労働コストの削減と資本主義の論理

2013年11月21日 09:05

最近、『「賃金上昇」→「デフレ脱却」という好循環を実現できる成長戦略とは?』といったデフレ脱却を唱える議論をよく聞くが、私は、大変奇異に感じている。

なぜなら、資本主義自由経済という現行のシステムでは、現在は、労働コストの削減が求められるのが、自然な状況だからだ。
  


膨張する金融資産残高

Mapping global capital markets 2011によると、世界の金融資産残高の世界のGDPに対する比率は、1980年に109%であったのが、1990年には201%、2000年には321%に達し、2007年には、376%になったのち、リーマンショックで2008年に309%に低下したが、その後盛り返して、現在は、400%に近い値になっているようだ。
世界金融資産とGDP

金融資産残高の成長率は、1996年から2006年の11年間で年平均9.1%と、同期間の世界の実体経済の名目GDP成長率(年平均)5.7%を大きく上回っており、実体経済に対する比率は、1990年の約2.0倍から2006年には約3.5倍へと拡大している。最近、先進国が一斉に金融緩和を続けていることもあり、「世界の株時価総額、6年ぶり最高更新 63兆ドル超」というニュースが示すように金融の膨張は続いている。

だが、金融の膨張は、いずれ限界を迎えるのではないか。事実、2008年にはリーマンショックが起き、金融資産は一旦、大収縮している。 現在、行われている、先進国の大規模金融緩和も、早晩、続けられなくなることは明らかだ。

格差拡大の原因

このように金融資産残高が経済規模の増大より遥かに速く拡大する一方で利潤率は低下している。
 
自己資本利益率

(出典:キーワードで見る法人企業統計

企業は非正規雇用を増大させ、人件費の削減を続けているが、次のグラフが示すように、人件費の削減が、売上高の減少に追い付いておらず、特に製造業では新興国との価格競争のため、生産コストの価格転嫁が難しく、営業利益率は低下傾向にある。
売上高人件費比率

(出典:キーワードで見る法人企業統計

そして製造業から溢れ出た雇用が、サービス産業に流れ込むために、非製造業における売上高人件費比率が、上昇している。 社会全体として生産性が上昇しないのは、このためだ。

このように売上が伸びない状況で資本が利益を生むには、資本家が商品としての労働力を購入するために投じた貨幣(賃金)以上に、労働者が労働することで、利益を生み出すしかない。 分かり易く言えば、労働者を安い賃金でこき使うことによる以外には、資本が利益を生まない状況が生じている訳である。 

正に、これこそが、現在の先進国に於いて格差拡大が起きている原因であり、非正規雇用が増加する原因である。

売上が伸びない中では、企業は投資先を見い出せず、設備投資も低調であり、実質資本の蓄積は進まない。金融資本だけが増大してゆく。その結果、トヨタが営業利益の3割を金融事業で上げているように、主要企業が金融事業で収益を確保するといった事態が生じている。 

資本主義の歪みと物理的制約

だが、このように、労働コストを削減し続ければ、国内市場は縮小する。金融資産の膨張も、やがて限界を迎えるだろう。経済成長、企業収益の増大を至上命題として突き進めば、必然的にこのクラッシュコースを突き進む可能性が高いように思われる。資本主義というシステムが、その歪みを拡大させている。

このコースを避けるには、売上が伸び、生産が拡大し、実質資本の蓄積(生産力の拡大)が進むといった経済成長の復活が必要だ。

ところが、今年の世界経済の成長率は2.7%と低調であり、世界経済は減速傾向を強めている。 石油などのエネルギー資源、鉱物資源、食糧とも価格は高騰しており、以前、「地球の有限性の顕在化と資本主義の機能不全」「資本主義の行き詰まりと格差の拡大」で書いたように、我々は物理的制約に直面している。 

こういった成長の限界が見えている状態で、資本主義という成長を運命付けられているシステムが動き続けると、どういうことが起きるのか、我々は、壮大な実験を行っていると言ってよい。 

このまま進めば、格差の拡大から、中間層が消滅し、社会が二層に分離するだろう。 そして生活困難者の急増から、社会保証費が増大し、絶え間なく増税し続けるか、財政破綻するか、の二者択一が行われることになる。  

長期的には、我々は、新しい社会システムを模索する必要があるのではないか。

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