ハンガリーでナチス党が蘇った --- 長谷川 良

2013年11月29日 10:26

当方は当コラム欄で「欧州連合(EU)の加盟国28カ国で来年5月、欧州議会選挙が実施されるが、アンチEUの極右政党の躍進が予想される」(「ブリュッセルの『不安』」(2013年10月15日)と書いたが、ハンガリーで従来の極右派政党を凌ぐ過激な民族主義政党が現れてきた。その政党の主張はナチス・ドイツを彷彿させるものがあるのだ。


ハンガリーの首都ブダペストで今月3日、ハンガリー王国時代の執政だったミクローシュ・ホルティ銅像の除幕式が行われたが、同日、ホルティを支援する極右派政党ヨビック関係者と銅像建立に反対してきた左派グループが集まり、路上を挟んでいがみ合ったばかりだ。

その極右派「ヨビック党」から出たアンドラシュ・キシュゲルゲイ(Andras Kisgergely)氏が結成した「ハンガリーの夜明け」という名の新政党だ。その呼称はギリシャの極右派政党「黄金の夜明け」を意識したものだろう。新党はハンガリーが第一次世界大戦後のトリアノン条約(1920年6月)で失った領土を奪い返すこと、国内に潜伏するユダヤ主義に戦いを挑むことを党綱領に掲げているのだ。

同党首は「われわれはハンガリー的、キリスト教民族主義運動だ。党員になるためにはハンガリー人であることを家系図から証明しなければならない。具体的には4世代まで遡り、マジャール人(ハンガリー)の血統継承者であることが証明されなければならない」と表明している。ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党のアーリア人(高貴な民族)純血主義と不気味なほど酷似している。

同党首はまた、「ヨビックの失敗を繰り返してはならない」と説明している。ヨビック党の副党首がユダヤ系血統であったことが判明し、党内で大きな問題となったことを指す。同問題が契機となって党路線問題が表面化し、多くの幹部が党から去って行った。その一人が今回新党を結党したキシュゲルゲイ党首だ。

第一次世界大戦の敗戦国ハンガリーはフランスで開催されたトリアノン宮殿での会議で領土の70%以上を失った。スロバキアはチェコスロバキアに、クロアチアはセルビア側に、トランシルバニアはルーマニア王国にそれぞれ奪われていった。人口は2100万人から750万人と3分の1に縮小した。敗戦国がこれほど多くの領土を失ったケースは過去にもなかった。1939年のミュンヘン協定やウィーン裁定で失った領土を一時回復したが、第二次世界大戦後、それも無効となっている。

ハンガリー国民には今なお、失った領土への愛着心がある。同国の社会学者は「ハンガリー民族は消すことができない喪失感を抱えている」と述べている。オルバン現右派政権が2010年5月、外国居住のハンガリー人に国籍修得の権利を保証する法改正を実施し、隣国ルーマニアやスロバキアから強い反発が起きたことはまだ記憶に新しい。ハンガリーの新党がトリアノン条約の無効を党綱領に掲げていると知った時、ハンガリー民族の喪失感の深さを感じた。

ハンガリーは今日、EUの加盟国だ。民族、国境を越えて共同体社会建設という大きな夢が現在、欧州で進行中だ。ハンガリー国民はその夢を共有していくことでトリアノン条約の痛みを癒していく道しかないだろう。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年11月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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