石原慎太郎氏の活躍に期待する「中韓両国」と「護憲派」

北村 隆司

史実では日本が圧倒的に有利と思われた慰安婦問題でも、海外世論の味方なしには決着出来ない時代になった。日韓両国間の問題であったはずの慰安婦問題だが、焦点が「女性の人権」に移ると、「人権」や「差別」に敏感な欧米世論が巻き込まれ、日本に厳しくなった。

この現実は、海外を相手にした広報活動、世論公作(ロビー活動)が日本にとって欠かせない事を教えてくれた。ここで気になるのが、「女性」や「他民族」などデリケートな問題で差別発言を連発する石原慎太郎氏の存在である。


問題発言の幾つかを拾ってみると: 

女性について:「男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を生む能力はない。そんな人間が、きんさん・ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害だ」

心身障害者について(治療にあたる病院を視察した際に):「ああいう人ってのは人格あるのかね」

同性愛者について:「テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている」

移民政策について:「犯罪者予備軍の支那、朝鮮人をこれ以上増やすなどあってはならない」

軍事政権と東条大将について:「日本は核を持たなきゃだめですよ。持たない限り一人前には絶対扱われない。日本が生きていく道は軍事政権をつくること。そうでなければ、日本はどこかの属国になる。徴兵制もやったら良い。事後法を適用した東京裁判は無効で、東条大将への侮辱は許されない」

などがある。

英国の一流誌「エコノミスト」が、石原氏を「右翼のゴロツキ(rogue of the right)」と斬り捨てた理由は、これ等の浅薄で無教養な発言にある。

文化人であったと聞く石原氏のご両親も、一流海外誌から「ゴロツキ」呼ばわりされた息子の姿を知ったら、墓場の陰で赤面しているに違いない。

とは言え、記事に疑問があれば反論の機会は許されている以上「あんな馬鹿共は相手にするだけ時間の無駄だ」と言う石原氏の常套手段は世界では通じない。

政治家の国際評価は、重要課題の討論の繰り返しで固まって行くのであり、石原氏が有効な反論が出来なければ「右翼のゴロツキ(rogue )」と言う石原氏への國際評価は定着してしまう。

欧州では特定集団への憎悪を煽る発言(ヘイトスピーチ)への制裁は厳しく、フランスの極右政党「国民戦線」のルペン党首が「イスラム教徒が路上で祈りをささげること」を「軍事力によらない占領」と表現しただけで「宗教上の理由で特定集団への憎悪などを扇動した罪」に当たるとして、欧州議会議員としての「免責特権」を剥奪され、フランス司法当局は同氏への事情聴取を開始したと言う。

ルペン女史より遙かに極端なヘイトスピーチを繰り返す石原氏が仮に欧州の政治家であったら、参政権を没収されていたであろう。

微妙な国際関係の中で難問を処理しなければならない日本に必要なのは、頼りになる「友邦」であって「敵対国家」を増やす事ではない。石原氏の無神経な発言は、同氏の自己顕示欲は満たしても、日本の国益には反するばかりである。

「エコノミスト」が攻撃しているのは「保守的な立場」ではなく、卑劣(アンフェアー)な発言にあり、石原氏と同じ「国家主義的タカ派」に属している平沼赳夫氏を「ごろつき(rogue )」と非難しない理由は、平沼氏が保守としての襟持を保ち、政治的立場が異なる相手の人格を傷つけたり、弱者に差別的な発言をするほど無教養ではないからだ。

国際的には「(噛まない)吠え犬」程度にしか見られていない石原氏は、中韓両国にとって今のところ余り利用価値はない。

然し、同氏が率いる「日本維新の会」が自民党と連携を深め、日本の政策決定に大きな影響を与える様な事があれば事情は一変する。

日本の失策を待ち望んでいる中国、韓国のロビーにとっては、石原氏の国内勢力の拡大は願ってもない事で、それを機に「軍国侵略主義の復活」だと海外世論に炊きつける事は火を見るより明らかである。

この影響は日中、日韓の関係のみならず、改憲の国際環境の悪化も招き、石原氏の大活躍は中韓や護憲派にとっては「トロイの木馬」をイーリオス市内に運び込んだと同じ効果を持つ。

石原氏は又、ベルリンの壁崩壊の僅か数ヶ月前に出版したベストセラー『NOと言える日本』でこんな主旨の事を書いている。

「大陸弾道弾に代表される近代精密兵器の心臓部のコンピューターに使われる半導体は、殆ど全て日本が握っており、日本がチップを売らないと言えば、米ソ共にどうにも出来ない位、日本の先端技術は世界の軍事力の心臓部を握っている。三菱重工が、次期支援戦闘機を純国産で考えて設計プランを発表したら、アメリカは腰を抜かしてしまった。アメリカの半導体技術は日本に5年は遅れており、アメリカは日本の技術が他国に流れる事に神経質になっている位だから、アメリカにぺこぺこする理由は全くない」

その後の歴史を見れば、石原氏の世界情勢の把握が如何に単細胞的であるかを雄弁に物語っており、石原氏が日本の指導者にならなかった事は日本国民にとって誠に幸運であった。

石原氏であれ、平沼氏であれ「国家主義的タカ派」には同意できないが、日本の将来の為には憲法改正が必要だと思う私が、石原氏のこれ以上の活躍を望まない理由はここにある。

注;代々の日本政府は、石原氏が無効を主張する東京裁判について「我が国はサンフランシスコ平和約第十一条で極東軍事裁判所の裁判を受諾しており、同裁判について異議を唱える立場にはない」と繰り返し国会答弁をしており、今からこの見解を否定すれば、日本と共に条約に署名した49カ国の反発を受ける事は必死である。

2013年8月18日
北村 隆司