妄想新聞vs虚構新聞

真野 浩

 柳条湖記念日の今日、私は南京で開催中のIEEE802 Wireless Interimという無線LANの標準化会合に参加している。昨今の諸々の日中情勢もあり、何があったわけではないが,いつもより緊張感があるのは否めないのだが、そんな緊張を癒す気晴らしネタになる、とても夢のあるニュースが飛び込んでた。

 それは、1秒で映画3本受信 五輪にらみスマホ高速通信 という、なんだかとてもワクワクしちゃう,未来を予感させる記事だ。


  ちょうど、4ヶ月前にあったハワイ会合の時には、無線LAN速度10倍 NTTなど20社で国際規格 3年後実用化へ」という記事が飛び込んできて、その時はメディアが阻む国際技術競争力という記事を、アゴラに投稿した。

  今回も、まったくこの時と同じで、この記事の信憑性を裏付ける技術や標準化活動の事実は、少なくとも私の周辺には存在しない。もっとも、今回の記事は、総務省がこういう分野で民間委託して研究を推進するということだから、それはそれで事実なんだろう。

  たしかに、IEEE802.15では、SG-100Gというテラビット通信のStudy Groupが今回からはじまったけど、まさかこれに触発されたり、この事を勘違いしたんじゃないよね…..と信じたい。

 前回の記事以後も、「光回線並み」という、いつものフレーズが何度か紙面に登場したけど、今回の「1秒で映画3本受信」というフレーズは、ちょっと新鮮みがあって素敵かもしれない。これは、この先暫く使われるフレーズとして、記者の辞書データが更新されたのだろう。

 この投稿の目的の一つは、この記事を読んだ瞬間に、”1秒で3本遅れる映画って、どんなショートムービーだよ”と1人ツッコミをした人に、あまちゃんの一シーンのように、”まぁ、まぁ、まぁ、まぁ”と宥める事でもある。

 インターネットやソーシャルメディアのお陰で、今やメディアの伝える事は、鵜呑みにしてはいけない事は、多くの良識のある人は判っている。それでも、まだまだ鵜呑みにして、現場をかき回す人もいるから、こういう妄想記事がどうやって書かれるのかを推察してみた。

 経済誌のこの類いの妄想記事は、そのソースが霞ヶ関で、それを記者クラブの担当記者が受けて書いてるのだろう。記事というのは、複数のソースから周辺情報等を取材して、多角的に評価して,裏付けを得るのが望ましいのだろうが、記者クラブという籠の中では、そんなことは出来ないのだろう。もし、そんな事をしたら、折角のネタをくれた官僚の顔を潰してしまう。ということは、この類いの記事は、早い話が民間企業が独自に発表するプレスリリースみたいなものだと理解しておけば良い訳だ。

 もちろん、こういう記事は、そのネタを持ち込んだ民間なりアカデミックな大元がいて、そういう人がご都合主義でいろいろと誇張した情報を吹き込むことに端を発している。だからこそ、メディアがその真贋を精査することを期待してしまうのだが、残念ながらエンターテイメントである妄想新聞には、どうやらそんな機能も矜持もないというわけだ。

 しかし、同じエンターテイメントならば、虚構新聞のほうが遥かに良質で、スパイスが効いていて楽しい。そして、何よりもの違いは、虚構新聞は、その記事の内容が事実になってしまったら、社主自らが時には頭まで丸めて謝罪して、説明責任を果たしてくれていることだ。

 一方、妄想新聞は、ドコモiPhone ネタ(ついに事実化したけど)とか、大手合併ネタとかで、幾度も妄想が否定されても、決して誤報とは認めない。もっとも、誤報ではなくて、妄想なんだから、それで構わないのだろう。

 大事なことは、災害や事件報道のように、既に発生した事象を伝える報道では、新聞というメディアは、そこそこに有効だ。しかし、これからの将来を語る多くの記事は、残念ながら記者のスキルが低くて妄想度が高いようだ。

 幸いに、こういう妄想記事を元に、拙速になにかを決断しなくてはいけないという事は少ない。
 というわけで、妄想記事は、まずエンターテイメントとして楽しむのが一番というわけだ。