「正義の戦争」の裏にあるもの--第二次大戦の米兵の性犯罪

2013年08月30日 07:16

戦争の最初の犠牲者は真実である
西欧の格言

screenshotまもなくシリアの内戦に、米国を中心とした西欧諸国が軍事介入するだろう。シリア軍が反乱の鎮圧のために毒ガスを使ったため、それを批判し、抑止を狙うものだ。シリア政府の残虐行為は徹底的に批判されなければならない。しかしそれを止めるためにまた人が死ぬことは釈然としない。

私は中東情勢を巡る知見は少ないし、影響力もない一介の市民だ。ここで素人国際情勢講釈をしても、また戦争反対を叫んでも、意味がないだろう。

しかし、これからの戦争は、これまでの戦争に必ず起こったように、嘘があふれることは予想できる。最近読んだ本から考える材料を一つ提供してみたい。


「女を隠せ」北仏で広がった婦女暴行
 
「ドイツ人を見て男たちが隠れた。次に来た米兵から男は女たちを隠した」。1944年に米英連合軍が上陸したフランスのノルマンディー地方では、住民の言葉が残る。米兵が婦女暴行(レイプ)を繰り返したためだ。

今年6月に米ウィスコンシン大学のメアリー・ロバーツ教授は『兵士らは何をしたのか:フランスにおける性とアメリカのGI』(シカゴ大学出版部、未邦訳・原題『What Soldiers Do: Sex and the American GI in World War II France』)を発表した。米兵の犯罪を調べた本だが、このテーマをまとめて書いたものは珍しい。ちなみにGIは当時の米兵のあだ名で、装備に書かれた政府支給品「Government Instrument」の頭文字を取ったものだ。

125789279709816124716_band_of_brothers-1024x768-433574「米兵はドイツ、ソ連、日本の兵士と異なり、野蛮な行為をしなかった。それを誇りに思う」。『バンド・オブ・ブラザース』(並木書房)という本がある。ノルマンディーで先陣を務めた米軍の精鋭部隊第101空挺師団のある中隊の兵士たちを描いたノンフィクションで、米国ではテレビドラマ化された。そこで記された米兵の行動の総括だ。ちなみにノンフィクションも、ドラマも、素晴らしい作品であったと、私は評価している。

著者の米歴史家スティーブン・アンブローズが、本で一貫して主張するメッセージは「GIの偉大さ」。民主主義で生きる普通の市民が、倫理観と規律を持った戦士となったことを強調した。そうした兵士は多かったのだろうが、すべてがそうではなかった。

荒廃したノルマンディーで米兵は食料を見せ、女性たちを性交に誘った。いたるところがその場となった。しかし、すべてが合意ではなく、性的暴行の報告も数百件残されている。多くのフランス人が抗議をしたものの、米軍幹部は善処を約束しても積極的に取り締まらなかった。
 
婦女暴行は「優位に立つ」手段

なぜ一部の米兵は性犯罪に走ったのか。ロバーツの分析によれば理由は複合的だ。当時の記録によれば「フランス人に対して優位に立つ」手段として買春や性的暴行を認める兵士がいた。男性が持つ征服欲のゆがんだ形での具体化が、それらだったのかもしれない。

婦女暴行で訴追された軍法会議では、軍の中で差別的な待遇を受けた黒人兵が多くを占めた。米軍の法務担当将校の記録では1944年秋の一時期の140件の裁判のうち、120件が黒人兵だったという。社会や組織で抑圧された感情が弱者を前に爆発した面もあるのだろう。

メディアの影響もロバーツは指摘した。当時は写真雑誌が影響力を持ったが、歓迎される米兵の姿が繰り返し報道された。インターネットで当時の写真を検索できるが、美しいフランス女性が米兵に花束を捧げるという、ロマンチックな印象を受ける、よく似た構図のものばかりだ。

米兵と女性が抱き合い軍用車両の上で口づけをする写真が、有力写真誌ライフの表紙をかざった。(前述の本の表紙になっているもの)当時の倫理基準では過激なもので、米軍も検閲をしていたが、兵士の士気高揚のために掲載が許可されたという。こうした報道が、若い兵士の心に妄想を育ててしまった面もあるようだ。

ロバーツはフランス通信(AFP)の今年6月のインタビューで、研究の目的を語った。「歴史を書き換えたいわけではなく、フランス側から見た実態を明らかにすることで、ただの空虚な英雄話にとどまらない人類の経験の一つとして、米兵の姿をとらえ直したい」。

加害者の罪の意識は消された

第二次大戦における「正義の軍」というイメージを米軍は当時から現在まで強調している。連合軍最高司令官だったアイゼンハワー元帥、のち大統領は欧州戦の回顧録の名前を、『ヨーロッパ十字軍』とした。影響力のある米国のメディア、そしてハリウッド製の映画を通じて、そのイメージは世界に流布して定着した。しかし、それは一面にすぎず、性をめぐる野蛮さもあったのだ。

連合国の軍人は戦勝者として、政府と国民から讃えられた。ロバーツは軍をめぐる「伝説がつくられた」と描写している。米ソ両国では「正しい戦争だった」という価値観が強調され、ナチスと日本への勝利を、自国体制の優越性を示すものとされた。

ところが現実の戦闘は残忍なもので、恥ずべき戦争犯罪があった。ところが、それらは消されて美談だけが伝えられた。戸惑いを感じる元兵士も多かったが、それは表立って語られなくなってしまう。

「戦争の最初の犠牲者は真実である」という西欧の格言がある。シリアと中東をめぐる戦争では、過去と同じように、それぞれの国、軍、そして参加した個々の兵士、武器商人などの周辺の関連者から大量の嘘があふれ出す。そのことを、私たちは心に留めて、これから見聞する情報に接するべきだ。そして、その情報の背後には、無数の死と悲しみがあるだろう。

これまでの戦争、そしてこれからの戦争で亡くなる死者を悼む態度を持ちながら、情勢を見守りたい。

石井孝明
ジャーナリスト
ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター:@ishiitakaaki

(ちなみに、ここで取り上げた情報を含め、ワック出版の論説誌ウィル11月号(9月発売)で、『米軍・ソ連軍は何をしたのか?-知られざる欧州での第二次大戦での性犯罪』(仮題)を寄稿させていただく。ご一読賜れば幸いである)

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