汚染水問題、東電「何やってんだ」ではなく「やりすぎ」だ

2013年09月13日 00:30

事故を起こした福島第一原子力発電所から流れ出る汚染水問題が社会的な関心を集めている。2020年に開催の決まった東京五輪にも、福島事故の収束にも影を落とす。本当の状況はどうなのか。

これが大規模な海洋汚染へつながり、人体への健康被害が起こるとは考えにくい。「騒ぐな」と、アゴラのコラムで私見を述べた。(「福島原発の汚染水問題、健康被害の可能性なく騒ぐ必要なし」)今回は対策を見てみよう。


感想をまとめると「やりすぎ」だ。福島原発事故後のエネルギー・原発政策で見られたように、コストと効果に配慮した合理的な対策をしない愚行が、この問題でも繰り返されそうだ。

オリンピックが絡み政治問題化

汚染水は福島原発で以前から問題になっていた。再注目されたのは、今年5月に海の近くの観測用の井戸で、地下水から高濃度の放射性物質が検出されたことがきっかけだ。確認が遅れ東電の公表が7月までずれ込んだ。原発事故以来、原子力関係者と東電に不信が広がる。「また隠蔽したのか」という誤解と共に問題が語られてしまった。

おりしも今年8月はオリンピックの候補地選考の真っ最中。その中で海外メディアが注目した。開催が決まった9月のIOC(国際オリンピック)総会で、内外メディア、IOC委員との討議では汚染水問題に質問が集中。そこで安倍首相は「(福島第1原発の港湾で)汚染水は完全にブロックされている」と明言した。

安全を強調した一連の発言は、懸念を払拭して東京選出をもたらした一因とされる。しかし、これによって汚染水の封じ込めが国際公約になった。

汚染水、漏れは3ルートと推定

実際の水漏れの対応はどうなのか。漏れは3ルートと推定される。事故直後には海からポンプで水を浴びせて、原子炉を冷却した。その汚染水が原子炉近くに溜まった。水の大半は汲み出して保管している。しかし原子炉建屋は構造上海につながっていた。この水が残り、漏れている可能性がある。

また日本はどこも地下水が豊富だ。福島第一原発付近もそうで、毎日1000トン前後の水が事故を起こした4つの原子炉付近に流れ込む。水の動く速度は1日数十センチ程度という。この地下水が原子炉容器から溶け出した核燃料に触れたり、建屋内から漏れた汚染水と混じったりして、海に流れ出ている可能性がある。

また東電は事故後3カ月後ぐらいから、水を循環させて炉を冷やす仕組みを作り、使った水をタンクに貯めている。その総貯蔵量は8月末で33万立法メートル、約1000個のタンクに貯蔵している。その水の大半は除去装置で危険なセシウムを取った。東電は安全な水を海に投棄することを検討したが福島県、地元漁協、そして近隣諸国から反発を受けた。そのために、すべての汚染水を保管するという大変な取り組みをしている。

そのタンクの一部が破損し、汚染水が漏れたことが8月に分かった。ただしそこから出る高線量の放射線は遮蔽が容易なベータ線であり、作業員や福島への悪影響の可能性は少ない。これも漏えいルートだ。1000個もタンクがあれば、1、2個は壊れるだろう。人体に影響は考えられず、この水を流せるように、政府が交渉を始めた方がよい。さもなければ、タンクは無限に増え続ける。ちなみに、東電はこの倍の容量分のタンクを作る計画を持っているが、その先は決まっていない。

徹底した水ブロック対策、その効果は?

東電は無策だったわけではない。「水との戦い」と、東電幹部は事故処理を振り返る。ただし、使用済核燃料を保管していたため、建屋の補強と取り出しが早急に必要になった4号炉の対策に追われるなど、「複合災害だったので、汚染水だけに向き合えなかった面がある」(政府高官)という。

現場は放射線量が高いために作業時間が限られ、状況が明確には分からないところがある。ただ流失経路はおおよそ分かり、対策が打たれている。

東電は地下水を流入させないために、山側に井戸を12本堀り、水を抜き取る予定だ。そして海側には外洋に水を出さないために、遮水壁を建設中だ。また数カ月以内にはセシウム以外の他の核物質を取り除く装置を稼動させる。

そして政府は問題に介入した。オリンピック決定前の9月に470億円を予備費から財政支出して、事故炉の山側に遮水壁を建設することを安倍首相自らが表明した。

この壁では杭を打ち、そこから特殊冷却剤をしみ出させて、地中に凍土の壁をつくる特殊工法を採用した。地中の地形が複雑であるために、氷の壁で水を遮断する。これは地下に構造物、岩盤があるために採用した、最新の技術だ。ただし総延長約4kmの内陸、海側双方の壁の完成まで約2年の予定だ。

図1遮水壁の建設計画(東電資料より)

写真1-s

図2最新技術による凍土壁(東電資料より)

写真2-s

東電幹部に現状を聞くと、「状況はよい方向に向かっている。原因がほぼ分かり対策が決まった。あとはそれを実行したい」という。しかし、ここまで徹底した対策を行う必要はあるのだろうか。それを聞くと、「私たちが事故を起こした。その責任を果たしたい。福島、そして多くの皆さまに迷惑はかけられない」と答えた。
 
原発事故を起こしたことで、批判を受け続ける東電だが、「責任感」、そして「まじめさ」を評価される組織文化を持つ、良い面も多い企業だ。その長所は会社の危機にあっても発揮されている。それは評価されるべきだ。

しかし一連の取り組みに応分の見返りがあるとは思えない。現時点で、壁の建設費は山側だけで、470億円になる。汚染水対策だけで、どの程度の費用が必要になるのか。総額はまだ不明だ。

私は対策について、資金面から可能なのか不安を感じるし、必要なのかという疑問も抱いてしまう。汚染水を止めることは当然だが、対策コストと効果を洗い出し、検証することをしていない。こうした対策費は、東電が実質国営化され、地域独占企業である以上、税金かもしくは電力料金で支払われることになる。

これまでの東電の原発の事故収束の費用は1兆円を越えているが、汚染水を含めて事故対策で「放射能漏れゼロ」「リスクゼロ」を目指すとコストはさらに兆円単位で増え続けるであろう。

東電の努力は、局所では正しくても、全体からみると、いびつな姿をしている。もちろん批判を東電だけに負わせることは酷だ。放射能防護の明確な指針を示さず、現場の東電に責任を丸投げした国の行動に問題がある。

余談ながら、太平洋戦争を振り返ると、前線部隊が奮闘。当時、世界最高水準の技術を持った海軍航空隊、連合艦隊が投入され、机の上では見事な作戦計画がつくられる。しかし大本営に大戦略と決断がなく、大量に来る米軍に部隊がすり減り、補給路を守りきれずに切断されて前線が崩壊するというパターンが繰り返された。

前線部隊を「東電」、大本営を「政府」、敵を「汚染水」、補給を「東電の資金」に置き換えると、過去の失敗がそのまま当てはまるように思える。現場の頑張りと、国の無策が国家的な危機のたびに日本で繰り返されるのは不思議だ。

外野からの迷惑な介入

さらに問題を混乱させる波乱要因がある。原発問題でいつもの通り、「放射能リスクをゼロにしろ」と騒ぐ人々がいる。その目立つ人の中に政治家がいるのは、滑稽かつ困ったことだ。

放射能をめぐる無意味な騒擾の中心、福島みずほ参議院議員が「いつも通り」、ツイートと議員質問状で騒ぐ。

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放射性物質の飲料水の基準は、10ベクレル・リットルである。彼女は0・021ベクレル・リットルの放射能が漏れたと騒ぐ。「ブロック」という言葉の意味が正しいのか否か、またその微量が漏れたかどうか、私たちの健康にも、生活にもまったく関係ない。騒ぐことがばかばかしい。

もし福島議員が、この無意味さを分かって目立つために騒いでいたら人心を惑わす「魔女」だ。分からないでやっていたら、原発事故から2年半も経過しているのに放射能をめぐる正確な知識を得られない彼女の学習能力の低さを、私は哀れむ。

もう一人のお騒がせ政治家で、力がなくなりつつある過激な反原発派のヒーローになっている新潟県の泉田裕彦知事。彼は東電の柏崎刈羽原発について、法的な根拠がないのに、東電が再稼動をすることを拒否して、「国が間違っている」と騒いでいる。

泉田氏はこんな発言をした。「放射性物質の管理を3月11日以前よりも緩めることにより健康被害を受ける人が出ることになれば、わかっていてやったら殺人に近いのではないでしょうか」。(新潟県知事記者会見2月14日分)「殺人」という異様な言葉は一例だが、彼の原発をめぐる一連の発言は、かなりおかしい。

その彼の主張に従って原発を止め続けたとしよう。原発1基が1年間停止すると同じ分の電力(100万キロワット)を作るために、1000—1200億円分の燃料費が余分に必要になる。泉田知事がごねるほど、東電が福島事故収束のために回す資金が減っていくのだ。「責任を取り、金を返せ」と、彼に言いたくなる。

おかしな政治家の無意味な騒ぎは、今すぐやめてもらいたい。

オリンピックはスポーツの祭典。祝祭の費用は興奮の中で「青天井」になりがちだ。そして常識を持つ人にとっては明らかにおかしいと感じる2人の政治家の姿を紹介した。このような騒ぎをする人々が、これまでの原発事故がらみの問題と同じように、新たに関心を集める汚染水問題でも騒ぎ始めた。そして五輪に合わせて、「リスクをゼロにしろ」という叫びが、政策になりやすい状況にある。

無駄に付き合うのはうんざりだ。その結果、祭りの後の請求書が深刻なほど巨額になることを、私は心配している。

石井孝明
経済・環境ジャーナリスト
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
Twitter:@ishiitakaaki

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