デジタル教科書導入に必要な実証実験

2013年09月24日 06:26

最近、行き掛かり上、デジタル教科書問題について、記事を書いているが、DiTT(デジタル教科書教材協議会)が、デジタル教科書の、どのような実証実験を行っているのか、気になったので、調べてみた。 その結果、デジタル教科書の試作品を継続的に使った授業実践をしているのではなく、短時間の実証授業を、断片的に行っていることが分かった。

ここでは、その内容の一部を紹介し、実験の問題点を指摘し、先行して導入が進む韓国でのデジタル教科書の実証実験結果を紹介したい。


DiTTは、どんな実証実験をやっているのか

2012 年度、DiTT実証研究プロジェクトレポートを見てみよう。中学2年生の国語の実験授業を見ると、

中学校 2 年生「物語をつくろう」

本時のめあて

教科書に掲載されている 1 枚のイラスト (擬人化された動物たちが描かれている絵本の一場面) について、情報端末で全体や細部の映像を撮影して順番に並べて構成し、それをもとに各自が物語を創り、お互いの作品を交流する。

学習の流れ

学習者は最初に物語のあらすじを書いた。次に、あらすじに即して、情報端末で教科書のイラストの全体や細部を撮影し、それらをスライドショーとして並べて、「電子紙芝居」の映像の展開を構成した。構成した映像をもとに、登場人物のキャラクターに応じたセリフを考え、ワークシートに書き込んだ。試作した作品を 4 名のグループで交流した。(ここまでで、4 時間)

となっている。 

こんなことに4時間使うなんて、馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。中学2年生といえば、漢字も沢山覚えなくてはならないし、読解力も付けなくてはならない。作文も必要だ。 こんなスライドショー作りを授業で4時間も掛けて行うほど、授業時間に余裕はないだろう。 一体何を考えているのか、全く理解できない。

デジタル教科書を、こんなことに日常使っていたのでは、学力が低下することは明らかだ。勉強は遊びではない。呆れてものが言えない。何を考えているのか理解できない。   

他の実証実験なるものを見ても、タブレットを使った遊びといった色彩が強い。こんな授業をやっていたのでは、基礎学力が低下してしまうだろう。

基礎学力を付けるには、訓練が必要だ。たとえば、英語の教科書を毎日1ページ暗記し、それを授業の度に全部書き下すテストし、間違えたら、何回も書き写すといった、地道な訓練をしてこそ基礎学力はつくものだ(これは私が中学1年の頃の英語の授業で実際にやっていたことだ)。学校の授業は、そんなに楽しいものではないのが普通だし、それはそれでよいのである。楽しくなくても、忍耐強く、訓練することでしか、基礎学力は身に付かない。

少なくともDiTTの実証実験を見る限り、デジタル端末を授業で使うとしても、時々、生徒の興味を引くためにつかうくらいで、とても日常的にデジタル教科書を使うというわけには行かないだろうし、電子ブックとして使うとしても、紙の教科書との併用になるわけだから、その場合は、紙の教科書の方がはるかに使い勝手がよいだろう。

また、授業内容を見る限り、教師の側の負担も巨大なものになるだろう。実際、1回の実証実験授業に何か月も前から準備をしているようだ。 

DiTTの実証実験を見る限り、始めに授業内容ありきで、デジタル教科書を道具に使うというより デジタル機器をフルに使うことから授業の内容が決まっている観があり、本末転倒のように見受けられる。

こういった実証実験をいくら繰り返してもあまり意味はないだろう。

本当に必要な実証実験とは

本当に必要な実証実験とは、生徒用デジタル教科書の試作品を用いた、通年の授業案を作り、同じカリキュラムを紙の教科書を用いた対照群との成績の比較をする対照実験だ。

こういう実験が行われているかというと、行われていないようだ。SGRAフォーラム(2012年7月7日)のレポート「21 世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」の71ページを見ると、

日本の学生用デジタル教科書はまだ開発途中だと聞いています。現在モデル学校で使っているのも、すべての教科書が入っているわけではなく、一部だけ入っているそうです。これから開発しても1年ではなく、2~3年以上かかるのではないかという話も聞いています。

とあるからである。 つまり、モデル校でも、教科書の一部しか入っていないものを使っているのである。 

きちんとした対照実験をすることで、初めて、デジタル教科書の教育効果を計測できる。 こういった対照実験を行わずに、短時間の実証授業を行って、楽しい授業だった、というようなアンケート結果を集めても、全く無意味だとしか言いようがないだろう。 見当違いも甚だしい。

真に必要なのは、少なくとも数千人の生徒を使った、大規模かつ長期間の対照実験なので、生徒用のデジタル教科書の試作品が出来次第、実験に取り掛かっても、少なくともあと数年は実証実験が必要だろう。 教育のICT化については、政府が2015年から全国100程度の拠点で実証実験をする方針なので、そこでの結果を待って、デジタル教科書が導入されることになる。当然、成績向上の有無などの教育効果もそこで確認されるだろう。こういう手続きは必須だ.。

韓国における実証実験とその結果

こういった大規模な対照実験は、韓国では行われており、「韓国のデジタル教科書本格利用に向けた有効性実証研究」でその結果の概略を知ることができる。

その結果は、没入度や問題解決能力に効果が見られたものの、学力については、「6年生の科学においては、統計的に有意な差異(p<.05)が見られたが、それ以外では、一部の特殊な場合を除いて、統計的に有意な差異は見られなかった」とある。  実際、SGRAフォーラムのレポート「21 世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」を見ると、韓国のデジタル教科書導入の問題点の一つとして34ページに
 

(5)学力の向上に寄与することが明確でない
 
2007年からデジタル教科書の開発モデル事業を推進して18種のデジタル教科書を開発し、100以上のデジタル教科書の研究、学校を運営した結果、デジタル教科書を活用することが学生たちの学習没入、問題解決力、自己制御学習能力の向上に寄与することが分かった。しかし、学業成績の向上においては、同じ教科にもかかわらず、相反した結果が報告されたり教科別の異なる効果が現れるなど、一貫性のある研究結果が導出されないという実情がある。

とあり、学力の向上には役に立つとは言えないようだ。また同36ページには

韓国のデジタル教科書モデル学校の地域別、成績別の学習効果の分析結果では、成績レベルが高く大都市に住む児童にはほとんど効果が見られなかったが、成績レベルが低いあるいは地方(特に田舎)に住む児童には成績の向上が見られたのである。

とあり、デジタル教科書が有効だとしても、成績の低い児童、あるいは地方の児童にしか有効でないようだ。 確かに、ゲーム的な問題演習などをしていたのでは、高度な学力は身に付かないだろう。 デジタル教科書は、高度な知的訓練には向いていないと言えそうだ。

同様に、韓国におけるデジタル教科書導入に関する意識調査報告書(e-ラーニング戦略研究所)にも9ページに

デジタル教科書に対する肝心の生徒の反応は、「重い教材の持ち運びから解放された」がもっとも多い反面、成績の向上や教育効果の大きな変化は見られないことが明らかとなった。

とあり教育効果は、はっきりしないようだ。

デジタル教科書の費用対効果はどうなのか?

デジタル教科書の導入には、多額の費用が掛かる、韓国の場合小学4,5,6年への導入だけでも2兆ウォン掛かるといわれており、これから考えると、日本で義務教育全体に一斉導入するとなると、少なくとも毎年数千億円の費用が掛かると見るのが妥当だろう。 

現在、紙の教科書は、義務教育全体で400億円ほどの支出であるから、これに比べると、如何に巨大な費用負担かが分かる。 

正直なところ、韓国の実証実験結果を見る限り、学力の向上はあまり望めそうにもない上に、DiTTの実証実験を見る限り、授業のプレゼン化を目指しているとしか思えず、巨額の費用負担に対する、費用対効果と基礎学力低下の懸念から、全力で反対せざるを得ない。  

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