孫正義氏の社会インフラビジネスに対する適性を考える --- 植之原 雄二

2013年10月19日 16:26

最近、アゴラやGERPでは、ソフトバンク社長の孫正義氏(孫さん)のネガティブ評論が目立つ感がある。GERPでは、メガソーラービジネスで厳しい指摘があるようだ。

孫さんは、独特な性格と経歴から毀誉褒貶が多いので、孫さんのパーソナリティと孫さんが関係する組織の問題とは分離する必要があろう。

孫さんは投資ファンドであって、投資家よりも投機家に近い。投機家は物好きでなければ務まらない。それは、ソフトバンクの株価にもよく現れている。


筆者は2000年頃、業務でソフトバンクの株価分析をしたことがある。ボラティリティの大きさに驚いた。筆者もソフトバンクの株主であるが、ソフトバンクのビジネスや製品には全く興味ない。興味はボラティリティだけである。

メガソーラーに入れ込んだ動機は、福島事故以前はエネルギーには興味なかったが今回の事故で突然重要さを感じた、とのことである。何が悲しくてエネルギー事業のようなローリスク・ローリターンで辛気臭い仕事に興味を覚えたのか理解に苦しむ。まさに投機家の特徴、物好きそのものである。

2011年の株主総会では、ソフトバンクの携帯が通じ難いことを気にし、社会インフラとしてのソフトバンクの存在意義を強調していた。通じやすさを求める顧客は、ドコモかAUにして同時にソフトバンクの携帯も欲しくなるような製品役務を提供すればよいだけである。社会インフラのような辛気臭いビジネスにのめり込んで欲しくないのが株主の本音であろう。

案の定、スプリント買収発表で1000円も暴落しジャンク債扱いだ。その後、ガンホーを子会社化すると株価は急騰する。市場は、「夢ばかり見ないで、地に足を付けて堅実に働け。」と言っているのである。

これが本当か検証は簡単ではないが、特許を尺度にするとソフトバンクが社会インフラのようなローリスク・ローリターンの辛気臭い事業にふさわしいかどうか判断できる。

特許権は、自然法則を利用した技術にのみ付与され、存続期間が20年である。自社製品・役務の価値が自然法則を利用した技術の裏づけ不要でサイクルが数年程度であれば、特許など宝の持ち腐れである。

社会インフラのような地味でローリスク・ローリターンのビジネスはビジネスサイクルが長く技術的裏づけが重要である。今日にも撤退するかもしれない技術力0の会社が担当する発電所、道路、鉄道など恐くて使えたものではない。担当企業の特許分析は、その企業の社会インフラ事業に対する適性を判断する道具の一つである。

特許分析は、欲張ると非常に高度な技術が必要となるが、中学生の社会科自由研究レベルでも特許分析はできる。高度な特許分析も最初はここから始まる。

特許電子図書館というシステムがあり、特許実用新案検索の公報テキスト検索から出願人と発明者の出願特許と登録特許を検索できる。

ソフトバンクと競合するドコモ、AU、技術を売り物にしている会社の代表としてトヨタ自動車、技術と社会インフラに定評のある日立製作所、自然法則とは縁遠いみずほ銀行について、2000年1月1日から2013年10月12日までの状況を示す。なお、ソフトバンクは、連結しているヤフーを合計したものとする。

出願人      出願数(売上/出願数)  登録数(登録数/出願数)
ソフトバンク    758(約38億円)      711(94%)
ヤフー株式会社  1,253( - )     979(78%)
(合計)     2,011 (約15億円)    1,690(84%)
KDDI      3,718(約10億円)    1,855(50%)
エヌ・ティ・ティ・ドコモ    8,719(約 5億円)     4,761 (55%)
トヨタ自動車   81,381(約 3億円)    28,996(36%)
日立製作所    54,151(約 2億円)    18,554(34%)
みずほ銀行      183(約60億円)     119(65%)

中学生の社会科自由研究レベルなので、目線は中学生としよう。中学生の特許観は、一山あてて大儲け、でよいだろう。このような特許観のノーベル賞受賞者もいるので、中学生どころか、普通の大人でもこの特許観で恥じることはない。

ソフトバンクとヤフーで登録数/出願数(登録率)、厳密には違うが登録率の目安とする。これが78%と極めて高いことは大きな特徴である。また、1出願に要する売上高(予算)も1桁大きく見える。一山あてて大儲けするには、登録されてこそである。登録率の高さは注目されて当然である。登録率だけ見ると、トヨタや日立よりも特許に熱心で施策も充実しているように思える。

一山あてて大儲けという特許観は、射撃に喩えるとロビンフッドのような百発百中のスナイパー戦術であるが、イギリス長弓兵のように矢衾で相手を圧倒する戦術もある。零細企業はスナイパー戦術しかとれないが、大企業は矢衾戦術がとれる。登録率が低いからといって、日立やトヨタが特許をぞんざいに扱っているわけではない。戦術の相違にすぎない。

特許発明とは独占権のある発明なので素晴らしくて有用な発明と思い込んでいる人も多いであろう。特許法では、登録要件に「素晴らしさ」や「有用性」は求めていない。高度性、産業利用性、新規性、進歩性は登録要件であるが、これらは似て非なる概念である。

特許発明は、自然法則を用いた技術的思い付きにすぎない。思い付きを記載した特許明細書が特許法に定めた要件を満たせば特許登録され、独占権が与えられる。登録率の高さは、発明の良否よりも担当した特許事務所の能力を示す尺度にすぎないと思った方がよい。

「自然法則を用いた技術」と縁遠いみずほ銀行は特許0で当然であるが、これほどの規模になると、悪事と同様に、特許も染み出してくる。登録率は65%と高い。特許に熱心なのであろうか。

特許庁では、トヨタや日立等が雨霰と投げつける難解な明細書に審査官は切れかかっている。拒絶査定しようものなら、やり手弁理士から国民情緒を無視するのかと恫喝され、発明者からは千年恨むと言われる。臨界状態だ。一見さんに近いみずほ銀行など、無用な被曝を避けるために特許事務所も気を遣う。登録率も上がるであろう。そうなると、ソフトバンクもみずほ銀行と変らないという見方もできる。

AUやドコモは、社会インフラ産業に由来しているので、今後は、矢衾戦術に移行すると思われる。ソフトバンクは、そうならないことを期待したい。ボラティリティが上がらないからである。従業員も同じ思いではないか。

孫さんは、その優れたパーソナリティのために、提案が彼の組織に由来するのか孫さん自身に由来するのか、よくわからないところがある。個人の出来ることは限られている。孫さんを批判する前に、彼にぶら下がる人物や組織の特許分析もしたほうがよい。孫さん個人に由来するか、組織に由来するか切り分けができ、批判がより適切になるであろう。

植之原 雄二
無職(デイトレーダー)

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