カジノ法案の問題について --- うさみ のりや

アゴラ

さてカジノ議連の運営やら法案やらが混乱しているとカジノと言えばこの人、木曽さんが吠えていらっしゃいます。

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カジノ法案が問題ありということは木曽さんが前にまとめていらっしゃって(http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8119110.html)、薄々感じていたのですが、読んでみたら案の定でした。私もかつては5本くらいの法律の条文を書いた一応法案作成のセミプロではありますし、せっかくなので、ここでカジノ法の問題点を指摘したいと思います。

<*カジノ法案条文はこちら(http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/6197147.html)>

1.なぜカジノ法を作る必要があるのか

さてまず根本的なことで、カジノを作るのになぜ新しい法律が必要かということについて少しご説明したいと思います。

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法律には「一般法(ある範囲において一般に適用されるルール)」と「特別法(一般法の例外として特定の範囲にのみ適用されるルール)」という概念があります。例えば民法は民事一般に関するルールを定めた「一般法」ですが、会社法は会社関係の取引において特別に適用されるルールを定めた「特別法」です。この一般法と特別法というのは相対的な概念でして、例えば「会社法は民法との関係では特別法」ですが、例えば私の出身の経産省絡みですと最近話題の会社の事業再編をごり押しするための特別なルールを定めた産業競争力強化法との関係では「会社法が一般法で産業競争力強化法は特別法」ということになります。要は一般法が原則で特別法が例外、ということです。他にも本来は独占禁止法で「独占」という行為は禁じられているはずなのに、特許を取れば独占が許されるのは、独占禁止法が一般法で特許法が特別法、というように考えてください。

この一般法と特別法の関係こそ多くの場合、法律が必要な理由です。ある行為が一般法で禁じられている場合、例えば「賭博をしてはいけない」という刑法の規定があるわけですが、これを合法にするには、刑法という一般法自体を改正して賭博そのものを合法化してしまうか、もしくは特別法をつくって「ある条件を満たせば特別に賭博をしても良いことにする」ということが法制論として求められるわけです。


(賭博)

第185条 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。

(常習賭博及び賭博場開張等図利)

第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。

2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

カジノ議連の方々は賭博を禁じた上記の刑法の規定を直接改正する道を取らずに「カジノ法案」という「特別法」を設定する道を取って、上記刑法186条の例外ルールを作る道を選びました。

2. 特別法と保護法益

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(木曽崇氏作成資料)

さてでは特別法を作るときに一番始めに考えるのは「ではなぜ一般法でその行為(今回はの場合は賭博)を禁じる法律があるのか」ということです。その理由を「保護法益」と呼びます。刑法の賭博を禁じる規定に関してその保護法益は散々議論して整理されており、wikipediaを引用しますと

「(刑法185条~187条の保護法益に関する)判例・通説は、公序良俗、すなわち健全な経済活動及び勤労と、副次的犯罪の防止であるとしている(最大判昭和25年11月22日刑集4巻11号2380頁)。具体的には国民の射幸心を煽り、勤労の美風を損い、国民経済の影響を及ぼすからと説明される。他人の財産を保護法益とする説もある。」

とされています。これはあくまで法曹界の通説でして、政府解釈というのは各官庁の倉庫の奥にある「青本」なるアンチョコにまとめられているのですが、まぁそれほど通説から外れることはありません。つまり特別法は上記の保護法益をおかさないように「カジノを営業しても良いけど、かわりに○○という条件は満たしてね」という代替措置を設定する必要があるのです。例えば、競輪法では「競輪をしても良いけど、それは胴元が財政的余裕がある地方自治体の場合だけですよ。運営を民間に任せても良いけど、非営利法人限定ですよ。競輪の収益は社会貢献活動に使うものですからね。」 という構成になっています。競馬法も「競馬は総務省が財政的に余裕があると認める自治体 or 国が100%出資した中央競馬会(JRA)以外やっちゃ駄目ですよ。自治体は運営を”事実上の国である”JRAか非営利法人の地方競馬全国協会に任せても良いけど、やっぱり利益は社会貢献活動に使ってね」という構成になっています。

つまり「総務省が財政上問題無いと認める地方自治体が胴元 × 運営機関が非営利法人(自治体や国の外郭団体含む) × 収益は社会貢献活動に使う」の3点セットが満たされていないと保護法益が守れない、というのが従来の考え方というわけです。この理屈としては、財政に余裕がある自治体や非営利法人ならば儲けに走り過ぎることはないだろうし、収益を社会貢献活動に使うことを義務づけることで社会への悪影響と相殺することができる、というところでしょう。更に言えば自治体ならば警察を所管しているので、賭博場の周りの治安悪化を防止することもできる、という含意がある気がします。

3:カジノ法案の構成について

さてではカジノ法案の構成がどうなっているかというと、「カジノ管理委員会なるものに許可を受けた民間企業は、ある特別な地域でカジノをやっていいですよ。ただし納付金を国と地方団体におさめてね。」というような形になっています。これはこれまでの「公設×非営利機関運営×社会貢献」という原則から大きく外れます。別に保護法益さえ守られていれば、原則から外れること自体が問題というわけではないのですが、それに対する考え方が法案に全く含まれていません。これではそもそもの刑法185条、186条の存在意義を否定することになりかねません。

「民間の活力を使うんだ」

というかけ声は良いですが、では悪徳業者が現れて胴元が不正にイカサマを連発した場合の被害者のお金の扱いはどうするの?、ギャンブルで儲けたお金は企業の自由に使っていいの?、ギャンブル中毒者が現れたら企業側は対策をとらなくてよいの?、そもそも国の指導と企業の見解が対立したらどうするの?、などなどの疑問についてノーアンサーではさすがにちょっとねと。みなさんも親類に突然カジノにはまってすんごい借金して自殺する人が出たら困るでしょ。

新しいスキームを作るからこそ丁寧な議論というものが必要で、それをすっ飛ばして「後のことを先に任せれば良いや」で制度を作るとどうなるかということは、年金制度・医療保険制度を通して我々痛いほど身にしみてるでしょ。警察が厳重に管理しているパチスロ業界ですら伝説の自殺者製造マシンと呼ばれた「ミリオンゴッド」で一時期凄い社会問題になったのに。

民設民営でやりたい気持ちもわかるんですが、それなら刑法185条自体を改正しないと制度的にどうしても無茶が生じるんですよね。そしてそれをやるなら、カジノだけじゃなくて、競輪法、競馬法も全部併せて賭博というものの法的位置づけを全て見直さなければいけないわけです。そしてそれは更にパチンコ行政に飛び火して、風営法の全面改正が必要になってくる。たかがカジノのためにそんな大きな議論で来ませんよね??

そんなわけで、素直に公設民営方式で落ち着かせましょう、というのが私のオススめですが、どうしても民設民営的な要素を残したいなら、純粋民間企業によるカジノ運営はあきらめて競馬法の形式を発展させる形で中央競馬会(JRA)のような組織を官民相互出資(ただし官が黄金株を持つ)の特殊法人としていくつか作って寡占的に業務を行わせて、かつ利益の一定度合いの社会貢献税or納付金を負荷させる、という形式なら法制論的にはイケル気がします。大事な権限は黄金株で官が握っているので、保護法益は守られます、的な感じですね。

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(独り言ゾーン)

・・・・あれっ、でもそうすると賭博法人(仮)に関する通則法が必要になって、競輪法も競馬法も、あとスポーツ振興くじ(toto)まで巻き込んでの公共賭博法制の見直しが必要になるな、、、そうすると経産省も、農水省も、文科省も利権がなくなって反対に回るような。。。。切り崩しでどこかの官庁を味方に付けなければ成立が妨害されるのでは。。。。これはまずいことに気づいてしまったぞ。。。。やっぱりカジノ法案はどう考えてもパンドラの箱なのでは。。。。

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木曽さんの話では、今回は実質的な中身が無い決意表明文程度の法律に修正されて、実質的な論議は官僚も交えて後回しになる二段階方式がとられるとのことなので、願わくばこの意見がカジノ議連の方々に届かんことを祈っております。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「うさみのりやのブログ」2013年11月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はうさみのりやのブログをご覧ください。