アップルの「コアユーザー」指向は正しい --- 岡本 裕明

アゴラ

アップルが予想通り、iPhone5sおよび5cの発表を行いました。そしてその機能はiPhone5からのマイナーチェンジで市場がさほど驚くことはありませんでした。一方、廉価版の5cについてはその価格戦略が中国で非常に高い打ち出しとなったことで失望感が広がりました。アップルの戦略とは何なのでしょうか?


一言で答えるならば昔のアップルに戻りたがっているのではないかと思います。つまり、マス向けの商品ではなく、むしろ、ギーク(おたく)の製品としてやっていきたがっているように見えます。そのひとつの戦略がアップルの評価が高い日本においてはドコモでの販売を認め、更なる拡販体制を作る一方で中国では5cを7万円強の値付けとする強気姿勢に出ています。しかも中国では5sはまだ販売しません。

ご記憶にある方もいるかと思いますが、中国でアップルの製品修理の際に新品と交換しないというクレームが最終的に政府も巻き込んでの大規模な反アップルキャンペーンとなり、ティム・クックCEOが謝罪したという「事件」がありました。クックCEOとしてはこれほどの侮辱はなかったはずです。つまり、マスに売り込んだことでアップルのクオリティの高さを中国製の安い商品と価格比較やサービス比較され、アップルはだめだとたたかれたことに「中国の消費者のアップルとの付き合い方」に疑念を抱いたということでしょう。

一方で日本ではアップルの商品は極めて高い評価を得ています。理由のもう一つがドコモがサムスンギャラクシーを販売することで顧客の好みが出た、ということだと思います。結果としてアップルが日本では優勢になるということかと思います。ならば今回の世界での先行発売グループの戦略において日本市場を重点とし、ドコモを加えることは理にかなっています。

スマホはいまや、コモディティと化す勢いでアップルやサムスン、あるいはソニーなど日本勢の商品に対して各国、各社さまざまな廉価版を出しています。アップルでも4sは無料化となるようですからこの市場は確かに過当競争といえましょう。その中でアップルの5cの発表価格はアメリカでも高い、という印象をもたれました。それが結果として発表翌日のアップル社の株価に影響し、5%強の下落を強いられたわけです。

私はこのブログで何度か指摘してきたと思いますが、アップル社はもともとは個性の強い商品を作る会社であり大衆向けのマスプロダクトの企業ではありませんでした。ところが、iPhoneの成功は同社をメジャーな会社へと押し上げ、あまりにも多くのプロフェッショナルな株主である投資ファンドと機関投資家を抱え、株主の声は日を増すごとに大きくなりました。結果としてアップルが普通の会社にならざるを得なかったのは株主に左右される会社となったからであるともいえるのです。

アメリカにおいて株主とは何かといえば、企業の「うるさ型」であるともいえます。私どものカフェ部門のコーヒー豆が来週から変わるのですが、この地元でNO.1のロースターに「お客からお宅とスターバックスの違いは何か、と聞かれたらなんと答えますか?」と質問したところ、「スターバックスは株主のためのコーヒーであり、当社は顧客のためのコーヒーである」と見事な答が返ってきました。

アップルの戦略は体力勝負となるマスマーケットに入り込むよりアップルを理解し、こよなく愛す顧客の為にしっかりとしたモノを作るというスタイルに持っていこうとしているようにも見えます。もし、そうであるならば株主には申し訳ないですが、企業家としては正しい方向性のように思えます。何も市場シェアで一位をとり続けることばかりが正しいわけではなく、圧倒的で熱いファンを大事にするほうが企業戦略としては今後、正しいとされるかもしれません。

そのためにもアップルが発売するであろうウェアラブル端末やアップルTVもさすがだね、と思わせるアイディアが満載であってもらいたいものです。

今日はこのぐらいにしましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年9月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。