小泉元首相のよくある錯覚

2013年10月17日 21:07

なぜか今ごろ小泉元首相が「原発ゼロ」をあちこちで提唱し、自民党の執行部はあわてているようだ。第1次安倍内閣の生みの親だから、いまだに影響力があるのだろう。よほど重大な新情報でもあるのかと思って彼の講演記録を読んでみると、拍子抜けするほど新味がない。

先日、エネルギーの地産地消が進むドイツやフィンランドの「オンカロ」という最終処分場を視察した。最終処分場は四百メートルの固い岩盤をくりぬいた地下に埋める。それでも原発四基のうち二基分しか容量がない。そもそも今、ごみを埋めても十万年後まで人類がきちんと管理できるのか。

このオンカロ見学が彼の「転向」のきっかけだったようだが、これはよくある錯覚だ。「10万年後も大丈夫か」と言われると大変な話のようだが、10万年は永遠より短い。プルトニウムより強い水銀や砒素の経口毒性は永遠に続くが、大気や海水中に薄めて放出されている。地層処分の安全性は技術的には解決ずみで、もっぱら国民感情や政治の問題だ。

原発を立地してもいいという自治体のためにどれだけの税金を使ってきたか。汚染水対策も廃炉も税金を使わなきゃできない。事故の賠償にこれからどれぐらいかかるのか。原発のコストほど高いものはない。

これもよくある錯覚だ。福島事故は、民主党政権の対応がまずかったために、本来の100倍以上のコストがかかっているが、それでも賠償費用より原発停止の機会費用9兆円のほうが大きい。すでに起こった事故の被害はサンクコストなので、これから原発を建設するときのリスク評価には関係ない。

今後の原発事故のリスクは、確率で割り引く必要がある。かりに原発事故のコストを10兆円とし、同じ規模の地震が今後1000年に1度起こるとすると、そのリスクは10兆円÷1000=100億円/年。これを原発の年間発電量(250TWh=2500億kWh)で割ると、0.04円/kWh。100年に1度としても0.4円で、7~10円/kWhといわれる原子力のコストの誤差の範囲内だ。

もちろん小泉氏のいうように「再生可能エネルギーを資源にした循環型社会」ができれば理想だが、今のところそのコストは原子力の10倍近く、夜間や風のないときは使えない。蓄電技術の効率が今の100倍以上に上がらないと、とても原発の代わりにはならない。技術進歩の可能性はあるが、今の高価な技術に補助金を出すより研究開発を補助すべきだ。

全体として小泉氏の話は、反原発派が事故の直後に騒いだ初歩的な間違いで、彼の発言でなければ今どき話題にもならない。下らない思いつきで、晩節を汚さないでほしいものだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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