デジタル教科書の導入を急ぐ前に

2013年08月30日 17:17

中村伊知哉先生の記事:「1人1年1万円でデジタル教科書を」を拝読しましたが、何故、そんなにデジタル教科書導入を急ぐのか、正直、納得できませんでした。 ここでは自分の疑問点について、簡単に書いておきたいと思います。


デジタル教科書の優れた点をデータで示すべき

私のデジタル教科書に関する疑問点は、本当にそれが有効なのか、という点で、これについて疑問をぶつけたところ:

という返信がありました。これを見ると、デジタル教科書が教育の達成度を上げることは、既に世界的に認められていることのようです。

しかし、本当にそうなのでしょうか? 2012年9月の教育家庭新聞には、「日本デジタル教科書学会が設立 学術的な検証めざす」という記事がありますが、デジタル教科書の有効性については現在、検証中のようです。その記事には

記念シンポジウム「日本のデジタル教科書について語ろう ~1人1台導入に向けて」では、赤堀侃司・白鴎大学教育学部長が学習効果について、デジタル教科書と紙の教科書の比較研究の結果を話した。

タブレット端末やPCでそれぞれデジタル 教科書を使って学んだ場合と紙の教科書で学んだ場合効果を比較すると、決められた内容を記憶したり、理解したりすることについては紙の教科書の方が成績は優位だという。一方タブレットを使った場合は、発展的に考えたり、自分の意見を表現するときについて優位性が見られた。 (中略)

豊福晋平・国際大学准教授は、「従来型の授業で使っている掛け図や黒板といった教具をデジタル教材に変えただけでは効果は上がらない。従来の学力を前提に考えている限り、デジタル教科書を使ったとしても劇的な効果が上がることはない。21世紀型スキルなど、これから求められる学力についても効果検証を行う必要がある」と話した。

とあり、デジタル教科書が、紙の教科書に比べて優れているとは、言い切れないようです。 むしろ、デジタル教科書は、現在求められている学力とは別の学力を付けるためのもの、とも読めるように思います。

中村先生には、デジタル教科書の有効性について、専門誌に掲載された学術論文を分かり易く解説して頂き、実証実験の詳細なデータを含んだ説明をお願いしたいと思います。 「そんな話はもう世界的には終わっていて、そんな話をしているのは日本だけ」といった簡単な説明では、到底納得できないのです。

中村先生は、「デジタル教育反対派への10の質問」 という文章も書かれていますが、。ここでも

デジタルによる学力向上の効果について、プラスの成果は日本にとどまらず全世界から報告されている。これに対し、非デジタル学習のほうが学力向上効果が高いという成果、評価を示してもらえませんか?

といった簡単な一言でデジタル教科書の有効性を簡単に述べているだけです。これで納得しろと言われても、不可能でしょう。 むしろ、明確な有効性を提示できないので、導入しない方がましなのか? と居直っているようにも見えます。

中村先生がすべきなのは、デジタル教科書が確実に紙の教科書よりこれだけ優れていて、導入しない道理はないといった説得的な説明をすることではないでしょうか。 

 
韓国で進むデジタル教科書導入だが

日本に先行してデジタル教科書の導入が進む韓国の事例では、「小中高校生のネット利用学習の現状/韓国のデジタル教科書の課題/iPadの教育効果とは?調査結果 詳細をを9/25に発表」を見ると

韓国のデジタル教科書については、教員の4割が肯定的意見であるものの、「(導入しても)教育効果を高められない」「著作権の問題がクリアできていない」といったデメリット面も指摘されています。

と記述されており、実際、 eラーニング戦略研究所が、韓国の小・中・高校の教員計99名を対象に、デジタル教科書の全面導入に関する
アンケート調査
を実施したところ、次のような結果が得られています。

デジタル教科書是非

デジタル教科書利点

これを見る限り、韓国の教員がデジタル教科書導入に、諸手を挙げて賛成しているわけではないし、教育効果が上がるともあまり思っていないことが見て取れます。

デジタル教科書の負の側面にも目を向けよう

 
最近、インターネットのゲームやメッセージのやり取りを自分の意志でやめられないといった、いわゆる「インターネット依存」になっている中学生と高校生は全体の8.1%に上り、国内に51万8千人もいるという厚労省推計が発表されましたが、インターネットの持つ負の側面が深刻化していることを窺わせる現象も起きています。「インターネットの脳への影響について」で書いたように、インターネットの負の側面に目を向けると同時に、デジタル教科書の負の側面にも目を向けるべきではないでしょうか。 

デジタル技術は、我々が触れることのできる情報量を飛躍的に増大させますが、私は、学習とは情報を如何に取捨選択し、頭の中で論理を組み立てるかの訓練であり、学習素材は最小限にするのがよいという考えで、その取捨選択ができない、小中学生の中に、デジタル教科書に触れさせることはマイナスであると考えますが、如何でしょうか。

丁寧な手続きを

 デジタル教育推進に当たっている方々には、効果は世界で認められている、といった漠然とした説明ではなく、デジタル教科書を導入したグループでは、それを使用しないグループと比較して、英数国の平均点が、こんなに上がるといった、はっきりとした効果を国民の前に提示して頂きたいと思います。

デジタル教科書の導入は、教育という国の根幹に関わる問題です。 ですから、その導入にあたっては、きちんとした大規模な実証実験を数年掛けて行い、メリット、デメリットを国民の前に提示し、徹底的な議論の後に導入すべきでしょう。

追記: 中村氏から次の返信を頂いたが

 

これは中村さんが、デジタル教科書の有用性をご自分で証明する意思がないということなのでしょうか? もしそうだとすれば、大変に遺憾なことです。 デジタル教科書の導入は、現状の変更ですから、現状を変更する側に、その正当性の証明責任があるはずだからです。  「現状を変更しないことのメリットは何か? それが証明出来ないなら現状を変更する」といった言い分が通るはずがありません。

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