公立と私学における医学部の教育意義の違い(上) --- 上松 正和

2013年10月19日 16:10

昨今の教育界では「東北医学部新設」や「国公立入試に人間性の盛り込み」など騒がしい毎日が続いてますが、当の医学部の学生たちは、というと第108回国家試験や卒業試験に励む昔も今も変わらぬ日々を過ごしています。


そのような中、私のブログに私立大学医学部の一部は医師国家試験合格率において異常に高い成績を出しており、一割は落ちるといわれる国立大学の視点から凄いな、とブログに書いたところ、私立大学の中でも最も成績が良い(100%や99%)と指摘した埼玉医科大学の方から書き込みがありました。

たまたま目に留まりました。99とか100が続いているS医科6年です。ここ10年くらい卒業試験は元より、進級試験も相当厳しいものになっています。6年で留年は毎年10人前後です。107回でのストレート合格率は76%とかです。
カラクリは卒業試験が国家試験よりも難しいため、卒試通れば国試はまず大丈夫という縮図です。
因みに進級試験も卒業試験も合格点は65点以上です。卒試と国試という意味では、65点という点数の低さ?でも国試にはパスしちゃっています。
0.1点でも足りなければ情状酌量の余地なく杓子定規で各学年切られます。懇願なんてそんな甘いことはなく再試験は1~4年次で1回のみです。5,6年はありません。恐怖政治ならぬ、恐怖教育ってやつです。
私立医大だけでなく国公立医大からもS医科の合格率の秘訣を聞きに来るそうです。今年は某私立旧設I医科大学がS医科を真似てS医科よりも更に厳しい卒業判定にするそうで見物です。合格率が高いところは絞ってる印象があります。緩~く卒業すればそれは不合格者も多いでしょうということになります。

このコメントに対し「そうかストレート合格率は国立大学よりずっと低いのか。それは良くないことであるし、真似する大学もあるならば更に良くないことであるので、大学は落とすだけの恐怖教育はやめ、厚労省、文科省はストレート合格率(最短6年間での合格者数/入学者数)を示し、現状を是正せよ」とブログで提言したところ、さらに彼からコメントを頂きました(一部抜粋)

勉強してもやはり本試験1発で通らないと再試でもほぼ通らないことがよくあります。
例として、「再試では本試と同じような問題は出さない」といった表面的なことから、深いところでは、「試験に通らない=勉強のやり方・考え方が間違っている・絶対的な学習時間が足りていない」ということが往々にしてあります。
周りの友人や教員から良きアドバイスが貰えないか、または自身でしっかり気づき改善出来なければ負のスパイラルにどんどんはまっていきます。最悪、留年→退学ですが、主に成績不振により失意のうちに退学していったものは先輩・同期・後輩含めて何人もいます。
私見ながら、真の教育とは、こういう者をしっかりサポートし教育すべきと感じてしまいます(医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!)。
また、出来る人は放っておいても勝手にやってるものです。「大学は自らが進んで学ぶ場だ!」な~んて発言もありますが、裏を返せば「教育にあぐらをかいている」とも思えます。自主性ではなく放任しているだけです。
また全国の医学部の多くが某医師国家試験予備校のネット講義などを入れていると思いますが、「大学での教育の意義は?」と思ってしまいます。学生にとっては自分にとって価値あるものを取捨選択し情報収集するだけでしょうが。

テーマは「大学の教育の意義」になると思いますが、ハッとさせられたのはコメント主さんの一言。

医学部に入学させたからには一人前の医師にさせる!

ああ、そういうことか、と気付かされました。ここに私立と国立の2人の学生の感覚の違いが端的に表れていると思います。まず「大学の教育の意義」を

「私立大学医学部と国立大学医学部の顧客の違い」

から議論を進めていこうと思います。

簡単にするため、ここでの私立大学医学部は私立医科大学で例をコメント主さんの埼玉医科大学、国立大学医学部は旧帝国大学で例を私が通う九州大学にしようと思います。

まず埼玉医科大学

顧客(の一部)が学生になっている可能性が高いです(埼玉医科大学の24年度収支決算書)。

医学生は1人当たり6年間で授業料を4350万円+αを支払うことになります。その額を払ってまで私立大学医学部に入学するのは

・家庭内資金が潤沢で医師になりたいと思う方
・親が開業医で初期費用(開業費用)をかけずに家業を継げる方
・金銭的に無理をしてでも医師になりたいと思う方

なので恐らく学生の思いは「早く一人前の医者になりたい。(一部の方は学費以上に稼ぐようになりたい)」でしょう。

学生は顧客になるので大学はなんとしても学生の要望に応えなければなりません。

そうなると、国立大学医学部の学生も受けているビデオ講座の価格は4年生5年生6年生の受講を合わせても10万円を超さないわけですから、彩の国さんがおっしゃるように、国試用に学生に予備校のビデオ講座を受けさせて、学年末試験や卒試だけを難しくするだけのような教育であればその残りの4340万円はどこにいったと訝しむのも当然ですし更に、ストレート合格率も76%となると、それはもはや詐欺的と言っても言い過ぎではないように思います。学生が

「医学部に入学させたからには一人前の医師にさせろ!」

と思うのも当然ですし、大学は学生の要望する「一人前の(稼げる)医師」の養成のために

「勉強についていけない方への徹底したサポート」を加えた上での「国試合格」に加え、「英会話」や「経営能力」などいわゆる「デキる(稼げる)医師」の養成に注力するのが大学の仕事だと思います。

それをせずに「大学は自らが進んで学ぶ場だ」と発言するのは「教育にあぐらをかいている」という以上に

「今の医学部制度(自由な医学部創設が制限されている制度、国民皆保険の現状の診療点数上、医師に一定以上の収入が保証されていること、それで放っておいても受験生達が集まって来ること)にあぐらをかいている」

のだと思いますし、恐らく同じことを続けていると、制度の変更に伴って志望学生の数が激減することぐらいは簡単に予見できます。そのことからも、コメント主さんがおっしゃるように埼玉医科大学は「大学の教育の意義」を示せていないようです。

※明日の(下)へ続く

上松 正和(うえまつ まさかず)
所属:九州大学医学部医学科6年

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