日本マクドナルド新CEOカサノバ氏の手腕に期待する --- 岡本 裕明

アゴラ

マクドナルドの原田泳幸氏といえば日本を代表する人気経営者の一人で孫正義、柳井正氏の後につけるほどフォロワーが多い人でした。

その原田氏は2004年5月にマクドナルドの運営会社社長に座り、デフレ化の日本において消費者の嗜好に合わせてさまざまなアイディアを打ち出しました。成功したアイディア、失敗したものなどさまざまですが、基本的には価格競争のリーダーとして牛丼戦争との比較にもよく使われたりしました。それは日本の消費者が向かっている方向のトレンドを作り出す形でもあったわけで言い方を変えればデフレが先か、価格競争が先か、ということでもあったわけです。少なくとも原田氏は価格競争における演出においてそのリーダー的役割を果たしたわけです。


その氏が運営会社の社長を降りると発表、社長の席をアメリカ本社が送り込むサラ・カサノバ氏にバトンを渡し、氏は所有会社の籍に留まるとしました。

この動きは考えるところがたくさんあります。

まず、この2年はマクドナルドの業績が着実に落ち込んでいます。この半年でみても売り上げは第1四半期は前期比-14%、第2四半期が-11%となっています。その下落傾向が止まる気配はありません。つまり、原田氏の経営手腕は2010年頃までが「旬」でそこからの布石は間違っていたことになります。ところが、原田氏の人気は冒頭に書いたように絶大であり、神聖化とまでは言わないまでもそう簡単に降りられないし、そのバトンを渡す相手探しが難しかったと思います。今回、自ら一歩踏み込む必要に迫られたということでしょうか?

では原田氏の経営で歯車がずれてしまった理由は何かといえば日本が過度の価格競争に陥り、供給側に価格主導権が完全になくなってしまったことにあるとみています。つまり、ファーストフード経営者は消費者の顔よりもライバル企業の価格戦略を分析することに夢中になってしまい、マーケティングがギミッキー(小手先の手品)のようになってしまった気がします。これは海外から見ている視点ですので国内にいらっしゃる方は違う感想をお持ちだろうと思います。

言い変えればどうしてもマクドナルドに行きたいか、というより、目先のニンジンに磨きをかけ続けたということであります。同じことは牛丼各社もしかりで私はそれについてはこのブログを通じて辛口コメントをし続けてきたと思います。

さて、では原田氏からバトンを受けるカサノバ氏はこの難しい日本のマーケットをドライブできるか、これはまったく未知数であります。が、マクドナルドは「マックに行こう!」から一歩間違えれば「マックかぁ」というイメージと表裏一体だということを肝に銘じなくてはいけません。つまり長年のブランドイメージはそう簡単には変えられません。日産のゴーン氏は出来たのになぜ、マックは難しいかといえば車は大衆車から高級車まで揃えており、幅広い顧客層があります。ですが、マックではステーキや寿司が出せるオプションはないのです。

ところで日本でマックがファーストフードチェーンとしていち早く成長したのはアメリカ本社との運営契約形態において特殊な条項が入っていたからだと記憶しています。つまり、日本市場の特殊性ゆえに日本向けだけの商品をマーケティング、開発してよい、ということだったと思います。今その契約がどうなったか分かりませんが、マックの成長に裏に日本人の品質、価格、目新しさなどの厳しさを耐え抜くための融通があったことは見逃せないでしょう。

とすればマクドナルドはファーストフードチェーンとして誰も追いつけないようなまったく新たなる第一歩を踏み出す覚悟が必要であります。それはアメリカ本社の持つノウハウが答なのか、再び日本独自のアイディアを絞りださねばならないか、これは難しいところです。成長というのは既存の水準プラス上乗せの部分です。上乗せとなれば人間の食は原則一日三回であるわけですから総需要はおのずと決まっており、誰かのパイを盗んでこなければいけないということです。「新しいマックに行こう!」というクリエーションは決して優しいことではないと思いますが、カナダ人のカサノバ氏にエールを送りたいと思います。

少なくとも原田氏の退任は日本のファーストフードの価格競争に一つのピリオドを打ったという点では間違いないと考えています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年8月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。