山崎豊子さんの「DNA」は不滅

2013年10月01日 00:45

山崎豊子さんが逝かれた。
10月最初のブログで、よもやの訃報を書くことになろうとは。しがない三文ブロガーに過ぎない私がこんなことを書くのも畏れ多いですが、私は学生時代から小説家志望で、山崎さんは新聞記者出身の作家として最も憧れた方でした。ファンの一人として、拙い追悼文を少々書かせていただくことをお許し願いたい。


石井孝明さんが「調査報道めいた小説は印象に残りました」とツイートされていたが、ジャーナリストのファンが多いのも人間の本質を見極めようとする山崎さんの観察眼があったからだと思う。徹底した取材に基づく舞台がリアリズムに満ちているからこそ、戦争や航空機事故などの過酷な運命に立ち向かい、自らの信念を貫く主人公の生き様に魅了されるのだろう。そこに山崎さんの理想が投影されているように思えた。

もちろん山崎さんに対しては賛否両論あるのは承知している。現実と虚構を独特のバランスで描き出す手法はしばしば批判を招いたし、盗作騒動もあった。きのう私がFacebookで追悼文を書いたところ、知人の元記者から「昭和のにおいが強すぎるので10年後は思い出されないのでは」と、もはや作家としての歴史的役割を終えたとばかりに批判的に見る向きもあった。



しかし、山崎さんの持つ作家性は不滅だと反論したい。私は、そのなかに二つの「役回り」を見る。一つは、日本史の中でも最も激動の歩みを見せた「昭和」の語り部だ。その後継候補となると、今年12月に「永遠の0」が映画化される百田尚樹さんだろうか。昨年ベストセラーになり、安倍首相も愛読した「海賊とよばれた男」は、出光興産の創業者・出光佐三をモデルにした主人公の一代記だったが、瀬島龍三をモデルに戦中戦後史を描いた山崎さんの「不毛地帯」を彷彿とさせる興奮を感じた方は多いだろう。

海賊とよばれた男 上
百田 尚樹
講談社
2012-07-12



そして、現代日本の歴史的出来事をフィクションの形を借りて鋭く描く役目は、誰が継ぐのだろう。僕は以前から、「ハゲタカ」でおなじみの真山仁さんを思い浮かべていたが、昨日ツイッターで早速追悼のコメントを寄せていた。朝日新聞の取材に対しては、「白い巨塔」を高校時代に読んで以来、小説家を志したと述べられている。真山さんは私と同じ新聞社の大先輩だが、やはり新聞記者の仕事を選んだのは、きっと山崎さんを意識してのことだろう。真山さんは昨年の「コラプディオ」で原子力政策を巡る政界の暗闘を描き、最近の「黙示」では、TPPの話題で旬の農業と食をテーマに物語を紡いでいる。山崎さんは自らもリアルタイムで見聞してきた事件をさかのぼる一方、真山さんは、現代から近未来を見通すという時間軸の置き方は違う。それでも、「小説を通じて、社会のありようを訴えることができる」(真山さん@朝日記事)という根本は変わらないと思う。

黙示
真山 仁
新潮社
2013-02-22



私にも、もう少し文才があればなあ(泣)実はプロ野球ビジネスをテーマにした経済小説を書きたいとは思って、記者時代の経験や新たに専門家の方にインタビューもして、書き始めてはいたのですが……新聞記事やブログ的な雑文とは勝手が違いますね、小説は。千里の道をまだ一歩も踏みしめてません。

山崎豊子さんのご冥福を改めてお祈りいたします。壮大な物語の数々から数多くの学びや楽しみをいただき、本当にありがとうございました。人生の糧になっています。そして、これからも百田さんや真山さんたちが、山崎さんのDNAを引き継いで歴史的な作品を世に送っていただけると期待しています。復興、TPP、2020年東京オリンピック、そして憲法改正。これからも日本人に問いかける壮大なテーマはまだまだ山積みです。

今日は、しめやかに締めさせていただきます。合掌。

新田 哲史
Q branch
広報コンサルタント/コラムニスト
個人ブログ

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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