間違いだらけの雇用改革・大学改革 --- Nick Sakai

アゴラ

最近、雇用と大学教育改革を巡る議論が盛んです。苦労人の文部科学大臣が、自分の生い立ちを重ねて、ペーパーテストから全人格重視への大学入試改革を唱えたり。あるいは、規制改革の一環として、いわゆる「解雇特区」構想が出てきたり。でも、こうした議論が今ひとつ噛み合ないと感じますので、私なりに整理させてください。


大学全入時代を迎え、ある意味で日本の新規学卒者全員が、学の高いホワイトカラーの資格を持つに至りました。一方で、経済のグローバル化により、年功序列、終身雇用といった日本型雇用システムは持たなくなってきています。皆が一律に入社して終身雇用のラットレースを全力疾走するのは過去の話となっています。

一方で、海外志向を強める若者が出てきたり、あくせく働くよりは生活の質(Q0L)を高めたいという層が現れています。図に表すと以下のようになります、(1)グローバルマッチョ(海外指向バリバリ系)、(2)伝統的エリート(国内指向バリバリ系)、(3)せか就(海外指向まったり系)、(4)QOL(国内指向まったり系)の4つのセグメントに日本人ホワイトカラーが分かれつつあります。

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実は、昔からTVドラマ「俺たちの旅」の中村雅俊のように、会社で一生縛られるのがいやで、QOLを重視して自由にまったりやりたいと思っている層も多くいたと思われます。しかし、とりあえず大学を出たら国内企業に入社するという横並び指向の中でかき消されてしまっていました。海外雄飛を目指す人間は、外交官試験受験などの例外を除き、とりあえず商社などに就職して、まずは国内で雑巾がけに励んだものでした。しかし、現在では、入社したくても一流国内企業のポジションに限りがあるため、「じゃあ自由にやらせてもらいますわ」と箍が外れてしまい、海外にでたり、外資系企業にいったり、定職に就かない者が現れたりして、多種多様になっているというのが現実です。

このように、ホワイトカラーといっても、もう人それぞれ趣向が違い、違う生き方を歩み出しているのだから、一律に「大学を出た日本人の働き方とは」と議論しても全く無意味ですし、どこにも辿り着きません。それぞれのセグメントに即したキャリア論を展開すべきです。

大規模衣料量販店も国内ネット仮想商店街事業者も全国居酒屋介護チェーン経営者も、まったり国内志向のQOL重視型の人々に、英語を強制したり、自己啓発を煽ったり、管理職精神を植え付けたりすべきではありません。やらされる方には、インセンティブもないし(だからその道を選んだのに)、仮にマインドが高まってもそれなりのポストも処遇も与えられないでしょう。大規模衣料量販店、国内ネット仮想商店街事業者、全国居酒屋介護チェーン経営者のCEOの皆様、あなた方が煽った結果這い上がってきた社員やバイトを、全員を幹部にできるのですか?なんちゃって幹部でなくてリアルに。そうでないならば、意図的に混同して、煽るのはやめたほうがいいです。誰も得しないですし、結局あなた方がブラック企業の烙印を押されるだけです。

大学教育も同じです。大学なんていうのは、所詮学生に付加価値を提供するサービス業なのですから、学生のセグメント別ニーズを捉えて、カリキュラムを整備すべきで、入試議論もそれを踏まえるべきです。みんながみんな、心技体が優れてAO入試に向いているわけではないのです。

文部科学大臣のように、バイタリティ溢れるマッチョな方はどんな試験でも乗り越えるのでしょうが、ひ弱なマジョリティには普通のペーパーテストの方がストレスが少ない場合もあります。一度も海外に出ないで一生を終えるかもしれない国内まったり層にTOEFL試験を課すなんて悪い冗談です。「世界にひとつだけの花」の歌詞を真に受けて、「みんな、必ず一つはオンリーワンで、誰にも負けないところがある」などと日教組的な建前、綺麗事だけで貫こうとするから、AO入試がややこしいことになるのです。そんなにいないですよ、「持ってる人」って。まっとうに個人の努力が反映されるペーパー試験のほうがよほどましです。「人生を一点刻みの試験で決められるのはおかしい」という論理はおかしいです。むしろ、一点まで正確、公正、公平に評価できることに感謝しないといけない。なによりも、落ちたときにきちんと納得してあきらめられる。

雇用規制緩和論議もチグハグです。「解雇規制特区」というレッテルを貼付けてしたり顔の某新聞社の肩を持つ訳ではありませんが、何かおかしいです。バリバリ働いて転職も辞さない優秀層が、未だに終身雇用、正社員のポジションを獲得し続ける一方で、まったり安定思考の人間が仕方なく非正規雇用の仕事しかありつけなくて、五年だ十年だの契約更新のハードルを乗り越えなければいけないのはあべこべです。

本来は、マッチョな人が会社を渡り歩いてキャリアアップする期間限定、安定なし、実力主義、その代わり高処遇という、そういう制度だったはずです。人材派遣法も相当高度な専門職を想定して導入された法律。しかし、実際はそういう人は相変わらず正規雇用で、代替可能な労働者層、人生の安定を望んで地味にいきたい人が非正規雇用に甘んじている現実。これは非常に趣味の悪いギャグです。

日本ほど成熟した社会では、もっと個人の趣向に応じたQOLを高める余裕も、器量もあるはずです。世界指向、国内指向、バリバリ系、マッタリ系、それに応じた別々の高等教育、雇用制度があってしかるべきだ。

そろそろ建前で議論するのはやめて、本音で話し合いませんか?がんばりたい人はがんばればいいし、そうでない人はそれなりにやればいい。私は、それぞれの指向に応じて、WORK & LIFEバランスを達成しようという「スマ働」(スマートに働く)を提唱しています。こうした潮流をつくっていきましょう。どうぞよろしくお願いします。

Nick Sakai
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NPO法人リージョナル・タスクフォース、代表理事
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