オーストリア、2大政党時代の「終焉」の始まり --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアで9月29日、5年の任期満了に伴う国民議会選挙(下院、定数183議席)の投開票が行われた。その結果、大方の予想通り、与党第1党の社会民主党(党首・ファイマン首相)が得票率%27・1%でトップを堅持。それを追って政権パートナー、国民党(党首シュビンデルエッガー外相)が23・8%で2位を守った。社民党と国民党の総得票率が50・9%、99議席と議席過半数をオーバーしたことから、両党の大連立政権が継続されるものとみられる。


選挙戦は、2党の新党が参戦し、これまでにない混戦が予想されてきた。第3党には右派政党自由党が21・4%、42議席を獲得して、前回を3・9%上回る支持を集めたが、社民党と国民党両党の総得票率50%を今回も破ることができなかった。緑の党は予想外に振るわず、11・5%、22議席にとどまった。富豪家シュトローナハ氏が結成した新党「チーム・シュトローナハ」は5・8%、ネオリベラルの新党「NEOS」は4・8%とそれぞれ議席獲得に必要な得票率4%の壁をクリアして議会進出を果たした。一方、極右政治家ヨルク・ハイダー氏が生前結成した「未来同盟」は3・6%にとどまり、連邦議会の議席を失った。投票率は65・9%と、連邦議会選挙としては低く、国民の政治離れが進んできていることを示した。

選挙戦では、国民経済の活性化、年金・教育問題、政党の腐敗汚職問題、外国人問題などが争点となったが、欧州連合(EU)28か国の中でも失業率が低いうえ、国民経済も比較的安定していることから、社民党は年金者、労働者を、国民党は中小企業、経済界を、自由党は若者たちをターゲットに、各政党は選挙戦終盤に入ると、新しい支持層の拡大より、伝統的な支持基盤の結束に力を注いだ。 

ファイマン首相は「得票率(2・2%減)を落としたが、第1党を確保した」と勝利宣言し、国民党との新たな大連立政権発足に意欲を見せた。それに対し、国民党は「連立問題はオープンだ」と述べ、即答を避けた。社民党も国民党も前回より得票率を減らしていることから、「過去5年間の大連立政権に対して国民は批判的だ」と受け取られている。国民の間には「また、同じ大連立政権が5年間続くのか」といった失望感も聞かれる。

例えば、教育問題では、14歳まで一律制学校システムを主張する社民党に対し、国民党は「子供の能力によって自主的に選択できる教育システム」を擁護するなど、教育政策一つとっても両党はまったく異なる。富豪税を要求する社民党に対し、増税反対の国民党といった具合で、大連立政権の場合、抜本的な改革が実行できない事情を抱えている。

新党2党を含む6政党が議会進出を果たしたことから、これまで以上に活発な議論が展開されるだろう。同時に、国民の現連立政権への評価は厳しさを増しているだけに、ファイマン第2次政権がこれまでのように優柔不断な政策を続けていけば、任期5年間を全うできない状況が生まれてくるかもしれない。いずれにしても、戦後から続いてきた2大政党主導の連立政権時代は終わりを迎えようとしている。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月1日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。