減車の前に、個人タクシー制度の見直しと、運転手に工夫の自由を!

2013年10月29日 12:12

日本のタクシーの顧客満足度は、英国、ドイツと並んで世界でもトップレベルではないでしょうか?

これが、半世紀ほど前までは乗車拒否は日常茶飯事で「カミカゼ」 「クモスケ」 が横行し、顧客にも運転手にも危険な業界だった事を考えると、日本のタクシー業界の「カイゼン・スピード」は驚異的でさえあります。


その「カイゼン」の一端を担ったのが規制なら、更なる「カイゼン」を妨げているのも規制だとは皮肉としか言い様がありません。

当初の規制が成功した理由は、規制の強化が運転手の労働条件改善や顧客の利便性の向上に直結していたからで、最近の規制改革に問題が多いのは、減増車を繰り返す当局の怠惰にあります。

規制と言えば、タクシー業界の規制緩和の「きっかけ」を創った人物として評価された時期もあったMKタクシーの青木社長を、運輸省(当時)を相手取った訴訟で勝訴した直後に訪ねた事があります。

一面識も無い私がNYから電話で面談を申し入れた処、快く受け入れて呉れた青木氏からは、この稿では書ききれない程の新しいアイデアを聞かせて頂きました。

京都郊外の経営破綻したボーリング場を転用した本社に入ると、自社の経営内容は勿論、競合他社との比較資料が図面やグラフを使って壁一面に張り出されているのを見て、タクシー会社へのイメージがすっかり変ってしまったことを覚えています。

当時のMKは、早朝出迎えにはモーニングコールサービスを付け、全ての車に救急箱を積んだり、社内試験に合格した運転手を英国に語学研修に出し、帰国後は外人の案内役にするとか、体力の衰えたベテラン運転手に配慮して乗務時間を減らしてその分を新人の指導員として活用したり、車の自宅持ち帰りを認めるなど、運転手や顧客本位の企画を次々に打ち出し実行していました。

その為か、出る杭は打たれるの典型でかなりの悪口や批判も耳にしました。

「辞める運転手が多い」という噂について青木社長は「接客などで厳しい規律を課すので、入社後間もなく辞める運転手が多いことは否定しないが、3年続いた運転手は辞めないどころか、他社から契約金つきの引っこ抜きが多く、防戦に苦労している」と説明しておられました。

何れにせよ、当時の青木社長の改革姿勢が、日本のタクシー業界に大きな貢献をした事は疑いの余地もありません。、世代交代した後に採用された「MKシステム」は、二世経営者の留学先のアメリカの悪い物真似や経営エゴの行き過ぎの色合いの濃い労働強化で、このエゴが国や経営側に都合の良い減車政策につながっているのは残念です。

タクシー行政で見本とすべきは矢張り「英国」が第一だと思いますが、特に学ぶべきは運転手の参入障壁の高さと障壁の種類です。

日本のタクシーでロンドンより見劣りするのは、車の構造を別にすると、運転手の地位と地理の知識不足くらいですが、二種免許さえ持っていれば誰でもタクシー運転手になれる現状を改善しないで「減車」一本槍の規制強化では、運転手の地位や接客サービスの向上は望めません。

それに対し、受験資格に過酷な「無事故、無違反」を要求する「個人タクシー」の試験制度は、「カミカゼ」「クモスケ」を追放する為に編み出された名残にすぎず、今や個人タクシーの「既得権化」を生むだけの時代錯誤もはなはだしい制度です。

この際、個人タクシー運転手も含めて「ロンドン式」の運転手資格試験に合格する事と数年毎に更新テストを義務つける制度に変更するべきです。

それが出来れば、業者も安易な規模拡大が難しくなり、有資格運転手の地位向上による経営側とのパワーバランスも改善され、運転手の生活や接客サービスの向上、老齢化の激しい個人タクシー運転手の新陳代謝を促す効果も期待出来ます。

もう一つ提案したい事は、運転手にもっと自由裁量を与える事です。

タクシー運転手はもともと歩合の割合が高く、就業時間あたりの収入を増やす為には、空車と渋滞が大の敵となります。

一方、顧客側の利便性を妨げる問題には、ラッシュ時や雨天などの荒天に空車がない事と疲れ切った夜中に安い料金でタクシーに乗れない「深夜料金」等があり、環境面から見れば、「渋滞時」の消費燃料当たりのGDPの低さも問題です。

処が、現在の料金体系はその全て逆行しています。

渋滞のない深夜こそ「割引料金」を適用し、ラッシュ時や雨天には「割り増し料金」を適用する事がマーケットや運転手、社会の要望に沿うものです。

この工夫なしに減車すれば、顧客の便利性にもGDPにも貢献せず、零細タクシー業者を苦しめ、失業運転手を増やすだけです。

料金体系は「割引」「通常」「割り増し」の3料金制にして、その選択は運転手の経営感覚に任せるべきです。

例えば、渋滞、雨天などの時は、運転手の判断で「割り増し料金」とし、どうしてもタクシーの必要な顧客の為に空車を増やし、同時に時間当たりの運転手の増収も期待出来ると言った具合です。

その結果、判断間違いで収入の減る運転手も出てきても、それは自己尾責任です。環境面でも単位燃料当たりのGDPの増加に貢献します。

一方、深夜には「割引料金」を適用すれば、疲労困憊した顧客の帰宅に便利なだけでなく、夜中の空率を減らし運転手の増収にも役立ちます。同時に夜の空車率を減らし、運転手の増収に繋げる事も可能になり、フェアな競争の強化にも役立ちます。

現在のIT技術を使えば空車マークや客待ちマークの色と料金請求をシンクロすることも簡単で、領収書さえ受け取れば料金を巡るトラブルも簡単に防げます。

「特定地域」に業者の新規参入や増車を一定期間禁止するとか、各社一律にタクシー台数を削減したり、営業時間を制限するなどは既成大手の都合ばかり考えた幼稚そのもの悪法で、そもそも。ローカル色の強いタクシー業を国が監督する事が大間違いで、この規制は一日も早く地方に任せ、運転手の工夫をもっと取り入れるべきです。

「お客様が後、利益が先」の経営が成り立つのは社会主義か官僚制度の国だけだと言う現実を無視した現行の規制の代りに、ここで提案した工夫を採用すれば、独占禁止法の適用除外なども必要ありません。

2013年10月29日
北村 隆司

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