村上隆氏『芸術起業論』を読む

2013年10月17日 09:00

村上隆氏の『芸術起業論』(幻冬舎)は、現代日本を代表するアーティストが、散文の形態でアートを展開したものだ。なぜアートかというと、どうとでも読める深みがあるからである。


これは、アーティストの自己そのものをぶつけた長編散文詩であり、創造活動の社会的関連性を歴史的文脈で深く鋭く考え抜いた成果として、ほとんど哲学書であり、徹底したマーケット分析に基づく起業理論として、優れたビジネス書なのだ。本の表紙に小さく「超ビジネス書」とある。本文には、どこにも超ビジネス書などという言葉は出てこないので、これは、版元の幻冬舎の仕掛けであろう、おそらくは。こんな小さな仕掛けもアートらしくていい。

村上隆氏の有名な主張は、現代アートの市場は欧米の富裕層(金持ち)を主要な買い手として成立しており、その買い手(ビジネスの言葉でいえば、お客様)の嗜好に合わないものは売れない、というものだ。さて、そのお客さんが期待するものは何かというと、村上隆氏は、次の三点を挙げています。「新しいゲームの提案があるか」、「欧米美術史の新解釈があるか」、「確信犯的ルール破りはあるか」

特に、第二の論点がすばらしいと思う。これは、浮世絵によく当てはまる。浮世絵の価値は、外国人が発見したものだ。閉鎖された日本にいては、欧米美術史の流れのなかで、自国の浮世絵を位置づけることはできなかった。当然である。一つの偶然から浮世絵が海外に流れ出したことで、欧米美術史の中での位置付けを得た、それが、アートとしての浮世絵の誕生である。ゆえに、現在の浮世絵の評価は、日本の浮世絵としての評価ではないのだ。欧米美術史の中での浮世絵の評価なのだ。

村上隆氏がアーティストとして行ったことは、浮世絵の偶然を必然に変えることだったのだ。つまり、高度に戦略的に欧米美術史を研究し、そのコンテクストの中に、自己のアートを位置づけることで、「お客さん」のコレクションの先端に、見事に場所を得てしまったのである。だから、村上隆氏の作品は、高値で売れる。

欧米美術史の単なる延長では、高くは売れっこない。つまらないから。「新しいゲームの提案」、「新解釈」、「確信犯的ルール破り」が必要なのだ。村上隆氏は、そのような革新的要素(欧米美術史の流れのなかでの革新的要素)を、日本のマンガ文化、オタク文化の要素を取り入れながら、「スーパーフラット」というコンセプトに纏め上げてゆく。恐ろしく深く戦略的でありながら、高度に技術的な戦術を巧みに使うアーティストなのだ。見事だ。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行

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