お金持ちを優遇しろと言うけれど、じゃあ今、優遇されているのは誰なのか --- 城 繁幸

アゴラ

先日、エイベックス松浦社長のFaceBook上でのぼやきが話題となりました。

要約すれば「日本はとにかく富裕層から絞りとるのが大好きな国だ、リスクとってリターンを得てもその多くを持っていかれるから割に合わない」ということです。


筆者も大筋では同意見です。「ダメだ!金持ちからもっと絞りとれ!」なんて人も多いとは思います。でも「若い間は税率の低いシンガポールや香港のフラット課税で稼ぐだけ稼いで引退してから医療費の安い日本に帰るから、それまで頑張って俺の両親の医療費払っといてくれよ、じゃあな!」といってぶらっと所得税の安い海外に働きに出るグローバルエリートを何人も知り合いに抱えている筆者としては、もう所得税の累進課税でことは解決しないと考えています。締め付ければ締め付けるほど、富裕層やエリートはウナギのごとくにぬるりと滑り出ていくだけでしょうから、自分で自分の首絞めるようなもんですね。

ところで、金持ちがいじめられているのなら、逆に優遇されている人たちもいるはずです。税についてアレコレ言う前に、所得税と言うアングルに絞って、まずは彼らの正体を探ることにしましょう。新しいと税制について考えたいという人はもちろん、そこに潜り込みたいと言う人にとっても参考になるはずです。

・先進国一税金の安い日本の中~低所得層

いきなり結論から言いますが、それは中くらい~低所得な方々です。長いので、以後は彼らのことを「平均的日本人」と呼びます。国税庁のH23年分民間給与実態統計調査を見ても明らかなように、年収600万円以下の人たちは実際には控除後には2%程度の所得税しか払っておらず、所得税に関して言えば限りなく無税国家に近い状態と言っていいでしょう。

「彼らは豊かではないのだから当然だろう」なんてことを言う人もいますが、先進国でこれほど普通の人たちの負担が低い国はありません。左翼の皆さんの大好きな北欧なんて年収100万円の人もしっかり年収500万円の人と同じだけの税率(だいたい30%超)を適用されています。

「普通の人がほとんど所得税払わずに世界第3位の経済大国が本当に維持できるのか」と疑問を持った人も多いでしょうが、実際は維持できてなくて、借金でまわしているわけですね。

つい最近、国の債務残高が一千兆円突破したと話題になりましたが、要するに平均的日本人みんなでツケ払いのまま飲み食いしてきたという現実があるわけです。

とはいえ、負担が少ない=自分たちが受け取る公共サービスも少ない、ということでもあります。特に日本の場合は現役世帯向けの社会保障がGDP比で他の先進国の半分程度の水準しかないので、平均的日本人はそれなりに生きづらい面もあるでしょう。

ここで重要となってくるのは“雇用”というアングルです。筆者がいつも述べているように、日本の労働法制は終身雇用の名の下、現役世帯向けの社会保障を企業に丸投げしている現実があります。つまり、たとえ給料の額面がそれほど高くなくても、定年までがっちり職が保証でき(しかも政府に65歳まで雇えと言われれば雇える体力があり)、福利厚生も充実している大企業に入りさえすれば、現役向け社会保障の少なさなんて気にする必要はありません。再就職に向けた職業訓練費、就職あっせん、失業中の生活費など、ぜんぶピカピカの社会保障給付が揃っているようなものですから。

以上をまとめておきましょう。

この国では、平均的日本人であれば税の負担は驚くほど少ない。中でも終身雇用が文字通り保証できる大企業に就職すれば、低負担のまま手厚い社会保障が享受でき、しかもそのコスト負担もゼロである。そして、何かの間違いでそういった大組織が潰れかけても、東電やJALのように税金で救済してもらえる……。

この国でもっとも優遇されているのは大企業の正社員だということです。いい大学に入って良い大企業に入れた人材にとっては笑いが止まらないはず。「税金安いし、社会保障はボクら限定のものが無料で利用できるし、わーい」といったところでしょう。

よく学生の大企業志向を指して「最近の若いもんは草食化しとる」という人がいますが、筆者の見方は全く逆で、彼らはいい肉を腹いっぱい食べたいからこそ大企業を目指すわけです。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2013年8月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。