「架空通貨」を考える --- 岡本 裕明

2013年11月05日 07:27

半沢直樹の原作者である池井戸潤氏の著書に「架空通貨」という作品があります。2000年ごろの作品で半沢シリーズではありません。この小説は田神亜鉛という企業城下町で田神札という架空通貨が田神亜鉛の下請けとの決済のみならず企業城下町の末端まで流通している中、その通貨発行量が膨張し、発行元の田神亜鉛が倒産し、企業城下町が壊滅的打撃を受けるというストーリーです。


この小説を読んでいたときは膨張するアメリカドル、そしてアメリカのディフォルトを引っ掛けて考え、通貨発行者の責任とその安定感が如何に重要かということを感じていました。ところが、最近、カナダの新聞を読んでいてバンクーバー地区でもいわゆる架空通貨が一部地域で流行っているという記事を見て、もう少し掘り下げて考えてみる必要がある気がしてきました。

例えばSeedstockという架空通貨がバンクーバー地区では存在します。これを持つ人はSeedstock加盟店で購入額の一定水準(確か5割)まではこの架空通貨を使うことが出来、店舗はそれを通貨として受け、店舗は一定額のSeedstockを非営利団体に寄付、もらった非営利団体はその架空通貨を加盟店で使うという循環システムが設定されています。その架空通貨はカナダドルへの交換も可能となっています。架空通貨を受領した店舗はあたかもカナダドルを受領したものとして税務申告し、カナダ国税ではBarter Transactions(物々交換)という認識をするよう定められています。ただし、この通貨を賃金払いとすることは禁じられているようです。

英語ではcommunity currencyとも称しているこの架空通貨、案外、世界中にあり、また、ネットの世界ではビットコイン(bitcoin)なるものも一定の市場規模を持っているようです。

一番気になる通貨発行量ですが、どこも一定のルールをはめ込み、無制限に発行できないようにしています。つまり、池井戸氏の小説にあるような仮想通貨破綻は起きないことになっています。

むしろ、コミュニティで発行されている場合、通貨のリダンプション(使用できるところ)が通貨発行ポリシーに基づき限定されるため、ローカルビジネスの育成に繋がるという見方もあります。

この手のアイディアは周りを見渡せば案外多いものです。例えば最近はめっきり聞かなくなりましたがブルーチップ、グリーンスタンプやベルマークは日本でかなり昔から普及していた半通貨的存在でした。あるいは現代においてはクレジットカードや飛行機のマイレージなどポイントを通じてモノやサービスが購入できるのも反通貨的存在です。例えばJALのマイレージではあとちょっとで航空券と引き換えられるのに少し足りない、と言う場合あきらめなくてはいけません。ところがパートナーのブリテッシュエアウェーズであれば不足分は購入できるのです。私はBAで貯めてJALで使用しますので少し足りなくてもちょっと追加料金を出せばマイルを無駄なく使用することが出来るのです。

中央銀行の発行する通貨と企業やコミュニティが発行する通貨の最大の違いは使える範囲と両替が出来るかどうかの違いでしょう。例えば上述のマイレージやクレジットカードのポイントは通貨に換えることは出来ません。あくまでも決められた商品の中から選ぶという限られた選択肢であり且つ、一方通行であるのに対して通常通貨は汎用性が圧倒的に高く双方向という特徴があります。だからこそ、その逆転の発想で市場を絞り込む意味合いで仮想通貨は池井戸氏の小説のように企業城下町といった明白に分離できるエリアでは実に使い勝手がよいものになるのです。

通貨も考え方によっては面白い発想の転換もあるかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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