「平和を愛する」米大統領の軍事介入 --- 長谷川 良

2013年09月03日 12:24

オバマ米大統領は大統領就任直後、ノーベル平和賞を受賞するという歴代の米大統領が享受したことのない栄光を受けた。そのためか、大統領は平和賞受賞者に相応しい発言と実績を積み重ねなければならない、といった強迫概念に囚われているのかもしれない。


平和賞受賞者の米大統領は、「プラハ演説」(2009年4月、核兵器なき世界の実現)、「カイロ演説」(同年6月、イスラムとの和解)、そしてドイツの「べルリン演説」(13年6月、核軍縮案提示)で格調あるメッセージを世界に向かって発信した。その一方、大統領選の公約でもあるイラク戦争の終始とアフガニスタンの米駐留軍の撤退を急いだ。あれもこれも「平和を愛する」米大統領だからだ。

ところが、大統領自身が尊敬する米国の黒人公民権運動指導者マーチン・ルーサー・キング牧師の「私には夢がある」という歴史的演説が行われた「ワシントン大行進」50年記念行事(8月28日)に参加した直後、シリアの化学兵器使用が確実となったとして、シリア政権への限定的軍事介入を余儀なくされている。

イラク戦争勃発の契機となったフセイン政権の大量破壊兵器保有情報が間違いだった事が判明し、米ブッシュ政権は大きく威信を失った。それだけに、オバマ米政権がシリアの化学兵器使用問題で慎重な姿勢を崩さないのは理解できる。早急な決断で同じ失敗を犯すことは避けなければならない。

米政府が8月30日、公表した報告書によると、「アサド政権は8月21日、ダマスカス郊外で化学兵器を使用、1429人の死者を出した」という。「平和を愛する」米大統領は「化学兵器の使用はレッドラインだ」と警告を発してきただけに、対シリア軍事介入を決意せざるを得なくなったわけだ。

世界の大国米大統領が自身の発言を軽率に扱った場合、その後、どのような発言をしたとしても世界から信頼性を得ることは難しくなる。演説の名手オバマ大統領は自身の発言に拘束されてしまったわけだ。

オバマ大統領は8月29日、連邦議会に対してシリア状況を説明し、武力行使の支持を得る意向を表明した。それに先立ち、米国の同胞・英国のキャメロン政権は下院で対シリア軍事介入案を否決されている。同じように、オバマ大統領の軍事攻撃案が連邦議会で拒否される可能性は皆無ではない。にもかかわらず、「平和を愛する」米大統領はそのリスクを遇えて受け入れたわけだ。

歴代の米大統領は戦争を決意する時、ホワイトハウス内の祈祷室で神に祈りをささげ、その決意が正しいかどうかを問うという。どのような戦争でも開戦すれば数多くの命が失われる。大統領の決意で数千、数万の米軍人の生命がかかっているわけだから、その深刻さは想像を絶するだろう。

ちなみに、イラク戦争以後、米軍の主要な戦闘ではパイロットが操縦する戦闘機による攻撃ではなく、無人戦闘機が戦闘に駆り出されるケースが増えてきた。特に、オバマ政権後、無人機が戦闘で主要な役割を果たす傾向が強まってきた(米軍の現在保有無人戦闘機は約8000機)。

米軍兵士の犠牲の少ない無人機を駆使することで、戦争に付きまとう悲惨なシーンは米国のお茶の間には伝わらないかもしれないが、「無人機は相手国の多数の市民を巻き込む危険性が高い」として、国際人権擁護グループは無制限な無人機導入に強く反対している(「無制限な『無人機』導入は危険だ」2013年8月6日参考)。彼らは、「オバマ大統領は無人機導入に最も積極的な米大統領だ」と指摘している。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月3日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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