマークでも新卒者の4割が、1年たっても職が見つからない状態だという。

このように、雇用の流動化が、若者の職業機会の拡大に繋がるとは、一概に言えないようだ。 

日本は高失業率に耐えられるか?

こうして見てゆくと、財政危機にある日本で、北欧のようなセーフティネットと就業支援の充実をてこに、雇用の流動化を図るというのは、さしあたって困難なように思われる。3%の消費増税が簡単に決断できず、国際的に見れば、それほど高くない企業の社会保障負担を、雇用主が重荷を感じている状況では、セーフティネットの充実や就業支援の充実、公的なスキルアップ支援といった政策はできそうにもない。

かといって、単純に解雇規制を緩和するだけでは、ホームレスが増加したり、ワーキングプアが増加し、労働者のスキルアップは望めない。そもそも、5%の失業率が社会問題になり、自殺者が増加したりする日本社会で、欧米並みの10%程度の失業率というのは、許容できるものなのだろうか。 

結局のところ、我々自身が、雇用に一体どの程度の税負担を許容できるのか、という点に議論は集約されるだろう。この点について、国民の選択が問われているといえよう。

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