米国IT先端企業が問いかける「一緒に同じ場所で働く」ことの意味 --- 岡本 裕明

アゴラ

日経の電子版にアップルやグーグルが競うように未来型のオフィスの計画を進めているという記事が出ています。宇宙船のような丸い建築物には10000人以上が「収容」でき、廊下では他の部署の人といやおうなく顔を合わせる仕組みを作っているようです。

この記事を読んで気がつくことはありませんか?


アップルやグーグルはITの覇者としてクラウドなどを駆使し、在宅勤務を可能にする仕組みを作り続けました。それは必要な時に事務所で報告や会議に出席すれば後は自宅で必要な作業を進められることでありました。このメリットは忙しくなった個人の時間を有効に活用できる、都市の渋滞などを減らすことが出来、環境負荷が少なくなる、家庭と仕事の両立がしやすくなり、家族関係がより緊密になるなどなど、そのメリットが大きく注目されてきたのです。日本の企業でもその発想を取り入れたところは多く、フレックスタイムやらコアタイムなどという発想もあったと記憶しています。

ところが今回のIT覇者が考える事務所とは事務所に出勤することが前提であります。この時代の流れの微妙な変化を真っ先に捉えたのがヤフーのCEOであるマリッサメイヤー氏でした。同社の人事メモに「われわれは1つのYahoo!になる必要があり、それは物理的に一緒にいることから始まる」として、「6月の初めから、現在在宅勤務契約になっているすべての従業員にオフィスで働くよう依頼する」と書かれています。その変化の理由としてメイヤー氏は「人は1人でいる方が生産性は上がるが、集団になった方がイノベーティブになる」と述べています。この一連の動きは今年の初春だったと記憶していますが、一部で大きな話題となりました。

バンクーバーのダウンタウンには過去20年の間に集合住宅は数百本以上建築されてきました。しかし事務所ビルとなると片手の指で足りる程度しか建築されませんでした。理由は「バンクーバーにビジネスはあらず」で、金持ちがリタイアしたり悠々自適の暮らしをし、セカンドホームの場とも揶揄されたのです。ところが、ここに来て突然事務所ビルの建築ラッシュで少なくとも4本の高層事務所ビルが1、2年の間に一気に完成する見込みなのです。なぜいまさら、とも思うのですが、人はリアルの接点を持ちながら仕事を愉しむのだということがトレンドとして見えてきたのでしょうか? そういう点ではいままでバーチャルの世界にどっぷり浸っていた日本はその発想において大きな方向転換を求められるのかもしれません。

とはいえ事務所スペースは直接的生産性はゼロです。ここで今考えているのは間接的生産能力の問題です。私は2年後を目処にわが社の事務所の変革を計画しています。それは現場との一体化をより近づけるということであります。近代的な高層ビルの中で厳しいセキュリティを潜り抜けてようやく自席にたどり着ける意味は事務所が隔離された特殊な空間になりつつあるということです。

現場との心理的距離感がより遠くなりつつある現実を日本のデベロッパーは考えたことがあるでしょうか? 私はある意味、今の東京で建築される事務所ビルは企業のあり方という点で逆行しているように思えるのです。四角い威圧感のあるオフィスビルの時代はいつか変わるのかもしれません。宇宙船型のモデルが訴えているのはそういう意味ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。