アメリカ経済に差すつかの間の光 --- 岡本 裕明

アゴラ

今週の経済界、金融界は欧米それぞれの発表に注目が集まりました。

まず、欧州ではECB(欧州中央銀行)がその可能性を指摘されていた利下げを行いました。政策金利は0.25%となり史上最低水準となりましたが、ドラギ議長はインフレ率が想定に届かないことを利下げの主因にしています。目標の2%に対してインフレ率は1.5%水準。その目標達成のためには利下げせざるをえなかったというシナリオは二つのことを連想します。


ひとつは欧州は日米と違い、まだ利下げをする余地が残されていたということであります。ただ、欧州も今回が利下げという手法を全面的に使えるほぼ最後の機会で次回からは日米が駆使する金融の量的緩和に代わっていくことになるはずです。

もうひとつはインフレ率はアメリカも日本も目標にはまったく届いていない点を考慮すれば切り上がっていたユーロという通貨を低く誘導する効果を考えていたのか、という疑問点です。これは一部にも報道されています。ただユーロがこのところ買われていた理由はアメリカの債務上限問題や予算問題に起因するところが大きく、ファンダメンタルズというよりセーフヘイブンであったとみるべきです。よって個人的にはドラギ議長がユーロ安を目指すために利下げしたというのは考えすぎだとみています。

一方のアメリカはGDPおよび雇用統計共に事前予想を大幅に上回る結果となりました。第3四半期GDPは2.8%と想定の2.0%と大きくかけ離れました。雇用統計は20万4000人増とこちらも景気回復を裏付ける好結果となりました。これは基軸通貨ドルへの回帰を促し、ドルが買われ、ユーロと円が売られるというシナリオが復活したのであります。株価も史上最高値を更新するという嬉しい状況となっています。

この点からすれば先月のあの予算と債務問題で苦しんだアメリカも「喉もと過ぎれば…」という雰囲気が漂い、ツィッター社の上場と初値の高さに市場は沸きあがり、まさにお祭りの様相すらあるのです。気の早い筋はこれでアメリカの金融緩和からの離脱はやっぱり年内(12月)という声もあがり始めています。

ただ、繰り返すようですが、予算は暫定、債務上限も3ヶ月間だけ延ばしただけです。理由は議員がクリスマス休暇をきちんと取れるためだといったら失礼でしょうか?昨年はゆっくり出来ませんでしたから今年はサンクスギビング(感謝祭)からクリスマスにかけてショッピングを楽しみ、ターキーを堪能することが出来るでしょう。

つまり、アメリカもつかの間の晴れ間、と見るべきでもっと経済全体を俯瞰すべきかと思います。

その際、日欧米共に共通するのはインフレは1%内外であるということです。それなのに中央銀行はなぜ2%のインフレ率を目標とするのでしょう。それは需要と供給のバランスを考えた上である程度の需要過多が心地よいインフレを引き出し、企業の設備投資を促し、消費者に溜め込むことなく一定の需要を促す水準が先進国であれば2%がよいと思っているからです。特に何%でなくてはいけないということではないのですが、経済成長率とも考え合わせればそれぐらいは期待したい、という希望的観測だとしたらどうでしょうか?

ですが、日本は人口減でそこまで達成せず、欧州は社会システムが保守的で再構築に時間がかかるためグローバリゼーションへの対応に後れを取っているように見えます。アメリカは消費大国と言われる中で貯蓄率が2013年9月の統計で4.9%と今年最高水準になっています。使っていると思いきや、案外コンサバな消費性向が低いインフレ率を導いているともいえそうです。

欧州は引き続き雨が降り、アメリカは大雨の後の晴れ間も年明けには再び厚い雲が覆うシナリオがもっともありうるストーリーのようです。私がみる北米はそんなに浮かれた感じにはなれそうにもありませせん。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年11月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。