なぜ景気が良いのか?1980年代との比較でみえる問題点

2013年11月24日 12:56

奇異に感じるかもしれませんが,現在の日本経済の状況はバブル期にきわめてよく似ています。けれども,私達にはそのような実感はありません。この現象の背景には,池田先生の指摘する需要不足があります。

現在の日本経済の特徴がよくわかるので,1980年代後半と比較して考えたいと思います。

1980年代半ば以降の経済と政策の4つの要素として,円高金融緩和,内需拡大(公共投資等),消費税導入があります。


追記:難しいという指摘があったので,最初に簡単に論点をまとめます。

今はバブル期に似た景気の良さで,その要因は公共投資と民間住宅です。ただし,ここでみるのは,消費と民間投資は不足のため,バブル期ほどの高まりがないということです。そして,問題は(1)バブル期後と同じで,来年以降落ち込む可能性があること,(2)景気が良いという認識が持てなくて,さらに拡張政策をとってしまうと反動が大きくなることです。

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簡単に経緯を書きますと,1980年代半ば以降,円高がすすみました。直接のきっかけは,1985年9月の先進5ヶ国財務大臣・中央銀行総裁会議(G5)による,ドル安政策採用のプラザ合意でした。その頃,アメリカは双子の赤字をかかえ,一方で,日本は自動車等の対米輸出が増大して日米経常収支不均衡が生じていました。ドル安政策はその解消策でした。そもそも当時の為替レートは実質的には円安すぎだったので,プラザ合意というきっかけにより急激な調整が始まりました。1985年8月の為替レートは1ドル約240円でしたが,1988年末頃には1ドル124円台にまで円高となりました。

このような大幅な調整により国際金融が不安定化したため,今後は安定化策が必要となりました。そこで,日本銀行は金融緩和を行い,1986年から順次金利を引き下げました。(このときの金融緩和が長引いたことが,バブル経済の主要因だったと考えられます。)

また,日米経常収支不均衡は日米貿易摩擦を発生させました。問題は,その対応策として過剰な内需拡大策が採用されたことです。1986年に前川レポートと呼ばれる(前川春男前日本銀行総裁が座長を務める研究会の)報告書が提出されました。その提言の1つが公共投資を含む内需拡大策でした。そして,1987年の緊急経済対策では4.3兆円の公共事業や1兆円の減税策が盛り込まれました。

消費税については,1988年12月に消費税法が成立し,翌年4月から消費税が導入されることになりました。

下の表は実質GDPといくつかの支出項目の対前年変化率(%)を示しています。1985年~1989年と2011年以降についてです。1985年~1989年をみると,上で示した要素が,統計にそのまま表れています。

円高により輸出が減少する一方で,1986年に公的固定資本形成(公共投資)がプラスに転じています。金融緩和により民間投資(企業設備)が増加し,(相乗効果も加わって)1988年にはプラス14.7%にも達しています。民間住宅はおそらく金融緩和の影響が強いと思いますが,1989年に大幅な落ち込みがみられるので,消費税導入の影響も考えられます。民間消費も上昇し,世の中はバブル景気に沸いていました。

1980

(注)2013は四半期の対前年変化率。Q1,Q2,Q3はそれぞれ,1~3月期,4~6月期,7~9月期。

さて,表下段の2011年以降をみると,動きは1980年代とよく似ていることがわかります。円高で輸出が減少する一方で,公共投資が増加しました。今回は消費税率引き上げが意識されて,2013年の民間住宅が大きくプラスとなっています。消費もプラスで推移しています。

けれども,2点明らかな違いがあります。1つは金融緩和の投資への効果がみられないということです。4月に大胆な金融緩和は始まったばかりだということかもしれませんが,実際には特に2010年10月からの「包括的な金融緩和政策」によって,すでに長期にわたり緩和が行われ続けています。にもかかわらず,1980年代のような民間投資への効果がまったくといっていいほどありません。(この点は,予想に働きかけるのが十分ではなかったという議論も考えられます。)

そして,2つめが消費も投資もその成長率が小さいということです(需要不足)。たとえば,寄与度(各項目の寄与度を合計するとGDP成長率になる)について,1988年と2013年第3四半期(7~9月期)を比較すると,どちらも2%程度現在の方が低くなっています。合計で4%程度で,この4%がバブル期と現在の成長率の違いとなっています。

このように,かつてのバブル期と現在とで,構造的には同じような経済状況なのにもかかわらず,消費と投資の需要不足により成長率が低いままとなっています。

実は,消費税導入の1989年でも消費と投資の成長率はほぼ前年と同じでが,民間住宅と公共投資の落ち込みにより,GDP成長率は前年の6.2%から4.8%へと落ち込みました。現在はバブル経済ではありませんが,同じように経済は動く可能性があると考えています。ただし,今回は需要不足により消費と投資が膨らんではいません。(民間投資は土地のバブル崩壊後の1992年にマイナスへと転じました。)そのため,(公共投資しだいですが)来年の落ち込みは1%程度で収まるかもしれません。

それでも不安があります。それは本当に金融緩和は効いていないのだろうかということです。日米の長期金利はこの半年に1%ほど金利差が拡大しています。一方で,日米の物価指数が逆転という状況が生じ(ロイター,「日米の物価指数が逆転、先進国は低インフレに収れん」2013年11月21日),金利差の拡大はこの動きに反しています。かつては,土地という日本にとっては経済基盤となるもののバブル崩壊が,長引く不良債権問題を生じさせてました。現在の不安は国債です。国債も同じく経済活動の基盤ですので,十分な注意が必要です。

岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)
@tsuri_masao

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