デジタル・ネイティブには、まず基礎学力を

2013年09月15日 18:50

生まれながらにパソコン、タブレット、スマートフォンなどITに親しんでいる世代をデジタル・ネイティブといい、彼らの特徴は、(1)現実の出会いとネットでの出会いを区別しない(2)相手の年齢や所属・肩書にこだわらない (3)SNSを使いこなして、国内外問わずネットワークを構築するのが得意、(4)情報は無料と考える、といった特徴が指摘されている。

デジタル端末に囲まれる生活が普通になり、デジタル機器を使いこなして仕事をすることが普通になったことや、最近、フェイスブックの創業者、マイク・ザッカーバーグなど、若くしてITスキルを生かして起業する人たちが増えたことから、ITスキルを小学生の中から身に付けさせようという主張がある。

ここでは、この主張について考えたい。


若者のIT利用は実は保守的

始めに挙げた、デジタル・ネイティブ像を見ると、多くの若者は、会ったこともない人とネット上で友達になったり、同年代でない人とやりとりしたり、自分でブログを書いたり、動画を投稿したりしているように思うかも知れない。
こういった若者が多いなら、彼らの発信力や創造力を伸ばすことで、経済成長が加速することも考えられよう。

しかし、平成24年度青少年のインターネット利用環境実態調査(速報)を見ると、多くの若者は、スマホや、パソコンをメールのやり取り、調べもの、ゲーム、音楽や動画の視聴などに使っているだけで、SNSの利用は、多くない。 

実際、私の家にいる高校生の愚息2人を見ても、メールをやり取りするのは、クラスや部活の仲間などに限られているし、パソコンも通学のバスの時刻を見たり、検索をしたり、音楽をダウンロードしたり、動画を視聴したりといった使い方しかして居らず、ITを使って自己表現をしているわけでもないし、会ったこともない人と繋がるといったことも全くしていない。 要するにネットの使い方は、極めてプリミティブな範囲に留まっている。

私は大学教員なので、日々、大学生に接しているが、彼らを見ても、ネットの利用の仕方は、高校生の使い方とあまり異なっているようには見受けられない。

大部分の若者のITの使い方は、極めて受動的で、自己主張をネット上で展開したり、ネット上で会ったこともない人と議論や情報交換をする若者は稀だと言える。

このように内閣府の調査結果から、はじめに述べたデジタル・ネイティブ像というのは実は幻で、ほんの一部の目立った人たちの事例を元に作られた想像上の産物ではないか、と思われる。

基礎学力の低下

そもそも、ITスキルといった新しい学びを考える以前に、基礎学力の低下が起きている。

学力低下が起きていることは、苅谷剛彦の調査報告「学力低下」の実態 (岩波ブックレット)を見れば、データで示されている。89年と02年で同じ問題を使って、小学5年生と中学2年生それぞれ千名程度にテストした結果、有意に数学、国語とも学力が低下していることが裏付けられた。

さて、この学力低下の原因は何だろうか? まず、家庭学習の時間が減少していることが考えられる。 実際、ベネッセの調査によると、下のグラフのように家庭学習時間は減少し、家庭学習をほとんどしない層が増加している(一般には、ゆとり教育により学力が低下したと考えられているようだが、家庭学習時間の減少も大きい要因のようだ)。

平均

こういった学習時間の減少が、世界と比較してどうなのか、が気になるところだが、日本の学生の学習時間は、中国の約半分で、韓国よりも大分少ない。『韓国人学生 日本人学生を「ありがたいくらい馬鹿」と評す』を見ると

昨年発表されたOECDの生徒の学習達成度調査(PISA)の最新ランキングで、日本は「上海」、「韓国」に惨敗していた。

読解力」で上海は1 位、韓国は2位、日本8位。「数学的リテラシー」で上海は1位、韓国は4位、日本は9位。「科学的リテラシー」では6位の韓国に僅差で勝った(5位)ものの、やはり1位の座は上海に奪われた。

日本人は勤勉で優秀、だったのも今は昔。「アジアの盟主」の座から転げ落ちた日本は、アジア中でも韓国、中国から馬鹿にされている。

まずは韓国。ネット上には日本人の知性、能力の低さに呆れる書き込みが溢れている。

「日本の若者は率直に言うと、ごくわずかの一流の大学生を除くと韓国の大学生より勉強する時間が少なく、韓国の大学生より知識も劣る」

日本の中高校生の勉強時間は、中国の中高校生のほぼ半分しかないことが24日、財団法人日本青少年研究所のまとめた調査で分かった。韓国の中高校生と比べても少なかった(注:日本 8時間、中国 14時間、 韓国 10時間、授業時間、塾の授業を含む)。それでも日本の高校生の約8割は学校の勉強が「きつい」と感じており、学力低下の一端をうかがわせる結果となった。

と書かれている。実際、日韓の教育熱の差は極端だ。 日本の教育熱は中韓より著しく低い。

これには、様々な社会要因があると考えられる。 思いつくだけでも

(1)少子化で入試が緩和され、受験圧力が弱くなったために学習意欲が減退。
(2)学歴信仰が崩れ、勉強してよい大学に入っても、社会的な成功に結びつくものではないという無力感。
(3)ゲームなど享楽的な娯楽が増え、忍耐や持続が伴う学校の学習活動に興味を示さなくなった。
(4)社会的な教育力の減衰。
(5)所得格差が、教育格差として顕在化し、教育困難が生じている。

が挙げられる。

こういった社会要因の一つにITによる社会の変化があることは事実だろう。 実際、ベネッセの記事によると、携帯電話の使用時間と家庭での学習時間には逆相関が見られるようだ。

韓国でもスマホ依存が社会問題化している:

我々は、ITが子どもたちの学習の妨げにならないように、細心の注意を払う必要があると言えそうだ。

基礎学力を身に付けることが先決では?

こうした基礎学力の低下している状況から考えると、12歳の子どもが独学でプログラミングをおぼえ, ついにiPhoneアプリの会社まで設立、といった話があるにしても、ITスキルを小中学生の中から、身に付けても、ITスキルを使って、ビジネスを始めるといったことは、ほとんど期待できないだろう。

そもそも、ITスキルを小中学生の中から身に付けるといっても、タブレット、スマートフォン、PCの基本操作だけなら、多くの高校生は身に付けているし、高校では情報の授業もある。 また、小中学校へのパソコン導入も進んでいる。 これ以上、何を教えるのだろうか。

基礎学力の養成の方が、ITスキルの早期養成より遥かに重要だろう。

実際、日本数学会の大学数学基本調査で、こういった基礎的な問題の正答率が、これというのではお話にならない。日本の大学生の論理能力は、ここまで落ちているのである。

こういった実態を無視して、技術立国日本と言ってみても虚しいばかりだ。子どもたちを学業に専念させるような社会づくりを推進することが、必要だ。たとえば、まず、ネットゲームをするのに、タバコのように年齢認証を義務付け、18歳以下はアクセスできなくするといった、年齢によるアクセス制限をすることから始めてみてはどうだろうか。

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