JR北海道の経営の深層

2013年10月04日 09:00

JR北海道の経営は、どうなっているのか。深層に横たわる問題は、おそらくは、経営安定基金への依存のうえに、ひたすら北海道新幹線新函館(仮称)開業へ向けて突き進んでいく経営姿勢にあるのではないか。この問題を、同様な条件下にあったJR九州との対比で検討してみましょう。


新幹線と経営安定基金

私は、以前から、JR三島会社(北海道、九州、四国)の経営安定基金に深い関心をもっていました。経営安定基金というのは、基金とは名ばかりで、実態は、巧妙に設計された政府補助金の仕組みです。なぜ関心をもっていたかというと、その巧妙さの故です。一般の国民には知り得ないところで、巨額な政府補助金が支払われていくからくりの見事さには、感心させられます。もちろん、情報開示がありますので、専門的な知識をもった人が努力すれば知り得ますが、そのような人は極めて少数でしょう。

もう一つの私の関心は、新幹線の整備計画との関連です。旧日本国有鉄道の民営化に際して、その旅客部門はJR6社に地域分割されるわけですが、新幹線を中心とした収益の柱の確立していた東日本、東海、西日本の本州3社と、収益基盤が脆弱な本州以外の3つの島の北海道、九州、四国の3社とは、全く別の民営化の方法がとられました。

この3つの島の会社、即ちJR三島会社(3つの島ですから、サントウと読むのです)には、収益基盤不足を補填する目的で、経営安定基金のからくりが設けられたのです。ですから、これら3社にとって、民営化の本旨を全うし、経営安定基金を政府に返還するためには、どうしても新幹線をもつことが悲願となるし、事実、悲願以上の具体的な経営課題となってきたのです。

そして、その悲願を最初にJR九州が達成する。次は北海道という具体的日程の上にあるのが、現在のJR北海道なのです。さて、一連の経営の弛緩とみえる事態は、経営安定基金に安住する経営体質の甘さが原因なのか、逆に、経営安定基金からの脱却を目指すために、新幹線に向けてまっしぐらに突き進んできた経営姿勢の視野狭窄に起因するのか。
 

赤字補填と経営安定基金
 
では、そもそも、経営安定基金の仕組みはどうなっているのか。独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構というやたらに長い名前の政府機関がありますが、あまりに名前が長いので、鉄道・運輸機構と略称されています。この機構は、旧日本国有鉄道の解体と、その後の処理を所管しており、JR三島会社の株式の100%を所有しています。つまり、JR三島会社は、実質的には、民営化されてなどいないのです。あるいは、民営化といっても、名ばかりのものなのです。

経営安定基金は、1987年4月1日のJR三島会社の発足時に、構造的な事業赤字を、その運用収益で補填する目的をもって設定されました。北海道に6822億円、九州に3877億円、四国に2082億円という金額です。合計では、1兆2781億円という巨額なものです。

当時の国債利回りは5%くらいですから、公社債等への安全運用を前提にしたとしても、北海道の例でみれば、年間で350億円程度もの巨額な収益が見込まれていて、それで、事業の構造赤字を穴埋めできるようになっていたのです。経営安定基金の額は、そのような利息収入の見積もりから逆算して、各社の赤字額に見合うように割り振られたものとみられます。

機能維持策という奇計

しかし、5%程度の金利というのは、JR三島会社発足後のわずかな期間だけで、その後は、長期にわたって超低金利が続いているのですから、当然に、辻褄は合わなくなっています。明らかに、政府の誤算です。しかし、原点における前提を覆すことはできない。そこで、奇計をめぐらすわけです。それが、「経営安定基金の機能維持策」というものです。ここで、機能というのは、赤字補填という基金本来の機能のことです。あからさまにいえば、機能維持策というのは、低金利により機能不全とならないように、利子補給を行うというものです。

具体的には、株主である鉄道・運輸機構が、市中金利とかけ離れた高利率の金利で、JR三島会社から借入をするのです。鉄道・運輸機構は、この取引を助成勘定という名前のもとに行っています。具体的な数字は、同機構のウェブサイトに開示されている財務諸表から知ることができます。

なお、余談ですが、この機構の開示は非常に遅くて、2013年3月期の財務諸表が掲載されたのは、つい先週のことです。私は、この論考をもっと早く書こうと思って、ずっと待っていたのですが、その間に、JR北海道の経営問題が表面化してしまったのです。

からくりの秘密

では、鉄道・運輸機構のJR三島会社からの借入条件等は、どうなっているのか。JR北海道の場合、2013年3月末時点で、1750億円の貸付(機構の立場からみたときの借入)があります。その平均金利は、なんと3.75%です。民間銀行等からの機構の借入金利は、1.38%から1.50%ですから、JR三島会社からの借入の補助金的性格は、明瞭です。

なお、残高は、毎期減少してきています。3月期残高推移をみると、2012年2416億円、2011年3050億円、2010年3650億円、2009年4170億円です。金利は、この間も、3.8%前後で安定推移しています。要は、もともと、経営安定基金の資産の過半が、機能維持策に基づく助成事業に運用されていたのです。

では、JR三島会社をめぐる経営環境には本質的な変化はないなかで、なぜ、経営安定基金の機能維持策は、縮小しているのか。それは、さすがに、政府としても、機能維持策を漫然と続けることはできないと考えているからです。

当然に、各社に対しては、経営自立ということが求められてくる。一番明瞭な表現は、JR四国の中期経営計画に見て取ることができます。そこには、はっきりと、機能維持策に基づく鉄道・運用機構への貸付の廃止がうたわれており、真の経営安定基金の自主運用により運用収益を確保していくことが宣言されています。いうまでもなく、これは、政府とJR三島会社の共通認識なのです。

謎に包まれる運用実態

では、現実に、鉄道・運用機構への貸付以外の経営安定基金の真の運用は、適切に行われているのか。私は、資産運用の専門家だから、非常に関心がありますが、その運用実態については、全く開示されていないので、判断不能です。

数字だけをみると、JR北海道の場合、2013年3月期で、経営安定基金の時価総額は、7330億円で、元本の6822億円をかなり上回っています。また、同期の純運用収益は、254億円です。鉄道・運用機構への貸付が、この間、平均して2000億円(期初2416億円、期末1750億円)あったと仮定し、平均金利が3.7%だと仮定すれば、利息総額は、64億円です。そうしますと、経営安定基金の残りの約5000億円で、190億円の収益をあげていることになります。単純に割算して、3.45%です。

なるほど、数字だけをみる限り、機能維持策の廃止へ向けた自主運用の体制はできているかのようです。しかし、JR北海道の場合、構造的に、毎年の事業赤字は約300億円になるのです。この数字は、劇的には変えようがない。ということは、自主運用によって、毎年安定的に4%近い運用収益をあげていかなければならないわけです。運用の専門家として断言できますが、それは、極めて難しい課題です。実際、前年度、190億円もの運用収益が生まれてきた経緯、また、1年間で時価が8.5%も上昇している背景などは、私には想像もつかない。

新幹線開業という悲願

間違いなくいえることは、経営安定基金の運用収益を前提にした経営自立などあり得ないということです。真の経営自立は、現行のJR三島会社のおかれた環境下では、新幹線の整備計画しかないということです。実際、経営安定基金の機能維持策廃止の方向は、JR九州における新幹線開業と連動したものです。

JR九州は、三島会社の優等生で、新幹線開業や、病院事業などの極めて積極的な非鉄道事業の多角化により、事業黒字の定着にめどをつけているのです。もはや、経営安定基金を必要としないところまできています。次は、基金の返還と、株式上場へ向けて、ひた走るだけです。実際、JR九州では、機能維持策による貸付は、2013年3月期で、731億円にまで減っていて、おそらくは、遠からず、完全になくなるのでしょう。

ゆえに、JR北海道にとっては、新幹線が全てなのです。2016年に営業開始が見込まれる新幹線、JR北海道にとっては、それが悲願以上の極めて具体的な達成課題だったのです。しかし、それは挫折した。新幹線開業が挫折したのではない。そうではなくて、新幹線開業だけに傾注してきた経営が挫折したのです。これが、JR北海道の経営問題の深層に横たわるものです。

実は、三島会社のなかでも、完全民営化への最短距離にあった九州と、整備新幹線計画がなく厳しい経営環境の継続が見込まれてきた四国とでは、将来へ向けての取り組みの前提条件が根本的に異なっていたのです。北海道は、その中間にあって、九州に追随することを目指してきたのです。実際、昨年までの中期経営計画には、新幹線開業を梃子とした株式上場案すらのっていたのです。

ところが、2011年5月の石勝線列車脱線事故以来明るみに出続ける一連の不祥事を受けて、現在の中期経営計画は、前回のものとは、全く異なるものになっています。そこでは、安全性の確保と信頼の回復が前面に出る一方で、新幹線開業を梃子とする攻めの拡大策は影を潜めています。もちろん、株式上場計画など、完全に消え去っている。

JR北海道の場合は、もともと、新幹線開業によっても、構造的な鉄道事業赤字の解消のめどはなかったのです。加えて、JR九州のような多角化による収益構造の転換など、なされるべき経営努力も十分になされてきてはいなかった。そのなかで、新幹線開業に注力した経営は、足元をすくわれたのでしょう。

JR三島会社体制の終焉と新しい支援の仕組み

実は、JR三島会社体制は、九州の卒業により、終わったのです。そして、北海道と四国は、しっかりと足元を見詰めた経営自立を目指すことになるのです。

機能維持策を柱とした経営安定基金の運用は、もう終わりです。JR北海道とJR四国は、経営自立のために基金の自主運用体制の強化に取り組むことなります。しかし、不安定な運用収益に依存する経営は持続可能性が低い。そのことは、政府も認識していると思われます。

そこで、この2社には、2011年度から、新しい経営支援策が導入されました。これも、鉄道・運用機構が行う特殊な金融取引の操作を使った仕組みです。それが、鉄道建設・運用施設整備支援機構特別債券というものです。機構の特別事業勘定というもののなかに、見て取ることができます。

まず、JR北海道とJR四国は、機構から無利息で融資を受けます。この無利息融資には、特別な法律の根拠があります。そして、その融資によって得た資金で、同額の機構が発行する特別債券を取得するのです。その特別債券の利息は、2.5%に設定されています。つまり、この利息が、全額補助金となるのです。それにしても、民間部門では断じてあり得ない不思議な循環取引です。

この仕組みの残高は、JR北海道で2200億円、JR四国では1400億円です。つまり、前年度、JR北海道には、この特殊な仕組みを通じて、55億円の補助金が投入されたわけです。要は、前年度についてみると、JR北海道の場合、254億円の経営安定基金の運用収益と、この55億円の補助金を合わせた309億円で、全く同金額の309億円の営業赤字を相殺しているということです。いうまでもないですが、収支が合うように、補助金額を調整するのでしょうから、収支均衡するのは当然なのです。

抜本的再編が不可避なJR二島会社

それにしても、整備新幹線計画のないJR四国はともかくも、JR北海道の場合は、新幹線開業という、これも広い意味では、政府の経営支援策なのでしょうが、その新幹線開業によっても収支均衡のめどが立たず、補助金から脱却できないというのは、どういうことか。

鉄道事業の公共性とも絡め、JR北海道という狭い枠のなかでは、到底、答えの出し得ないことでしょう。JR北海道とJR四国、このJR二島会社については、根本的な立てつけを含めた抜本的改革が不可避なのではないでしょうか。しかし、政府のやっていることは、国民の目の届かぬ鉄道・運輸機構の仕組みのなかで、漫然として問題を先送ることだけのようです。

さて、こうした経営環境が、JR北海道の一連の事故や不祥事の背景にあるとして、その責任は、JR北海道だけが負うべきものなのか。機構や、究極的には政府の責任は、どう考えるべきなのか。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
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