新日鉄は「法の支配」を守り抜け

池田 信夫

日本の植民地時代に徴用された韓国人労働者が新日鉄住金に損害賠償を求めた訴訟で、ソウル高裁は賠償の支払いを命じる判決を出した。これについて産経新聞が「新日鉄は賠償に応じる意向」と報じたが、新日鉄はホームページで産経の報道を否定し、上告する意思を表明した。


日韓の賠償問題は1965年の日韓条約ですべて決着しているが、その後も個人補償を求める動きが絶えない。もちろんこれは国際法違反だが、慰安婦問題で日本政府が曖昧な態度をとってきたことが、彼らを勢いづかせたようだ。昨年、韓国の大法院(最高裁)はこの事件について「戦時中の反人道的な行為」については日韓条約とは別に個人補償を認めるという判決を出して高裁に差し戻したので、上告審でも新日鉄が敗訴するおそれが強い。

政治家が「空気」に迎合するのは日韓とも似たようなものだが、裁判所まで狂っている韓国は、いくら経済的に発展しても精神的途上国である。しかし何の法的根拠もなく「空気」で全国の原発を止めている日本が、韓国を笑うことはできない。司法でも、ライブドア事件の判決などは韓国と同じようなものだ。

新日鉄は短期的な利害(韓国内の営業停止など)を考えると、判決に従うほうが得だろうが、他にも続々と同様の訴訟の動きがある。判決が確定しても新日鉄は賠償を拒否し、政府は韓国政府と国際司法裁判所で争うべきだ。

電力会社も、このまま原子力規制委員会がすべての安全審査を終えるのを待っていると、再稼働までに8年ぐらいかかり、累計で20兆円近い損害が発生する。安全審査と並行して、ストレステストを終えた原発は使用前検査を申請し、経産省がその受理を拒否したら仮処分を申請すべきだ。株主の集団訴訟も考えられる。

日本の「空気」は国内でしか通じない。世界のルールは、殴られたら殴り返さないと負けだ。政府も企業も、日本が「法の支配」が機能する近代国家であることを世界に示すべきだ。それが今後も同様の事件を続発させない歯止めにもなろう。